(※写真はイメージです/PIXTA)

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子どもが就職し、初めて一人暮らしを始めると、親としては「きちんと生活できているのか」と心配になるものです。本人が「大丈夫」と言っていても、家賃や食費、光熱費がかかるなか、若い世代の暮らしにどの程度余裕があるのかは、離れて暮らしているとなかなかわかりません。

「お金はいらないから」何度聞いても仕送りを断った22歳長男

美和子さん(仮名・53歳)の長男・拓海さん(仮名・22歳)は、大学卒業後に就職し、実家を離れて一人暮らしを始めました。

月収は額面で約25万円。勤務先から住宅手当は出ますが、家賃7万8,000円のうち自己負担は約6万円です。

就職が決まった当初、美和子さんは毎月2万円ほど仕送りするつもりでいました。しかし、拓海さんは受け取りませんでした。

「社会人なんだから、自分の給料で生活するよ。仕送りは必要ない」

そう言われ、美和子さんも一度は納得しました。それでも、電話で話すたびに気になることが増えていきます。

「最近何食べてるの?」と聞けば、「適当」。休日の予定を尋ねても、「家にいる」。大学時代には友人とよく出かけていた息子が、社会人になってからほとんど外出の話をしなくなりました。

実家に帰ってきた際も、「服は足りてる」「飲み会は別に行かなくていい」と言います。

ある週末、美和子さんは用事のついでに、初めて拓海さんの部屋を訪ねることになりました。

ドアを開けて驚いたのは、散らかっていたからではありません。むしろ、部屋には驚くほど物がありませんでした。

小さなテーブルと布団、大学時代から使っている収納棚。カーテンは実家から持ってきたものです。エアコンは備え付けでしたが、暑い日にもなるべく使わず、扇風機で過ごしているといいます。

さらに美和子さんが冷蔵庫を開けると、入っていたのは卵、納豆、豆腐、もやし、数日前に作ったという麦茶程度でした。

「昨日の夜は何食べたの?」

「ご飯と納豆。あと卵」

「それだけ?」

「普通だよ」

拓海さんは笑いましたが、美和子さんには「普通」には見えませんでした。

詳しく聞くと、手取りから家賃、奨学金の返還、通信費、光熱費などを支払い、毎月2万円は貯金へ回していました。昼食も外で買えば高いからと、自分でおにぎりを持っていくことが増えていたのです。

「将来何があるかわからないし、今のうちに貯めたいから」

総務省『2025年平均 消費者物価指数』によると、2025年の総合指数は前年比3.2%上昇しました。なかでも「食料」は6.8%上昇しています。自炊を中心に生活費を抑えようとしても、その食材自体が値上がりしている状況です。

「困ってない。でも余裕もない」母が初めて知った息子の本音

美和子さんは、その場で改めて言いました。

「やっぱり少し仕送りしようか?」

しかし拓海さんは首を振りました。

「困ってるわけじゃないよ」

美和子さんが冷蔵庫を指さすと、拓海さんは少し困った顔をしました。

「食べられてるし、家賃も払えてる。ただ、余裕はそんなにないってだけ」

社会人になったのだから親に頼りたくない。そう考える一方、拓海さんにはもう一つ理由がありました。

美和子さん夫婦も50代です。住宅ローンが残り、自分たちの老後資金も準備しなければなりません。

「俺に2万円送るなら、お母さんたちが取っておいたほうがいいでしょ」

美和子さんは、息子が「自分でやりくりできている以上、親からお金を受け取る必要はない」と考えていたのだと気づきました。一方で、毎月5万円を貯めるために食事や交際費まで削る生活を続けることにも不安を感じました。

「貯金も大事だけど、ご飯まで削らなくていいんじゃない?」

その日の夕方、親子で近所のスーパーへ行きました。美和子さんが肉や魚をかごに入れようとすると、拓海さんは「高いからいい」と何度も戻そうとしました。

結局、美和子さんは「今日は私が遊びに来たんだから」と夕食代だけを払い、久しぶりに親子で食卓を囲みました。

その後、毎月の仕送りはしていません。

代わりに、実家から米や日持ちする食品を送る際には、拓海さんが必要なものを自分から伝えるようになりました。帰省したときには、美和子さんも以前のように「お金は足りている?」と繰り返し聞かないようにしています。

「仕送りを断るから余裕があると思っていました。でも、息子なりに必死で自立しようとしていたんですね」

親が金銭的に助けることが、常に正解とは限りません。一方で、「いらない」という言葉だけで生活に余裕があると判断することもできません。

独立した子どもとの関係では、困ったときに相談できる関係を残しておくことも大切です。親子双方が無理をせず、それぞれの家計を守れる距離を探していく必要があるのでしょう。