「皇室典範改正」が驚くほどアッサリと決着した舞台裏…高市首相の政治手腕よりも問題視すべきは駆け引きができない“野党の地盤沈下”
一般人から皇族に身分が変わった旧宮家出身者の息子には、天皇になる資格が与えられるという新制度が今国会で生まれた。性別と出自による差別を禁じた憲法に、いずれも違反する規定が公然とまかり通った皇室典範改正をめぐる与野党の攻防は、一見激しくぶつかり合ったようにも映ったが、ふたを開ければ超短期決戦で決着した。民放の政治部記者は「舞台裏で何か密約でもあったんじゃないかと疑いたくなるほど、あっさりケリがつきました」と漏らす。女性の天皇は認めないが、皇室の血を受け継ぐ民間出身の男性は天皇になることができる――男女平等を否定し、時代錯誤な身分制度を肯定するような国会審議に“密約”が本当にあったのか? 真相を探った。

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どんどんと狭まる選択肢
「この改正のキーワードはズバリ、皇位継承権でした」
全国紙の政治部デスクが、こう打ち明ける。そもそも封建制から民主制に移り変わる中で天皇も側室を持たない、つまり現代では当たり前となっている一夫一婦制が定着。現在の少子化も相まって、天皇の地位に就くことが出来る皇族が限られるようになったことが全ての原点だ。
さらに、歴代天皇には10代8人しか女性がおらず、いずれも男性の天皇の血を受け継ぐ男系であった歴史的事実が、天皇候補の選択肢を狭めている。上皇陛下が高齢化社会に一石を投じるかたちで生前退位を希望されたことで、硬直化した皇室典範の規定に風穴があき、付帯決議で皇位継承の制度疲労に課題が突き付けられた。そこで浮かんできた問題点は、男系男子という伝統の維持か、時代を反映した改革かという構図に見えたが……。
「しかし問題の本質は、保守派が主張する皇室の伝統は本当に絶対的なものなのか、ということです」(同デスク)
前述の政治部記者は「簡単には答えが出ない、こうした皇室制度の難解な問題を先送りにしたい多くの議員は、付帯決議を何とかしなければとは思いつつ、腰が重かった。そこで動いたのが額賀さんでした」と話す。
「額賀さん」とは前衆院議長の額賀福志郎氏のこと。「額賀さんは旧田中派の流れを汲み、自民党で最大勢力を誇った旧平成研でプリンス(後継者)と称され、将来の総理総裁と嘱望されていました。ただ、優柔不断さと度重なる『政治とカネ』の疑惑で脱落。ようやく三権の長の座をつかんだことで発奮したのが、衆院議長として先頭に立ち、皇室典範改正案をまとめることだったんです」(同)
2023年10月、額賀氏が議長に就くと早速、就任会見で「立法府の考え方を整理していく」と明言。翌24年5月に各党各会派による第1回会合を主催した。「そろそろ手を付けなければ」と感じつつも腰が引けていた与野党が、共に背中を押されるかたちで議論を始めたが、それでも大きく動き出すことはなく、一気に前進したのは今年の初め、電撃的な解散総選挙で自民党が歴史的勝利を収めたためだった。
狂言回しは果たして誰が
選挙の結果、保守層を支持基盤とする高市早苗総理主導で皇室典範改正の動きが活発化する。
「額賀さんの後任に就いた森英介衆院議長は、高市総理の後見人でもある麻生さん(太郎自民党副総裁)の派閥幹部ですから、事実上の麻生傀儡です。皇族を妹に持つ麻生さんが皇室の課題への関心が高いのは当然でしょう」(同記者)
「ただし、ここからが問題なのです」と、前述の政治部デスクが語る。
「女性天皇の是非は、暗黙の了解で後回しにされました。高市総理の本音は旧宮家出身者から天皇を生むことが出来るようにすることです。神道政治連盟など保守系団体にソッポを向かれたら、元々、党内に強い支持基盤を持たない高市総理は終わりです。ですから皇位継承権に触れないという建て前を掲げつつ、女性天皇の道は閉じたままで男系男子の天皇については門戸を広げる方向に、水面下で舵を切ったのです」
では、狂言回しを担ったのは誰か。ベテラン政治家秘書は「実は情けないことに、そんな気の利いた人物はいないんです」と苦笑する。衆参両院では通常、与野党が真正面から対峙するこうしたテーマでは「国対族」と呼ばれる、国会対策に長けたプロが与野党で暗躍してきた。
「私はリアルタイムでは知りませんが、かつては自民党の金丸信さんと旧社会党の田辺誠さんが、表面上はガチンコの対決姿勢を見せつつ、着地点を水面下で事前に用意していたというのは、もはや伝説です」(同デスク)
互いに非公式なパイプを持ち、水面下で駆け引きをする腹芸が得意な政治家が少なくなった昨今。
「国対のプロなんて呼べるような政治家は、自民の森山さん(裕元農相)くらいしか、もういません。ですが、森山さんはゴリゴリの保守ではないので、皇室の問題には積極的にかかわろうとしていません」(同デスク)
政治家の小粒化が叫ばれて久しいが、ある検察OBも「何が何でも、国政の最前線からご退場願わなければならないと感じる悪徳政治家といった大物は見当たらない印象だ」と語る。
愛子天皇は「実現させぬ」
先述の検察OBは「悪辣な政治屋が減ったと考えれば、それはそれでいいことだが」と前置きした上で、こう話す。
「近年は大臣まで務めながら、妻の選挙でカネを配って逮捕された議員や、派閥の裏金のキックバックをディズニーリゾートでの遊興費に使っていた議員など、嘆かわしい政治家が少なくない。二階俊博氏や小沢一郎氏など、色々な意味で影響力がある大物政治家がいなくなって、特捜検察が扱う政治案件も比例して小粒化している」
特捜の「エース」とされる検事が捜査費を私的なホテル代に流用し、被疑者の女性と不倫に及んだのは、政界捜査に張り合いがないから……というわけでもあるまいが「政治家のレベルが下がったことと、睨みを利かせる検察に“トンデモ検事”が生まれたこととは無縁ではないのでは」と法曹関係者は苦笑する。
6月10日に公表された「立法府の総意」では「皇室典範に新たに養子に関する章を設ける」として「養子となれるのは、戦後に皇籍を離れた旧11宮家の男系子孫」とのみ言及し、女性皇族が「結婚しても、皇族の身分を失わない」とのみ明示したのと同様に、皇位継承については一切触れていない。
多くの野党議員は皇位継承の審議が保留となったことで「愛子天皇も養子も、天皇になることはない」というのが暗黙の了解と考えていたようだ。前述の政治部デスクは「愛子天皇は実現させないという暗黙の了解を、漏らしてしまったのが中曽根さんの発言です」と語る。その「発言」とは、中曽根弘文元外相が6月28日に富山県内で行われた講演で、愛子さまの皇位継承について「あり得ない」と述べたもの(7月1日配信のデイリー新潮参照)。だが、野党側が“裏”をかかれてしまったのが、養子の子供についてだったというわけだ。
今回、立憲民主党などは国会の会期延長にも言及して不満を表明したが、木原稔官房長官の「立法府における将来の検討を縛るものではない」という政府の単なる常套句のみで「言質は得た」と幕引きに応じた。与党関係者はこう断じる。
「与野党の国対族が暗躍した密約のようなものなど、存在しません。総理の政治手腕にはまだ疑問点も多いのは事実ですが、それ以上に野党の地盤低下、体たらくが露呈しただけの結果というのが、皇室典範改正の舞台裏の実態なのです。皇室の未来は暗澹たるものと言わざるを得ません」
デイリー新潮編集部
