高卒3年目で無敗の快進撃、ドラ5右腕は158キロ…球界を驚かせた3投手が覚醒した理由
ブレイクは、必ずしも入団直後に訪れるとは限らない。期待通りに伸びる選手もいれば、下位指名から一気に評価を覆す選手、遠回りの末に居場所をつかむ選手もいる。レギュラーシーズンが折り返しを過ぎた今年のプロ野球では、異なる道をたどってきた3人の投手が、それぞれの形で存在感を示している。今回は、7月21日終了時点の成績をもとに、その飛躍の背景を探った。【西尾典文/野球ライター】
【急成長】高卒2年目でチームにとって欠かせない存在となった西武・篠原響投手の姿
明らかに意識が違う
パ・リーグで真っ先に名前が挙がるのは、高卒3年目の前田悠伍(ソフトバンク)である。大阪桐蔭では1年秋から主戦を務め、選抜高校野球大会優勝、明治神宮大会連覇、U-18ワールドカップ優勝を経験。2023年のドラフト1位でソフトバンクに入団した。

ただ、プロ入り後の2年間は一軍で4試合の登板にとどまり、1勝1敗、防御率6.91。期待通りのスタートとはいかなかった。転機となったのが今季である。5月以降に先発ローテーションへ加わると、10試合で7勝0敗、防御率1.55と結果を残している。前田の躍進について、球団関係者はこう語る。
「元々投球術や制球力は高校生とは思えないものがありましたが、一軍のレベルではストライクゾーンで勝負するだけの球威がなかった。そこで簡単に技巧に頼るのではなく、自分の課題にしっかり取り組み、明らかにストレートの質が良くなりました。野球に取り組む姿勢はコーチ陣の誰もが絶賛するほどで、他の若手選手と比べても明らかに意識の高さが違うように感じます。昨年秋に左肘を手術した後のリハビリ、トレーニングにもしっかり取り組んでいました。まだまだ伸びると思いますし、球界を代表する投手になってもらいたいですね」
48奪三振のうち、ストレートで奪ったものは22個。全体の半数近くに達しており、課題だった直球の改善を数字が裏付けている。
近年のソフトバンクでは、ドラフト1位で入団した選手が思うように主力へ育ってこなかった。前田がこのまま勝ち星を積み重ねれば、長く待ち望まれてきたエース候補となる。
早い段階で先発に転向する計画も
前田よりさらに若く、高卒2年目で早くもチームに欠かせない戦力となっているのが篠原響(西武)だ。昨年はルーキーながら二軍でチームトップタイとなる8勝をマーク。シーズン終盤には一軍のマウンドも経験した。今年は開幕一軍入りを果たすと、勝ちパターンの中継ぎに定着。ここまで31試合に登板してチームトップとなる23ホールドをマークしているのだ。5月9日の楽天戦では自己最速となる158キロをマークするなどスピードは既に一軍でもトップクラスであり、また制球力の高さも大きな武器だ。
そんな篠原は、前田のように高校時代から輝かしい実績を残していたわけではない。福井工大福井では甲子園出場もなく、3年夏も福井大会の準々決勝で敗れ、ドラフト5位での入団だった。高校時代の実績やドラフト順位を考えると、これほど短期間で一軍の戦力になると予想していた関係者は多くなかったようだ。
「高校の時から体の使い方が上手く、調子が良い時は140キロ台後半のボールを投げていました。ただまだまだ細く、スタミナや変化球も物足りない。大学に行って評価を上げた方が良いと考えていたスカウトも多かったと思います。ただ、後から聞いた話ですが西武は夏の大会が終わった後も熱心にチェックして、そこでの成長ぶりを評価して指名を決めたそうです。大学に入って急に伸びる選手もいますが、篠原はそれがさらに早かったということでしょう」(他球団の北信越地区担当スカウト)
今年はここまで中継ぎとして起用されているが、オリックス時代の山本由伸(ドジャース)のように、早い段階で先発に転向する計画もあるという。高橋光成、平良海馬はメジャー志向が強い。将来の先発陣を担う投手として、球団が篠原に寄せる期待は高い。
真価が問われるのはむしろここから
前田と篠原が早い段階で頭角を現したのに対し、山野太一(ヤクルト)は遠回りを経て現在の地位をつかんだ。
高川学園から東北福祉大を経て、2020年のドラフト2位で入団。即戦力と期待されたが、故障に苦しみ、2年目のオフには育成契約へ移行した。その後も思うように登板機会を増やせなかったものの、昨年後半に5勝を挙げて流れを変えた。
今季は開幕から先発ローテーションを守り、序盤に4連勝。チーム最多の8勝を挙げ、投手陣の中心を担っている。成績を一気に伸ばした要因について、他球団のアナリストは次のように分析する。
「ストレートの球速も上がっていますが、それ以上に大きいのが打ちとるパターンを確立できたことではないでしょうか。スピードがあって小さく変化するワンシームはカウントをとるのとゴロを打たせるボール。スライダーとフォークは少し変化が大きく、空振りを狙う。それぞれのボールの意図が明確になったように見えます。自分の持ち味、持ち球の特徴をしっかり整理できていますし、色んなパターンで勝負できる。相手からすると、狙い球を絞りづらく、対策が難しいタイプのピッチャーだと思います」
6月以降の勝利は1勝にとどまる。それでも、先発した全試合で5回以上を投げ切っており、試合を大きく崩してはいない。
ヤクルトは7月に入って急失速した。Aクラス争いに踏みとどまるには、山野がローテーションを守り、安定した投球を続けることが欠かせない。
前田、篠原、山野は、入団時の評価から現在の立場に至るまで三者三様である。前田は直球の質を高め、篠原は想定を上回る速度で成長し、山野は故障や育成契約を乗り越えて自らの投球スタイルを確立した。
現在の成績だけを見れば、突然現れた新星のように映るかもしれない。しかし、その背景には、それぞれが課題と向き合い続けた時間がある。今季限りの活躍に終わるのか、各球団の投手陣を背負う存在へ進むのか。3人の真価が問われるのは、むしろここからである。
西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。
デイリー新潮編集部
