本国アメリカでは店舗が消滅した「タワーレコード」が日本で生き残っている理由、日本の音楽市場の「特殊な構造」

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アメリカ発祥の大手CD・レコードチェーン店で、1979年に日本に上陸し、全国に70店舗以上展開している「タワーレコード」。CDショップの代表格として業界をけん引するタワーレコードだが、今年に入ってから閉店のニュースが相次いでいる。タワーレコードは、本国アメリカでは2006年に運営会社が経営破綻し、実店舗としての全米展開はすでに終了。

CD不況のなか、業界最大手のタワーレコードは2024年に過去最高益を記録したが、そんなタワーレコードですら閉店ラッシュとなってしまっている現在。タワーレコードはなぜCD不況のなかでも生き残ってこられたのか。そしてCDショップは今後どういった存在へと変化を遂げていくのだろうか――。

記事前編は【「タワーレコード」の閉店ラッシュが止まらない…現役CDショップ店員が明かす、いま売り場に起きている「異変」】から。

音楽社会学者が分析するCDショップの現状

ここからはCDショップの現状などについて、音楽社会学を研究する立教大学社会学部教授の井手口彰典氏に話を聞いた。(以下「」内は井手口氏のコメント)

井手口氏は前提として、CDショップの凋落とCDというメディアそのものの売上が落ちているという事実については、分けて考えるべきだと指摘したうえで、CDショップの現状についてこう分析する。

「CDショップが苦境に立たされている背景には、主に二つの要因があると考えられるでしょう。一つ目は、Eコマースの普及などにより頒布経路が拡大したことです。ネットの普及により、CDやレコードは通販で気軽に買うことができるようになったため、店頭で購入する必要性が薄れてきています。

そして二つ目は、音楽というものが、従来の“所有する形”から“ストリーミングする形”へと変化したということが挙げられます。もともとCDやレコードをプレーヤーで聴く必要があったものが、音楽サブスクリプションサービスの普及によって、音楽を聴くという形式が大きく転換したこともショップの減少に繋がっているとみられます」

ではこうした厳しい現状のなか、本国アメリカでは店舗が消滅してしまったにもかかわらず、なぜ日本のタワーレコードはここまで人気を維持しているのか。日本市場とアメリカ市場の違いを踏まえて、井手口氏はこう語る。

「現在世界的にはストリーミングが主流となりつつあり、フィジカルメディア(CDやレコード)離れが進んでいます。一方、日本の場合は特殊で、メディアを所有することに価値を置く傾向がいまでも残り続けているという稀有な市場といえます。日本においてタワーレコードをはじめとするCD・レコードショップが生き残り続けている一因にはこうした日本ならではの事情もあると言えるのではないでしょうか」

「フィジカルが人気」日本の音楽市場の特殊性

IFPI(国際レコード産業連盟)が2024年に発表したデータによると、世界の音楽市場のうち、ストリーミングは67.3%と大きな割合で占めており、レコードやCDといったフィジカルメディアに関しては17.8%の割合となっている。

しかし世界の音楽市場ではアメリカに次いで世界2位の巨大マーケットを誇る日本においては、2023年時点でフィジカルの売上が市場の65.5%を占めているという調査結果があり、世界的にみてフィジカルメディアが依然として活況な国だといえるのだ。

こうしてフィジカルメディアが日本でいまだ人気となっている背景について、井手口氏はこう解説する。

「アイドルグループのAKB48に代表されると思いますが、CDを購入するとアイドルとの握手券や投票券などが手に入るという、いわゆる“特典商法”が日本では広く行われてきました。こうしたCDの販売方法は00年代に始まり、その後現在に至るまで20年ほど続いているのです。ただこの場合、あくまで商品としての価値はそこに付随する特典の側にあり、一部の消費者にとってCDは単なる“オマケ”のような存在にすぎないと言えます」

つまり日本では、CDといったフィジカルメディアが世界的に見て市場の大半を占めているものの、その背景には、音楽そのものへの需要ばかりではなく、付属する特典への需要もある程度まで含み込まれていると言えるだろう。

またタワーレコードは2024年に業績をV字回復させるなど、近年好調な売上を記録していたが、井手口氏はタワーレコードならではの戦略についてこう分析する。

「従来のCDショップの機能は“新しく人気のある曲を所有させる(購入させる)”ということにありましたが、先述したようにEコマースやサブスクの普及によって、そうした機能だけでは生き残りが難しくなっているはずです。タワーレコードが業界最大手として成長してきた裏には、従来のCDショップの機能以外に、独自の売り場づくりであったり、商品のセレクトであったり、消費者を惹きつける魅力、戦略があったと考えられるでしょう」

CDショップは「土産物屋」のようになっていく

今後CDショップが存続していくためにはどういったことが重要になってくるのだろうか。井手口氏はこう予想する。

「今後はCDショップの質的な転換が図られていくのではないでしょうか。私が想像するに、これからのCDショップの形としては“土産物屋”のような様相を帯びてくるのではないかと考えています。

例えば、北海道に旅行に行くと、定番のお土産品として木彫りのクマがあります。そんなクマを私たちが買うのは、それが北海道旅行という体験をあとから追想する縁(よすが)となったり、北海道に対する愛着の表明になったりするからです。CDショップに関しても同じで、“そこでしか買えない商品”や、“そこでしか味わえない空間体験”といったローカル色を強めていくことで、生き残りを図っていくことも考えられるのではないでしょうか」

では最後にCDというメディアそのものの今後について。CDというメディアがなくなる日もいずれ来るのだろうか。

「サブスクなど新たな音楽サービスが出てきている以上、CDが今後“新しく人気のある曲を聴く”ための中心的媒体の座に返り咲く可能性はほぼないといえます。ただ、それがすなわち“CD消滅”を意味するということではなく、CDというメディア自体はモノとして残存し続けるでしょう。

演劇は映画の登場後も残り、映画はテレビの登場後も残りました。CDに関してもそれと同じように、メディアとしてはずっと残り続けるということです。また今後CD生産数量がさらに減少し、CDがなかなか手に入らないという状況が起これば、今度は現在のレコードのようにレトロなものとして人気が出て、コレクター需要が高まる可能性もあるといえます」

――業界最大手のタワーレコードの閉店ラッシュが話題となったが、日本にはフィジカル音楽の“生き残りへの道”がまだ残されているようだ。今後日本において、CDショップ、CDという存在がそれぞれどう変化を遂げていくのか、注目していきたい。

(取材・文=瑠璃光丸凪/A4studio)

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