仕事はどんどん後回しにしたほうがいい…米国一流企業の本社に転籍したら仕事量が半減した納得の理由
※本稿は、福原たまねぎ『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

■「あったらよいもの」は後回しに
ぼくは「アメリカに来てから仕事の量が少なくとも40〜50%は減った」と豪語してきた。この極意が「忘れる」だ。
アメリカに来てびっくりしたのは、本当に仕事をどんどん忘れていくという点だ。つまりP1(あったら良いもの)を積極的に後回しにしていくのだ。「なんとなく大事そうだけれど、実際には最初の段階ではいらないもの」。これらを「P1」として定義して、後回しにする。
こう説明すると当たり前のことのように感じられるかもしれない。普段から誰でもやっていることだろうと。しかし、これはいわゆる「優先順位づけ」とは決定的に異なる部分がある。どういうことだろうか。
タスクに優先順位を付けたら、通常ならばそれぞれに「いつまでにやる」という期限を設定するだろう。そして、優先順位の高い順にすべてのタスクを並べ、「いつ頃すべてのタスクが完了するか」の見通しを立てる。
■優先順位をつけるのではなく捨てる
けれどP0/P1の考え方では、本当に大事なタスク、つまりP0だけをスケジュールに組み込む。P1はそもそもプランに入れない。P1は「余裕がありそうならやる」という位置づけにする。

日本で10年以上働いていたときも「優先順位を付ける」ということはもちろんやっていた。そこで前提とされていたのは「優先順位に従って上からタスクをこなす」というやり方だ。でもP0とP1で果たそうとしていることは、似ているようでぜんぜん違う。「絶対必要なもの=P0」を決めて、「あるとうれしいもの=P1」をいったん、捨てる。一番大事なことにみんなでフルに集中して、あとはひとまず忘れる。
ぼくは当初、このアグレッシブなタスクの捨て方にぜんぜん慣れなかった。タスクは与えられたものをしっかり全部こなしてこそ一人前だという認識が拭(ぬぐ)えなかった。そんなに思い切ってP1を忘れてもいいのだろうか? それでいい、と思わされた出来事がある。
■「写真共有アプリ」開発に例えると
ぼくがあるプロジェクトに参加したときのことだ。以下、分かりやすさのために仮想事例として「写真共有アプリ」の開発シーンを語っていくが、そこで起きた問題や解決の流れはぼくの実体験そのものと考えてほしい。
一般的な写真共有アプリでは、ユーザーが写真を「アップロード」して保存・共有できる。さらにアップロードした写真は「削除」したり、「名前の変更」をしたり、ときには「並べ替え」たり「アルバムにまとめる」といった管理機能も利用できるのが普通だ。
このプロジェクトは、そのような写真共有アプリを開発するというものだった。開発しないといけない機能は無数にあったが、チームではまずプロトタイプと呼ばれる試作品を開発することになった。この試作品を一部のお客さんに使っていただき、フィードバックをもらい、最終的なリリースに向けて機能を拡充していくのだ。
ぼくは途中からこのプロジェクトに参加したのだが、チームが下した決断にびっくりした。「大事そうな機能」をどんどん後回しにしていくのだ。
■最初はアップロード機能だけに絞る
チームが提案したのは、試作品には写真の「アップロード」だけができるようにするというものだった。つまり、写真の「削除」や「名前の変更」、「並べ替え」や「アルバムにまとめる」機能もすべて諦めるということだ。ぼくから見たらそのどれもが「なくてはならない基本的な機能」に思えた。
試作品とはいえ、これはさすがにまずいんじゃないか?
そう思い、エンジニアを束ねるマネージャーのルッコラさん、開発チームのリーダーであるサトイモさんとトウモロコシさんにも相談した。するとサトイモさんはこう言った。
「良い質問だね。でも、ユーザーに直接聞いてみたら良いんじゃないかな?」
そこでお客さんに短いミーティングの時間をもらい、試作品に必要な機能について聞いてみた。すると、「ぶっちゃけた話、試作品の段階ではアップロードさえできればいいよ」という返事だった。

■やらなくていいことを明確にする
ぼくはこの経験から「優先順位は自分の思い込みによって支配されがちだ」と思い知った。自分が大事だと思っていることは、自分の仮説でしかない。本当に大事な仕事はお客さんが決める。
アメリカの開発現場では、会社の上層部が事あるごとに「この新しいサービスについてユーザーから意見を聞いた?」「本当に求められているものなの?」と質問してくる。こうした学びを取り入れて、ぼくらのチームもプロダクトを企画するかなり早い段階で、お客さんの声を徹底的に集めるようになった。ここで一手間を入れることでさらに「やらなくていいこと」が明確になり、タスクが減った。そして、「やるべきこと」に集中することができるようになった。
この「声を聞く」仕事のやり方は、社内での細々としたタスク処理にも応用できる。たとえば、上司から「当社の製品と競合他社の製品のデータをまとめてほしい」という依頼があったとしよう。
結論から言うと、最初から「完璧な資料」を作る必要はない。「完璧な資料」が必要かどうかは、自分の仮説でしかないからだ。データは表だけでなく、グラフにもしたほうがいいのか? 競合他社の製品画像は貼ったほうがいいのか? 自分では大事だと思っていても、実は上司にとってはそこまで必要ない(=P1のタスク)という可能性はないだろうか。
■いきなり全部やるのは効率が悪い
「結果を出す」というと、最初から完成されたものを出すというイメージがある。とくに日本では、完璧なものを納品しなければならないという意識になりがちだ。大前提として、そうしたスタンスは素晴らしいと思う。だけど、たとえば手が回らなくて忙しいとき、人手や時間が限られているときでさえ、その意識を優先させて、疲弊してしまうことがないだろうか。
そこでやるべきなのが、アウトプットの分解だ。今回の例なら、まず求められているデータそのものを収集する。これが今回の上司の依頼に対する「なくてはならないもの」、つまりP0だからだ。
そして、そのデータを上司に提示するのと同時に、「このデータをこういう観点で加工したり、分析したりできると考えています。それ以外に必要なことはありますでしょうか?」と尋ねる。「あればなお良いもの」、つまりP1の選択肢を提示した上で、相談する。「それでいいよ」と言われればその通りにやればいいし、「そこまでやらなくても、今のデータだけでいいよ」と言われれば、タスクが減ることになる。上司というお客さんの声を聞くことで、本当に必要なことだけにタスクを絞ることができる。
いきなり全部をやろうとしなくていい。まずP0は何かを見極め、P0が完了した時点で上司の声を聞く。その上で、さらに必要なことがあるかどうかを聞く。アウトプットを分解することで、求められていないことにまで時間をかけてしまうリスクを最小限に抑え、作業を削減することができるわけだ。
■黙って素早くやるのを卒業すべし
ここまで、アメリカで学んだ効果的にタスクをやめていく方法を説明してきた。実はシアトルで働く日本人の友達と話していると、「日本にいたときのほうが、仕事が断然多かった」とみんな口を揃える。いったい、なぜ日本はタスクが多くなりがちなのか?
それは「黙って素早くやる」という仕事の取り組み方をしているからだ。自分よりも目上の人の意見を黙って聞き、スピード感を持って処理する。これまで美徳とされてきた考え方だと思う。これによって組織やチームが「速く」動けるようになるのは確かだ。良い面も十分あるだろう。
ただこれでは「早すぎる」ということが起きてしまう。「そもそもやるべきか?」を十分に問うことができないまま進めてしまい、引き返せなくなってしまう。その結果として、「これは一体誰のためにやっているのだろう?」と、よく分からない仕事が積まれていく。日本で働いていたときのことを振り返ると、当時はP0とP1をどちらも「最後までちゃんとやらないといけないタスク」と思い込んでしまっていた。
「絶対にないといけないもの」「なんとなく用意しないと上司から怒られそうなもの」など、重要度が異なるタスクを一緒くたにし、ちゃんと精査することなく仕事に手を付けてしまっていた。ぼくは仕事を減らすために「“黙って素早くやる”から卒業すること」が必要なんじゃないかと思っている。
■いきなり全部やろうとしてはいけない
「これは本当にやる意味があるか?」と問う自制心と賢さ。一流の同僚たちはこれがあるから、生産性を飛躍的に高め、結果的に休みを確保できているのだと考えている。

現代はAIをはじめとしたテクノロジーの進化で生産性が上がっているはず。それでも毎日たくさん仕事に苛まれることがあるとしたら、その理由はなんだろう? AIは仕事の処理を効率化したり自動化したりするためにどんどん使うべきだと思う。
でも「そもそも何をやるべきか?」については、人間が頭を使って決めていくべきじゃないだろうか。
仕事の付加価値は「作業」で作るのではなく「思考」で作る。世界一流の仲間が「仕事はやる前に勝負を決める」というマインドセットで働く姿を見て、この「思考」の重要さについて痛いほど学んだ。
「休みを生み出す」には「タスクを減らす」ことが重要であり、そのためには「やめる技術」こそが大切。つまり、意味のない仕事をブロックする(退ける)こと。これが、ぼくが世界トップの仲間から学んだ一級の仕事術だ。
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福原 たまねぎ(ふくはら・たまねぎ)
外資系IT企業 米国本社 シニア・プロダクト・マネージャー
ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後、渋谷のベンチャー企業を経て、2016年、外資系IT企業の日本支社に入社。webプロデューサー、プロダクト・マネージャーを務め、22年、米国本社に転籍。テクノロジーの現場から働き方、思考法、文化の違いなどを観察し、その成果をnoteで発表している。25年に投稿した「“仕事のできるエンジニアしかいらない”という怖い世界」が「note創作大賞2025」に入選し、話題になった。著書に『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)。
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(外資系IT企業 米国本社 シニア・プロダクト・マネージャー 福原 たまねぎ)
