ビジネスをグッと動かすのは、トレンドより基本。ファミリーマートが変えたこと、変えなかったこと
マーケターにとって、サードパーティCookieが失われるまでの残された時間は、単なる代替手段を探すための猶予か、あるいは「顧客の信頼を得る、より良きコミュニケーション」を再考するための時間かーー。DIGIDAYが7月8日に都内で開催した「DIGIDAY POST COOKIE FORUM」は、Cookieレス時代を見据え(※Googleは同イベント後の米国時間7月22日に「ChromeからサードパーティCookieを廃止することを断念した」と発表)、顧客理解の本質的な価値やそれに基づくコミュニケーションのあり方を改めて問う場となった。そのトップバッターとして登壇したのが、コンビニ業界の常識を覆す数々のヒット商品や企画を生み出し、快進撃を続けるファミリーマートのエグゼクティブ・ディレクターCMO兼CCRO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)の足立光氏だ。足立氏は、マーケティングを「商売」と位置づけており、同氏がリードするファミリーマートの革新の裏側には、顧客視点であるという軸をぶらさず、コミュニケーションの基本である「WHO・WHAT・HOW」に忠実に向き合う戦略が見えた。基調講演「コンビニが変わる、流通マーケティングが変わる。足立光エグゼクティブ・ディレクターCMO・CCROとファミリーマートの3年間」をレポートする。◆ ◆ ◆
ファミマの特徴は「ちょっとお得」で「面白おかしい」
P&Gジャパンを皮切りに、戦略系コンサルティングファームやシュワルツコフヘンケル、日本マクドナルド、ナイアンティック……と、名だたる企業でマーケティング、再建などを担ってきた足立氏は、トップマーケーターであり、再建請負人でもある。そんな同氏がファミリーマートのCMOに就任したのは、2020年10月のこと。今年3月からはCCROも兼務することとなり、新規事業やデジタル事業も統括しているという。そのファミリーマートが、とにかく好調だ。既存店日商が34カ月連続(2024年6月)でプラス成長を記録しただけでなく、「商品のおいしさ」「コストパフォーマンスの良さ」のイメージスコアも右肩上がりなのだ。コンビニ業界ナンバー2になってからも、成長し続ける理由について、足立氏は「何を変えて、何を変えなかったのか」というポイントを挙げた。
「ちょっとおトク」を継続的に訴求している

あらゆる意思決定を「顧客視点」に変更
一方、変えたことは、内向きの商品・施策から「顧客視点」へと大きく舵を切ったことだ。社内意思を重視する傾向は「流通業あるある」だというが、ファミリーマートにおいても、その代表的なものが新商品の役員試食だった。残念ながら、役員は顧客ターゲットではない。であれば、時間をかけて役員の感想を聞くよりも、お客様に直接聞いて商品化を決めたほうが良い。そうして誕生した「ブラックサンダーフラッペ」はフラッペ史上ナンバーワン売上に、「ファミチキ × プリングルズ」も大ヒット企画になった。加えて、主要商品の味の判断も、商品数が非常に多いこともあり、以前は商品部の内部関係者が新旧を比べて決めることもあったが、おいしさの判断にバイアスがかからないよう、商品部と協力して、お客様によるブラインド・テストでの意思決定に変更。おいしさが安定化したことは、前出のイメージスコアを見ても明らかだ。「同じ施策をやってはいけない」という同社の暗黙の了解も、打ち破ってきた。「入社時に『同じ施策をやっちゃいけません、コンビニは新しいことをやるのが仕事なんだから』と言われたが、これは顧客視点であるといえない。これまでの経験から、同じキャンペーンを繰り返してもを売れると考えていたので、たとえば1月は『いちご狩り』、8月は『40%増量作戦』というように、季節の定番キャンペーンを始めた」。毎年同じ時期に実施することで、どんどん改善していけるため、売上も安定すると考えたからだ。足立氏は、「顧客視点」を軸に、常識や前例に囚われない施策をほかにも打ち出した。たとえば、おむすびやサンドイッチ、弁当という「中食偏重」だった販促・コミュニケーション施策を、顧客視点で「多様化」した。コンビニに来る理由は食事だけではないので、たとえば、ちょっとおしゃれなTシャツやソックスなどがあれば来店確率が高まると考え、すでに商品開発が進んでいた「コンビニエンス ウェア」の訴求を強化した。
来店目的の拡大施策例(コンビニエンス ウェア)
マーケティング部を含めた「営商マ」コンセプトに
こうして顧客視点の施策を続けながら、足立氏は社内の体制を変更することも試みた。もともと日本の流通業は、商品部が商品を作って営業部が店頭の棚に並べるという体制が主流だったが、同社はそこにマーケティング部を加え、3つの部が力を合わせる「営商マ」体制を推進した。いくら良い商品を作って並べても、それだけでは店に来る人にしか届かない。ファミリーマートに来店しない多くのお客様にも、ファミリーマートで面白いことをやっていると知ってもらう必要がある。「店頭で展開するオウンドメディアは店舗に来る人にしか響かないが、SNSやパブリシティなどのアーンドメディアをうまく活用すれば、来店していただいていないお客様にもニュースを届けることができる。アーンド活用のポイントは、再現性のある手法で話題化することだ」。「カレー祭り」を例にとると、看板をカレー色に変えた3店舗の写真と緯度経度だけを示した投稿で、「ファミマが黄色になった!」「なんだ、この投稿??」と話題化させることができた。そのほかの投稿でも、X(Twitter)で何度も「日本のトレンド」入りを連発している。こうした仕掛けは、マーケティング部内やエージェンシーとディスカッションを重ねた成果でもある。その結果、ファミリーマートのメディアでの露出量は、いわゆる広告換算値で2021年から倍以上になった。それに伴い、各キャンペーンの認知度も向上し、「露出が増えたことで、(実はキャンペーンの数は以前から変わっていないが)新商品やキャンペーンが増えて、ファミリーマートが元気になっている」という認識もできつつある。35.696174, 139.758963
— ファミリーマート (@famima_now) July 20, 2021
34.668645, 135.501202
35.172559, 136.884037 pic.twitter.com/Gtt4YxV7V6
マーケティングは商売である
足立氏がファミリーマートで実践するマーケティングは、「WHO・WHAT・HOW」の3つに集約される。【ファミリーマートで実践しているマーケティング】どんなお客様に対して(WHO):ターゲット顧客の再確認何を伝えるのか(WHAT): ポジショニング再定義、施策・来店目的の多様化どう伝えるのか(HOW):再現性を確保しながら話題化し、露出量を最大化
次々と施策を繰り出しているため、特別な手法を用いているような印象を受けるが、コミュニケーションの基本である「WHO・WHAT・HOW」を粛々とやっているに過ぎないというのだ。「新しいコンセプトや最新のトレンドを知っておくことはもちろん大事だが、突き詰めると基本のWHO・WHAT・HOWになる。本当にビジネスをグッと動かせるのは、やはり基本」。加えて、これも基本のことながら、商品開発にしろ、SNS投稿にしろ、大事なのは「顧客視点」であることも強調した。もともと内向きでトップダウンだったファミリーマートが、マーケティング部だけではなく他部署も含めて、「顧客視点で商品・施策の意思決定をするようになってきた」と足立氏は振り返る。商品や施策を決めるのは本来商品部の仕事であったが、マーケティング部が商品部の領域にも携わる理由は、マーケティングがカバーする分野はプロモーションやコミュニケーションだけでなく、下記の4Pすべてだと考えているからだ。
マーケティングがカバーする4つの領域
