※画像はイメージです/PIXTA

写真拡大

年金暮らしの88歳の母が急逝し、遺品整理で3冊の預金通帳を見つけた58歳の次女。几帳面だった母の通帳の残高が合計80万円しかなかったことに、ただならぬ不審感を抱きます。取引履歴の確認から発覚した不自然な引き出しと、残された3姉妹に待ち受けていたものとは……。親の財産管理に潜むリスクと相続問題について、弁護士法人山村法律事務所の代表弁護士・山村暢彦氏が解説します。

「こんなに少ないはずない…」几帳面だった母の通帳残高はわずか80万円

「嘘でしょ、こんなに少ないはずない……」

3姉妹の次女のユミコさん(仮名・58歳)は、実家の片付けで見つけた3冊の預金通帳を見つめ、ある違和感を覚えていました。

先日、一人暮らしをしていた88歳の母が突然倒れました。脳梗塞と診断され、入院後わずか1ヵ月で亡くなりました。母の世話は、車で30分ほどの距離に住むユミコさんが一手に引き受けていました。

葬儀には、遠方に住む長女(61歳)と三女(55歳)も駆けつけました。

しかしその後、遺品整理で見つけた母の通帳を記帳したユミコさんは目を疑いました。3冊合わせても、残高がたった80万円しかなかったのです。

母は几帳面な性格で、年金や生活費をきっちりと管理していました。生前、「200万円はユミコのために取ってあるからね」と漏らしていたことからも、現実の残高とあまりにも食い違っていることが引っかかっていました。

不審に思ったユミコさんが取引履歴を確認すると、母が入院した直後から、ATMで10万円、30万円、50万円と立て続けに現金が引き出された形跡がありました。入院中の母が自分で引き出せるはずがありません。

「ねえ、お母さんの通帳から、入院中に何度もお金が引き出されているんだけど……」

実家に集まった際、姉と妹に問いかけると、しばらく沈黙が流れました。

「ごめんなさい…」長女の告白と、修復不可能な“3姉妹の亀裂”

やがて、長女が重い口を開きました。

「ごめんなさい……。お母さんのキャッシュカードを預かっていて、私が引き出したの」

長女は以前から母に暗証番号を教えられており、口座も凍結されていなかったため、ATMで現金を引き出すことができたのです。

数年前に離婚してパート収入のみで生活費に困窮していた長女は、母が入院して管理の目が届かなくなったのを機に、無断でお金を引き出していたのでした。

「いくら生活が苦しいからって、勝手にお金を引き出すなんて信じられない!」

事情を聞いた三女は激昂しました。「引き出した分は全額遺産に戻して。できないなら法的な手段も考える」と詰め寄りますが、長女に返せるお金はありません。

実家という築50年の不動産は残っていますが、すぐに売却して現金化するのは困難です。結局、話し合いは決裂し、3姉妹は険悪な雰囲気のまま実家をあとにしました。

「お母さんがこのことを知ったら、どれほど悲しむだろうか……」

本来なら思い出を語り合うはずだった姉妹の関係には、お金を巡る疑念によって修復不可能なほどの亀裂が入ってしまいました。

【弁護士が解説】無断で引き出された預金の返還請求と「遺産分割」による解決法

今回のケースでは、本人の意思に基づかず預金が引き出されていたのであれば、他の相続人から不当利得返還請求や損害賠償請求などが検討される可能性があります。

しかし、実際には請求できる権利があることと、回収できることは別問題です。引き出した相続人に十分な資力がなければ、判決を得ても現実には回収が難しいケースも少なくありません。そのため、相続実務では法的責任を追及するだけでなく、残された遺産をどのように公平に分けるかという視点から解決を図ることもあります。

本件であれば、長女による預金の引き出しという事情を考慮し、残された不動産を他の二人の相続人が取得するなど、遺産分割のなかで実質的な公平を図る方法が検討されることになるでしょう。

もっとも、このような事態を防ぐためには、高齢の親の財産管理を一人の家族だけに任せきりにしないことも重要です。今回のように意図的に預金が引き出されていた場合、本人が気づけないまま被害が拡大してしまうこともあります。

親の預金や財産については、定期的に通帳や取引履歴を確認するなど、家族全体で見守る意識を持つことが、不正利用の早期発見につながります。相続で本当に守るべきものは財産だけではありません。

家族の信頼関係を守るためにも、高齢になった親の財産管理のあり方を早めに話し合っておくことが大切だといえるでしょう。

山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士