【古田 拓也】Tinderは初の減収…「マッチングアプリ疲れ」のウラで営業利益4割増の「日本企業」の名前
いまや日本で結婚する若年層の4組に1組は、マッチングアプリで相手と出会っている。
こども家庭庁が2024年に公表した調査では、直近5年に結婚した既婚者の出会いのきっかけは「マッチングアプリ」が25.1%でトップだった。2025年の明治安田生命の調査でも、1年以内に結婚した夫婦の出会いのきっかけは「マッチングアプリ」(30.4%)が3年連続トップで過去最高を更新。かつて定番だった「職場」(17.6%)を大きく引き離している。
出会いのきっかけは、スマホの中に移行しつつある。ところが、その主役であるはずのマッチングアプリ市場に、いくつもの「天井」を示すシグナルが見え始めている。その傍らで、時には「最後の手段」として候補にあがることすらあった「結婚相談所」が、20代を巻き込んで静かに、しかし力強く伸びている。
マッチングアプリが頭打ちになり、古臭く見えた結婚相談所が2桁成長するという令和の奇妙なねじれを解きほぐしてみたい。
Tinderは初の減収、マッチングアプリビジネスの曲がり角
マッチングアプリ運営会社トゥエンティトゥの「マッチングアプリ白書2026」によれば、市場規模は2026年に1,094億円と前年比約7%増、2030年には1,380億円まで拡大する見通しだ。最大手ペアーズの累計会員数は2,700万人に達する。トップラインだけ見れば、まだ成長産業の顔をしている。
だが、内実は明らかに踊り場に入った。象徴的なのが新規参入の急減速である。新たに市場へ投入されたアプリは2024年の18本から2025年は11本へと一気に細った。「次に当たるかもしれない」と大手資本が群がるフェーズは終わり、市場は成熟局面に移っている。
海外を見れば、天井はさらにくっきりしている。世界最大手Tinderを運営するMatch Groupは、2025年にTinder事業の直販売上が約4%減と、上場以来初めての通年減収に沈んだ。第4四半期のTinderの有料会員数は880万人と前年同期の950万人から8%も減少したという。
会社側は2026年通期も「横ばいから減少」というガイダンスを出した。
出会いの入口を握ったはずの海外の巨大プラットフォーマーが成長神話の剥落に直面しているのだ。
マッチングアプリは「しんどい」?
なぜ出会いの主役が息切れするのか。背景にあるのは、ユーザー側の静かな疲弊である。
米Forbes Healthの2025年調査では、Z世代の79%が「マッチングアプリ疲れ(dating app fatigue)」を訴え、半数以上が利用中に「燃え尽き」を感じると答えた。
延々と続くスワイプやいいねを得るための「盛った」プロフィール作り。
返信が来ないことの繰り返しといった出会いの効率化を謳ったはずの仕組みが、いつしか自己肯定感をすり減らす作業に変わった。米欧では、ランニングクラブや趣味の集まりで相手を探す「intentional dating(意図的な出会い)」へと回帰する動きすら出ている。
同じような悩みは日本人である私たちにとっても”あるある”な内容ではないだろうか。そうするとTinderの減収は、日本人と米国人における国民性の違いには関係がなく、多少の時間差はあれど日本のマッチングアプリ市場にも波及する恐れがある。
それだけでなく、日本では安全面でのリスクが半ば社会問題となりつつあることも追い打ちをかける。
警察庁によれば、SNS型ロマンス詐欺被害のうち、最初の接触のきっかけが「マッチングアプリ」だったケースは約3割を占める。
マカフィーの調査でも日本の回答者の16%が「オンラインで知り合った相手に金銭をだまし取られた、または送るよう圧力をかけられた」と回答した。
たしかに、ホストやキャバクラといった営業、マルチ商法、投資勧誘、宗教勧誘から自衛するための方法はマッチングアプリで遭遇する危険から回避するために不可欠となりつつある。
誰でも入れるからこそ、遊び目的も既婚者も詐欺師も混在する。母数が増えれば増えるほど、真剣に結婚相手を探す層にとっては砂漠の中から一つぶの砂金を探すような徒労感が募っていく。
結婚相談所「IBJ」は営業利益4割増で急成長中
その「徒労感」の受け皿として伸びているのが、結婚相談所であると考えられる。
業界最大手IBJ(東証プライム・6071)の2025年12月通期決算は、売上高201億円(前年同期比13.7%増)、営業利益36億円(同39.9%増)と、増収かつ営業利益4割増の好決算で着地した。
登録会員数は2025年8月に10万名を突破し、通期末には10万4,859名(前期比11.4%増)まで積み上がった。
年間の成婚組数は2万970組と過去最多を更新し、同社は「日本の結婚の4.3%を創出している」と胸を張る。
純利益はソフトウェア減損などの特別損失を計上してもなお、約36%増の20.8億円と過去最高を更新した。
数字だけ並べると地味だが、構造変化として見ると見過ごせない。
IBJの株価も、当初の100円台から足元では800円近辺と8倍にまで成長している。国内の関連市場では「未婚化・晩婚化・少子化」といったネガティブなイメージが先行する。裏を返せば国民の間にも相応の課題感が醸成され、その解決策が切望されているといえないか。
こう考えると、結婚に対して逆風が吹いている今だからこそ結婚相談所の業績が成長しやすいといえ、株価にもそれが反映されていると解釈できる。
とりわけ象徴的なのが若年層が増加してきたことである。
IBJにおける直営相談所における20代~30代前半女性の入会割合は、足元では43.9%に達している。
メディアでも結婚相談所が取り上げられるケースが増加したこともあり、認知が拡大している。30代後半以降の「駆け込み寺」だった相談所が、いまや若年層も当たり前に選択する余地のある婚活インフラに変わりつつあるのだ。
割高な結婚相談所に人が流れる理由
結婚相談所の一般的な相場は会員1人あたり年間30万〜40万円かかるとされている。
月数千円のネット系婚活サービスの実に10倍前後だ。タイパ・コスパにうるさいはずの20代が、なぜ10倍も高いサービスに流れるのか。
皮肉なことに、相談所拡大の最大の功労者はマッチングアプリそのものではないだろうか。
タメニー株式会社が運営する「パートナーエージェント」のスタッフ100人に行った調査では、20代の結婚相談所利用が増えている背景として「マッチングアプリの普及に伴い、婚活サービスに抵抗がない人が増えた」が71.0%で最多に挙がった。
アプリが「ネットで結婚相手を探すのは普通のこと」という意識を社会に浸透させ、結婚相談所の心理的ハードルを下げる地ならしをした。
アプリが入口を耕した畑で、相談所が出口の果実を収穫している構図だ。
そのうえで相談所は、アプリの弱点をことごとく裏返した設計になっている。
入会には独身証明書・収入証明書の提出が必須で、「遊び・既婚者・詐欺師」は構造的に入れない。
アプリが「出会いの量」というきっかけの量を最大化する装置だとすれば、相談所は「成婚という結果」を最適化する装置というべきか。安くても、質の悪いきっかけでは最終的なコンバージョン率が下がる。
結果や労力、リスクに対する期待値ベースでは割安だと若者は冷静に計算しているのだ。
「アプリの敗北」と結論づけるのは早い?
ここまで読むと「アプリは終わり、相談所の時代」と総括したくなるが、業界を一歩引いて見るとまだアプリは死んだわけではないことも指摘しておくのがフェアだろう。
マッチングアプリの市場規模はなお微増し、日本の若年層における婚姻の約4分の1を生み出すとされる最大チャネルであることは疑いの余地がない。
また、相談所も絶対的な結婚市場の天井が低くなってきている中での競争という点も指摘したい。日本の婚姻数が2024年に48万5,063組と2年ぶりに増えたとはいえ、ピークだった1972年の約110万組と比べれば半数以下。
出生数は68万人と過去最少だ。婚活市場全体は1,300億〜1,500億円規模とされるが、結婚を望む母集団そのものが細っていく以上、日本に限って言えば、アプリも相談所も最後は同じ縮むパイを奪い合うことになるだろう。
結局のところ、いま起きているのはアプリ対相談所の勝敗ではなく、出会いの入口であるアプリと結婚の出口である相談所への選択が分化していることではないだろうか。
気軽に大量に出会えるマッチングアプリで疲れた層が、身元の確かさとゴールへの伴走を求めて高単価の相談所へ流れる。
婚活マネーの静かな逆流は、アプリでの出会いが一般化した時代に「結婚まで運んでくれること」の価値が再評価されるようになったという消費者の冷静な判断の表れなのかもしれない。
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