グーグルとアップルの2強支配阻止へ「第3極」結集…華々しく始動した「タイゼン計画」
[検証デジタル ニッポンの苦境]スマホOS編<2>
素晴らしいメンバー
2013年2月。
スペイン・バルセロナで開かれた携帯電話の国際展示会「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」のパーティー会場は、100人を超す通信大手や端末・半導体メーカーの幹部らでごった返していた。
グーグルとアップルが寡占の勢いにあったスマートフォン基本ソフト(OS)で、第3極を目指す「タイゼン」。その開発のために結集した企業の面々だ。
日本からはNTTドコモのほか、NEC系、パナソニック系などの通信・メーカー大手が、欧州からは英ボーダフォン、仏オレンジといった通信大手が参加。韓国からは有力スマホメーカーのサムスン電子が加わった。目的は一つ。グーグルとアップルの「2強」によるスマホ支配を食い止めることにあった。
推進組織トップの議長を務めたのはドコモ取締役の永田清人。「将来の成功を生み出す素晴らしいメンバーがそろった。タイゼンは真にオープンなプラットフォームだ」。壇上で熱っぽく語ると、会場の盛り上がりは最高潮に達した。
永田は報道陣に「世界シェア(占有率)20%は取らないといけない」と強気の目標を示し、タイゼン搭載スマホを年内にドコモが発売すると明言した。試作機も披露され、ドコモ担当課長の的場直人は「操作性は滑らかで、iPhone(アイフォーン)などと比べても遜色なかった。『これはいける』と盛り上がった」と振り返る。
主導権
タイゼン推進の中心人物だった永田は、アップルとグーグルがスマホOSを掌握しつつあることに強い危機感を抱いていた。
永田はドコモで技術開発部門を中心に歩み、大ヒットした「iモード」の技術開発や国内メーカーの端末開発の中核を担ってきた。当時はグーグルやアップルとの交渉も手がけており、両社の支配力が強まるのを肌で感じていた。
iモードと携帯電話が好調だった頃、ドコモはサービスを提供する企業や端末メーカーに絶大な影響力を持ち、自社が必要と考える機能やサービスを容易に搭載できた。だが07年にiPhoneとアンドロイドが登場し、スマホへの移行が進むと、米2強の影響力が急速に拡大した。
「アンドロイド導入当初はグーグル幹部もこちらに配慮してくれたが、シェアが大きくなると態度が百八十度変わった。自社のサービスを優先し、iモードで実現していたプッシュ通知などの機能もすぐに入れてくれなくなった」
永田が特に懸念していたのは、OSを握られることで、アプリの利用に必要な「アプリストア」の主導権を米2強に奪われてしまうことだ。ストアを押さえれば、どのアプリを採用するかや、利用料をどの程度取るかといったスマホビジネスのあらゆる決定権を握られてしまうからだ。
ドコモはiモードでストアに当たる部分を握っていたからこそ、携帯ビジネスを自由に動かすことができた。しかし、スマホではその権限が奪われようとしていた。
典型例が、コンテンツを提供する企業が支払う手数料率だ。iモードは「共存共栄」の考え方に基づき、コンテンツ企業が支払う手数料を売り上げの9%に抑えていた。一方、アップルとグーグルは30%に設定。日本のコンテンツ企業が「重税」に苦しむのは明らかだった。
プラットフォームを支配する側にいた永田は、その地位を他社に奪われることの意味を痛いほど分かっていた。「あらゆる面でグーグル、アップルに従わなければならない未来が来る」。タイゼン計画に参加する通信大手やメーカーも思いは同じだった。
華々しく始動したタイゼンだったが、計画はすぐに暗転することになる。発端はドコモのiPhone導入問題だった。(敬称略、肩書は当時)

