実証試験のイメージ(画像:ポーラ・オルビスホールディングスの発表資料より)

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 ポーラ・オルビスホールディングスは2日、「顔画像から熱中症リスクを判定するAI技術」の実証試験に向け、取組みを開始したと明らかにした。実証試験は建設現場で実施。同社のマルチプルインテリジェンスリサーチセンターとポーラ化成工業が共同で進め、愛知県の豊田工業高等専門学校、DUMSCOと連携して行う。実施時期は2023年夏頃を予定している。

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 熱中症は、高温多湿な環境に身体が適応できず体温調節のバランスが崩れた際に生じる。めまいや手足のしびれなどから始まり重症になると意識を失うが、本人も周りも気づかないうちに悪化することが多い。特に、屋外で長時間作業を行う建設業は他業種に比べて熱中症リスクが高く、気候変動の影響でさらに深刻化が懸念されている。

 実証試験は、AIを搭載したカメラ型デバイスを用いて熱中症のリスク判定を行う予定。作業員がカメラに顔をかざすと、AIが顔画像から熱中症の発症リスクを検出し、判定結果を現場監督者に通知する。監督者は、結果に応じて作業員に休憩などの指示出しができるため、熱中症予防や重症化リスクの低減などにつながる。カメラ型デバイスは、休憩所の入口など作業員が立ち寄る場所への設置を予定している。

 リスク判定するAIを搭載したカメラ型デバイスは、豊田高専が開発したシステムをベースとしている。同校では、熱中症の予兆は顔に現れると考え、熱中症リスクがある顔画像と温湿度を組合わせてディープラーニング(深層学習)を実施。発症リスクを判定するシステムを構築した。同校のシステムは「全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2022」の受賞作品に選ばれている。

 実証試験に用いるシステム構築においても、引き続き豊田高専が熱中症リスク判定AIの技術開発を担う。カメラシステムの構築には、ITソリューション事業などを手がけるDUMSCOが参画。建設現場向けのカメラシステムの開発を担当する。

 ポーラ側は事業開発や技術開発を統括する。18年に新設されたマルチプルインテリジェンスリサーチセンターは、化粧品の既存の枠を超えた価値創造がミッションの組織。グループの研究戦略の策定や、マーケットリサーチ、技術連携などを担当。グループのイノベーションを促す役割を担っている。

 もう一方のグループの研究開発を担うポーラ化成工業は、以前から顔画像を用いて健康状態を推測する研究を手がけてきた。22年にも顔画像や角層画像などをAI解析し、ストレス指標を推定してその時点のストレス状態を分析できるシステムを構築している。

 オープンイノベーションを活かす環境と、技術の先に目指す未来を共有する若いパートナーの発見により、本実証試験の取組みが始まったといえる。実証試験を踏まえ、民間企業が高専を事業パートナーとして新たな価値創造を目指す取組みが今後より一層拡がると期待される。