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何らかの事情で育てられなくなった赤ちゃんを匿名で受け入れるいわゆる赤ちゃんポストを国内2か所目として去年3月に開設した東京都内の病院が今年3月末までの1年間に20人の新生児が託されたと発表しました。誰にも言えずに1人で出産する女性やうまれた赤ちゃんをどう支えるか課題を整理します。

東京・墨田区にある賛育会病院の一つの部屋には「ベビーバスケット」と名付けられた、いわゆる「赤ちゃんポスト」があります。誰にも頼れず孤立した中で出産し、育児ができないかもしれないと悩んでいる人が生後4週間以内の赤ちゃんを匿名で病院に託す場所です。

賛育会病院は、去年3月31日の開設から今年3月末までの1年間に20人の新生児が託されたと7月2日、発表しました。病院によりますと、大半の赤ちゃんはうまれて24時間以内とみられるということです。

母親の大半は20代で、10代や30代もいて、学生や社会人もいました。赤ちゃんを託しにきた時点でふらふらで(出産後の)出血が多い女性が複数いて、入院した女性もいたということです。

また男性が付き添ってきたのは5例、男性単独で託しに来た例もありました。病院側が接触できた例のうちでは自宅で出産した人が大半を占めたということです。

赤ちゃんポスト」に子どもを託す理由は、話が聞けた範囲では、生活困窮が最も多いほか、妊娠を告げたところパートナーとの音信が途絶え1人では育てられないと悩む例や中絶を考えたが決断できなかったという悩みが複数例で聞かれたということです。

■内密出産は7人、そのうち2人は出産後に内密解除

賛育会病院は予期せぬ妊娠などに悩む女性が、助産師など病院の一部職員にのみ身元を明かして、ほかの人には知られずに出産する「内密出産」も受け入れていて、去年3月31日から今年3月末までに7人が「内密出産」をし、そのうち2人は出産後に内密をやめ、自ら育てる意思を示したということです。

賛育会病院に内密出産について電話で相談してきた人のうち、受診と面談に来たのは20人、メディカルソーシャルワーカーが複数回、面談し、信頼関係を築き、公的な援助の仕組みなども紹介したところ、そのうち11人は内密ではない出産になったということです。

最終的に9人が内密出産を希望、検討会議で議論した結果、7人を内密出産として受け入れたということです。年代は10代(1人)、20代(4人)、30代(1人)、40代以上(1人)で、学生(4人)や会社員(2人)もいました。

内密にしたい事情では、家族に知られてしまうので戸籍にのせたくないという例が多く、仕事上秘密にしたいという例などもあったということです。出産し退院した後、連絡がとれなくなり、産後健診に来ない人もいたということです。

赤ちゃんポスト」に託された赤ちゃんと「内密出産」でうまれた赤ちゃん合わせて25人について、病院は児童相談所に通告したということです。親が養育の意思を示し、環境が整っていると児相が判断する場合を除き、赤ちゃんは乳児院で育つため、乳児院の人員増なども必要だと病院は訴えました。

■「自宅出産は危険」・・・誰にも頼れない妊婦を支えるには内密出産を制度化して各地に広げる必要が

7月2日の会見で賀藤均院長は、「ある例では、(自宅出産で)赤ちゃんの片足がまず出てきて、それをパートナーがひっぱったという。」と明かし、自宅などでの孤立出産は「母子ともに命の危険を伴う」として、妊婦が病院で出産できる環境が必要だと強調しました。そのためには内密出産を国が正式な制度とすることや内密出産を受け入れる病院を各地に増やす必要性を訴えました。

賀藤院長は「ベビーバスケット(赤ちゃんポスト)が必要ない社会を目指すべき。女性たちをそこまで追い込んでしまうのは何なのか、皆で考える必要がある。内密出産が制度化されたアメリカ・カリフォルニア州、ドイツ、韓国では、赤ちゃんポストが必要ない状態になり、新生児の遺棄事件も激減しているという。内密出産が制度化されれば、孤立出産や遺棄がなくなる可能性が高い」と述べました。

さらに、孤立や貧困に悩む妊婦が相談しやすいように、対話の訓練を積んだ専門家のいる相談窓口の設置が必要だとしたほか、妊婦の困難な生活環境が変わらない限り、同じことが繰り返されるとして、生活、職業、学業などを広く支援する公的な体制も必要だと訴えました。

■費用面の課題は?

国内で「赤ちゃんポスト」と「内密出産」の受け入れを最初に始めた熊本市の慈恵病院では、内密出産の費用を妊婦に求めてはいません。一方、国内2か所目である賛育会病院は内密出産の費用50〜60万円について、原則、妊婦の自己負担としています。

出産すると公的な医療保険から50万円が支給される出産育児一時金制度がありますが、出産を家族や公的機関に知られたくないと、内密出産をした人は、この申請ができず、一時金を受けとれません。

賀藤院長は「妊娠12週以降であれば人工妊娠中絶の場合でも出産育児一時金が支給されるのに、内密出産だというだけで支給されないのは違和感がある」と述べ、内密出産した女性にも支給すべきだと強く訴えました。

内密出産をした女性の一部や赤ちゃんポストに来た女性で産後の出血が多く入院した人の一部は、医療費を払えなかったということで、その医療費約255万円は賛育会病院が集めた寄付金で補ったということです。

賀藤院長は内密出産の費用を原則、妊婦に求める背景について「内密出産を受け入れる病院が増えてほしいからだ。」と説明。無料で内密出産を受け入れるのが当たり前となれば、病院経営が非常に苦しい中、取り組む病院はなかなかないだろうという見方を示しました。

■「自分は何者なのか」「親は誰なのか」出自を知る権利を守るには?

民間病院の実践が続く中、「赤ちゃんポスト」や「内密出産」を規定する法律はありません。

内密出産で一部職員に明かされた親の名前などは、病院が管理することになっていますが、成長した子どもが「自分は一体何者なのか」「親は誰なのか」を知りたいと考える場合、その子どものいわゆる「出自を知る権利」をどう守るのかが大きな課題です。

賛育会病院は、民間病院が個人情報を永年管理するのには限界があるなどとして、国が関連法を制定して、内密出産を制度化した上で、女性の個人情報を管理する役割は病院以外の機関が担うべきで、病院は医療に徹する体制が必要だと提案しました。

■男性の責任は

男性の責任について問われると、賀藤院長は「赤ちゃんポストや内密出産では男性の姿がほとんどみえない。妊娠を告白したときから男性が逃げたという例が複数あり、(遺棄などで)罰せられるのは女性のみ。出産した女性だけに責任を負わせる社会はどうなのか。」と述べ、男性も責任を持つべきだと指摘しました。

■国は法整備や支援体制作りに動き出すか?

自民党のプロジェクトチームは6月25日、内密出産を受け入れている医療機関への支援策や出自に関する情報を長期的に管理する公的機関の設置の検討などが必要だとする論点整理を発表しました。病院や与党からの声をうけて、政府が孤立に悩む妊婦やうまれた子どもを支えるための具体的な動きを見せるか注目されています。