「劣化させたくないから走らない」の大カン違い

 まわりを見ると、高齢でもいつも元気で若々しい人がいるかと思えば、不健康で病気がち、見た目も実年齢よりかなり老けて見える人もいる。もちろん、生まれつきの体質や遺伝、あるいは疾病などとも無関係ではないだろう。しかし、定期的に健康診断を受け、日頃から運動を欠かさず、食事などに気を遣い、健康的な生活を送っている人と、そうでない人を比べれば、どちらが老化が早く、寿命が短いかは論じるまでもない。

 クルマもまったく同じことが言えるはずだ。ろくにメンテナンスもせず、不適切な扱いや運転を繰り返していれば短期間で劣化が進み、短命は避けられないだろう。

 まず、多くの人がカン違いしているのが、できるだけ使わなければ=走らなければ、という考え方だ。

 依然、クルマを売却する際の査定額が、走行距離の少ないクルマほど有利な傾向にあることも、こうした誤解を生んでいる一因かもしれないが、クルマはオブジェではない。さまざまな箇所で複数の部品を組み合わせて作動させる、あくまでも”機械”だ。長期間動かさない状態が続けば、至る場所に不具合を生じるのも無理はない。

 よく「人が生活していない家屋は室内の空気の循環がないため、カビなどが増殖しやすく劣化が早い」という話を聞くが、感覚的に近いかもしれない。

シリンダー内に傷を刻む”ドライスタート”

 たとえば、クルマの心臓部であるエンジンは、およそ1万点にも及ぶ金属部品で構成された精密機械。すぐれた潤滑性能などを持つエンジンオイルは必要不可欠だ。

 ところが、エンジンを動かさない期間がしばらく続くと、部品と部品とのあいだに形成されていたオイルの被膜(油膜)が落ち切ってしまう。とくにシリンダー内は深刻で、その状態でエンジンを動かせばピストンの上下動で内壁が摩耗。圧縮漏れを引き起こす。”ドライスタート”と呼ばれる行為で、同様のことはカムシャフトやバルブまわりでも起こる。「エンジンの寿命を縮める原因の約8割」と言われ、油膜が落ち切るのは「およそ1週間」とも。

 同様のことは、歯車をはじめ、多数の金属製部品で構成されているトランスミッションやデフでも起こると考えていい。

ウォーミングアップは「走りながら」が鉄則

 一方、クルマの重さによる各部品への負荷も、長期間クルマを動かさないことによる弊害だ。たとえば、前後左右の車軸に組み込まれているベアリング(転がり軸受け)に長期間かつ局所的に車重が加わって変形してしまうことがあり、最悪、タイヤも部分的に凹んで走行中に大きな振動を発生する。すぐに元に戻るというものではなく、長期にわたる振動は不快なだけではなく、ベアリングやサスペンション以外にも、車両全体に伝わって寿命を縮める原因になる。

 なお、自動車の工作精度は、かつてから飛躍的に向上。最近は「新車の慣らし運転は不要」とする説が有力だ。それでも、エンジンやトランスミッションの内部、ブレーキやサスペンションなど、初期段階に複数の部品同士を馴染ませる目的で、速度・負荷を抑えた丁寧な運転を1000km程度は心がけたほうが望ましい。少なからず、後々のグッドコンディションとロングライフを期待できるはずだ。

 誰でも起き抜けに全力で走るのはキツい。無理をすれば身体を痛めるだろう。クルマも同じ。ウォーミングアップ=暖機は欠かせない。文字どおり機能部品を暖めることを言い、エンジンであれば、負担をかけず、冷え切ったオイルを十分に暖めて内部をくまなく潤滑させ、部品の摩耗を防ぐことなどが目的だ。

 また、金属製のピストンやシリンダーなどは、燃料を爆発させた際の熱で膨張(=熱膨張)することまで考慮して寸法などが緻密に設計されている。つまり、エンジンが冷えた状態ではまだ正常に作動させることができず、無理にまわせば部品に負荷を与えて摩耗を早め、本来の性能を引き出せなくもなるということ。

 もっとも、完全に暖まるまでアイドリングを続けるのはNGだ。排ガスを浄化するための触媒は熱を持たないと機能しない。触媒が冷えた状態での長時間アイドリングは、周囲に有毒ガスを撒き散らすのに等しい行為だからだ。

 エンジンを始動したらすぐに走り出して低回転・低速をキープし、走りながら暖機すればいい。これは、走らないと暖まらないトランスミッションやデフ、サスペンションなどのウォーミングアップも兼ねていて、一石二鳥と言える。

 同じく避けるべきは、短時間/距離の移動ですぐエンジンを止める、いわゆる”チョイ乗り”。たまのことなら神経質になる必要はないが、暖まる前にエンジンを止めてしまうと、燃料の濃い状態が続いて燃焼効率が悪化、内部に燃料の燃えカス(スラッジ)が蓄積しやすくなる。エンジンの調子を落とし、寿命を縮めることにもつながるのだ。

※本記事は雑誌「CARトップ2025年9月号」の記事を再構成して掲載しています