孫正義、三木谷浩史、藤田晋は「いかがわしい」…元LINEヤフー会長・川邊氏が明かした「次に成功する人」の絶対条件

■LINEヤフーの会長室に集結した「武将」たち
意外にも、川邊氏にとっては初の著書である『7つの激変』。その構想が立ち上がったのは、1年前の2025年の春先だった。
「私が1995年に起業してからちょうど30年。その節目に、インターネットという技術がいかにして世の中を変えていったのかを、『こんな面白いことがあったんだよ』と多くの人に知ってほしい、という純粋な動機がありました」
同年5月、川邊氏の声かけのもと、インターネット産業の草創期を知る起業家たちがLINEヤフー社の会長室に集結。この30年間の史実を棚卸し・検証する「ブレスト」からプロジェクトは始まった。
小澤隆生氏(元ヤフー社長、現Boost Capital代表取締役)、川上量生氏(ドワンゴ創業者)、古川健介氏(けんすう、nanapi代表取締役)、児玉太郎氏(元フェイスブック・ジャパン代表)などネット戦国時代の「武将」たちの証言を得ながら、まさに歴史書を編纂するようなプロセスで本づくりは進む。そして最終的に「検索」「動画」「文化」など「7つの物語」の形で一冊に収められた。
■「風が吹けば桶屋がもうかる」ネット史の面白さ
川邊氏の中には、理想像として思い描いていた書籍があった。『世界をつくった6つの革命の物語』(スティーブン・ジョンソン著/朝日新聞出版)。「ガラスの技術がいかに極細の光ファイバーへと進化し、現代の情報社会を支えているのか」など、産業と文明の意外な進化史を超長期視点で解き明かした本だ。
「えっ、あのAという技術が、巡りめぐってZという巨大市場につながったの?」
「出始めの頃は見向きもされなかったあのサービスが、のちの世の中を支配するなんて… …」
そんな「風が吹けば桶屋がもうかる」みたいな話が、インターネット30年の歴史にはゴロゴロと転がっています。SNSしかり、eコマースしかり、ネット広告しかり。当初の想定や期待どおりに進化・発展した事例はほとんどありません。
欲望と、執念と、誰かの思いつき。それらの奇跡的な交錯が、誰も意図しなかった進化を生み、インターネットを「金の成る木」に変えた。そして、世界を変えてきたのです。(『7つの激変』「はじめに」より)
「一過性のトレンドを紙に印字しても、すぐに陳腐化してしまいますよね。だからこそ、『古典』として長く読み継がれる一冊にしたかったんです」
■流行を追う人には、流行はつくれない
そんな、独自の「川邊史観」で綴(つづ)るインターネット産業の30年史。それを一言で象徴するキーワードがある――「いかがわしい」だ。
社会を根底から変えるような技術は、登場した瞬間には理解されません。理解されないどころか、既存の秩序を乱す「いかがわしい」ものとして、普通の人たちから嫌悪され、嘲笑され、ときには石礫を投げつけられる。その宿命からは逃れられません。
換言すれば、起業家とはこの社会的な摩擦に耐え、それでも前へ進む「いかがわしい」者のことを指します。(同書「第7章 起業」より)
インターネット自体が「いかがわしい」技術なら、それに群がったのもまた「いかがわしい」若者だった。だが、そのマグマのような熱狂こそがソフトバンクを生み、楽天を生み、サイバーエージェントを生んだのだ。
「いろんな仕事をして、いろんな人を見てきた経験から、確信をもって言えることがあります。『流行を追う人には、流行はつくれない』。『大丈夫か?』と周囲から心配されたり、眉をひそめられたりする人が、次の流行をつくるんです」

■批判されるたびに「よし!」と思った
川邊氏には原体験がある。同氏が学生起業した「電脳隊」は、いち早くモバイル時代を見越したインターネットサービスを展開していた。当時の電脳隊のサイトでは、携帯電話上で生活に必要なあらゆるアプリケーションを組み込む「Smart Phone」の概念をすでに提唱していた。
「その当時は『こんな小さな画面でインターネットなんて誰がやるの?』と取引先から散々言われていました。でも、そのたびに心の中では『よし!』と拳を握っていましたよ。『この人たちが決裁権を握っているかぎり、モバイルインターネットには参入してこないだろう』って」
既得権者の嘲笑が、インターネット産業における“参入障壁”となるのだ。その後、1999年には「iモード」が登場し、「携帯でインターネット」が当たり前の世の中になった。そして今日、ほぼすべての人の手にはスマートフォンがある。
いつの時代も、「いかがわしい者」こそが次の流行をつくる。その普遍的な真理を、本書は私たちに再認識させてくれる。
■「歴史はくり返さないが、韻を踏む」
SNSでつぶやかれる『7つの激変』の感想でも、ひときわ多く引用される一節がある。「歴史はくり返さないが、韻を踏む」――アメリカの作家、マーク・トウェインのものとされる言葉だ。
これまでの30年間で起こったパターンは、AI時代においても形を変えて起こりえます。
だからこそ、私がこの世界で見てきた失敗や成功の歴史、カオスな時代の歩き方を、これからAIという荒野に向かうみなさんに伝えておきたいと思ったのです。(同書「はじめに」より)
インターネット産業史に通奏低音として流れる「韻」。それが、本書にはさまざまなキーワードとともに示されている。
その一例が「イノベーションのジレンマ」だ。ポータルサイト「Yahoo! JAPAN」は、「コンテンツ・アグリゲーター」(自らはコンテンツを作らず、各メディアから提供を受けた情報を集約して届ける存在)としての盤石な地位とビジネスモデルを築いたがゆえに、SNSに代表される「Web2.0」やスマホシフトへの対応の時機を逸した。
また、違法アップロードだらけの「無法地帯」だったYouTubeが熱狂の中心地となる一方、最初から安全でクリーンな場所を掲げたヤフーの動画サービスは、結果としてユーザーの支持を得られなかった。そこから導かれる冷徹な教訓が「清き流れに魚棲まず」だ。こういった「敗戦の弁」まで赤裸々に語られているのも、本書の特徴だ。
■「AI屋がやる○○ビジネス」は必ず勝つ
さらにもうひとつ、インターネットの史実から導かれる「韻」が「ネット屋がやる○○ビジネスは、○○屋がやるネットビジネスに必ず勝つ」という法則である。リアル産業のプロがネットに進出するより、ネットのプロがリアルに進出するほうが成功確率ははるかに高い。最大手の書店がAmazon(アマゾン)になれず、百貨店が楽天になれなかった理由が、この一行に凝縮されている。
ところが川邊氏は、この「ネット屋」を連戦連勝に導いた必勝パターンが、これからは皮肉にも自分たちに刃を向けるという。つまり、「ネット屋がやるAIビジネス」よりも「AI屋がやる○○ビジネス」が必ず勝つという、新たな法則への転換だ。
なぜなら、私たちが30年かけて築き上げてきた「PVの稼ぎ方」「UI/UXの最適解」「広告モデルの収益化」といった“成功の方程式”こそが、AI時代には不要な「足かせ」となるからです。
かつて私たちは、壁の外側から中の人たちを「既得権益」「オールド・エコノミー」と呼び、戦ってきました。そして、彼らが過去の成功体験に縛られている様子を冷ややかに見ていたものです。
しかし、市場規模が約30兆円にも達したいま、インターネット産業こそがまぎれもない「既存産業」であり、守るべき「既得権益」です。(同書「おわりに」より)

■大企業トップから「1人起業」のワケ
インターネットビジネスにおける必勝パターンは、これからのAI時代には通用しない。その歴史の「韻」を長期的視点で読み解いた川邊氏だからこそ、本書の「おわりに」では読者にこう問いかける。
ここまでの話は、いったんきれいさっぱり忘れてください!
(中略)感想だけ胸にしまって、そのほかの情報は、即刻アンインストールしてください。(同書「おわりに」より)
読後感に浸っている読者にとっては「ちゃぶ台返し」のような衝撃的な一言だ。が、ただ読者を突き放すだけではない。
というのも川邊氏自身が、これまでの成功体験を捨てる「アンラーニング(学習棄却)」をいち早く実践しているのだ。LINEヤフー会長職を辞してすぐ「AIソロプレナー」を名乗り、文字どおり「AIオールイン」に振り切っている。
新たに設立した会社の社員は、本人ただ一人。都内の築50年の1DKマンションにこもり、ひたすらAIと向き合う日々を過ごす。

■「この驚きと興奮は、まさにインターネット以来」
「『新しいぶどう酒は新しい革袋に入れるものだ』という聖書の言葉がありますが、まさにそれです。もうできあがってる人間や組織に対して『AIを入れ込む』のは本当に難しい」
まさに、自らを「新しい革袋」に新調し、新たな酒を醸し始めた川邊氏。その決意は、すでに『7つの激変』でも語られている。
キャリアの大部分を過ごしてきた愛着のあるLINEヤフーを離れ、肩書を捨て、もう一度自分を身軽な個人に「初期化」します。過去の実績も成功体験も捨て去り、それこそ転生するくらいの勢いで、AIという荒野に裸一貫で飛び込みます。(同書「おわりに」より)

約3万人の大企業の会長が、一夜にして1人の「ソロプレナー」に。インターネットビジネスの最前線での戦いを終えてなお、裸一貫でAI時代に挑む、川邊氏を掻き立てるものは何なのか。
「それは、おもしろいからですよ。単純におもしろいから。それだけです」
こちらが拍子抜けするほど、川邊氏はあっけらかんと答える。そして、こう付け加える。
「この驚きと興奮は、まさにインターネットが出てきたとき以来なんですよね……」
■AIという荒野を耕し続けるのは誰か
学生時代にはじめてインターネットに出会い、触れたときの、あの興奮。それを肌身で体感しているからこそ、30年が経ったいま、AIがもたらす衝撃を誰よりも敏感に感じ取っている。そして、AIの底知れない可能性に、誰よりも胸を躍らせている。
私たちが身を置いてきたインターネット産業の30年は、おそらく人類史上稀に見る、奇跡のような「ボーナスタイム」でした。
(中略)私を含む幾多のプレーヤーたちがその恩恵を最大限に享受することで、この国にインターネットという新しいインフラを根づかせることができたのです。
そしていま、私たちの眼前には、AIという新たな「更地(フィールド)」が広がっています。
(中略)次の30年、この荒野を誰よりもしつこく、いかがわしく耕し続けられるのは、いったい誰でしょうか?(同書「第7章 起業」より)
このメッセージは、読者への問いかけであると同時に、自らにかけた発破でもあったのだ。
「もう、AIが愛しくて仕方ないんですよ! 一生懸命考えてくれるし、かと思えば、めちゃくちゃポンコツに間違えたりもするし……」
そう言って無邪気な笑みを浮かべる川邊氏。その表情は30年前、1枚の企画書を手にキャンパスを回って起業仲間を口説いていた、21歳の大学生のそれと同じなのだろう。
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川邊 健太郎(かわべ・けんたろう)
前LINEヤフー代表取締役会長
1974年生まれ。青山学院大学在学中の1995年、インターネットベンチャーである電脳隊を起業。5年後の2000年ヤフーに事業を売却し、Yahoo!モバイル担当プロデューサーとして入社。2012年副社長COO、2018年代表取締役社長、2023年代表取締役会長。2026年6月の退任後は、「AIと起業」の分野での新たな挑戦を予定している。著書に『7つの激変』(東洋経済新報社)がある。
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堀尾 大悟(ほりお・だいご)
ライター
慶應義塾大学卒。埼玉県庁、民間企業を経て2020年より会社員兼業ライターとして活動を開始。2023年に独立し、ビジネスメディアを中心に執筆。ブックライターとしてもこれまで30冊以上の書籍を担当している。
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(前LINEヤフー代表取締役会長 川邊 健太郎、ライター 堀尾 大悟)
