"チェンソー・アル"は大量のレイオフで企業の立て直しを行ない評価されたが、社員たちには恐れられた      イラスト :tiquitaca / PIXTA(ピクスタ)

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 スタンフォード大学経営理工学部教授のロバート・I・サットンは、職場にasshole(クソ野郎)が多すぎることが、従業員の幸福度を大きく引き下げ、会社の生産性も落としているとして“no asshole” rule(ノー・クソ野郎ルール)を提案し、大きな反響を呼んだ。文字どおり世界じゅうから、「私が出会った「クソ野郎」の話を聞いてほしい」というメールが殺到したのだ。

[参考記事]
●職場に山ほどいる「クソ野郎」上司を回避し、自らもならないためのルールとは?

 サットンはその経緯を『チーム内の低劣人間をデリートせよ クソ野郎撲滅法』(パンローリング)にまとめたが、それを読んでいて思わず考え込んでしまったのが、「労働者の3人に1人が他者からいじめを受けていると答えた一方で、いじめの加害者になったことがあると報告したのはわずか0.05%(2000人に1人)だった」という記述だ。

 いじめ問題の解決が難しいのは、加害者と被害者が同じ行為をまったくちがうものとして認識していることだ。これを私は、「100倍の法則」を呼んでいる。被害者は自分が受けた行為を100倍強く意識し、加害者は相手への同じ行為を100分の1に評価する。「なんでいじめるの?」と大人からいわれて、「いじめてないよ、遊んでただけだよ」と答えるのは本心なのだ。

「いじめの加害者は自分を加害者だと思っていない問題」は、ビジネスの現場でもそのまま当てはまるだろう。執拗なパワハラを、上司が「社員教育」「愛の鞭」と主張するのは、たんなる言い訳ではないかもしれない。

 もちろんこれは、パワハラを正当化するものではない。加害者が「愛」だと思っている方が、被害者にとってより残酷でグロテスクなのは間違いないだろう。

「最凶のasshole(クソ野郎)」といえば “チェーンソー・アル”

「最凶のasshole(クソ野郎)」というと、アメリカでは真っ先に “チェーンソー・アル”が 思い浮かぶがようだ。

 アルバート(アル)・ダンラップは1937年に中流階級の労働者の家庭に生まれ、高校卒業後にウェストポイント士官学校に入学、中尉に昇進したのち退役し、製紙会社に就職した。そこで不振だった工場を強引なレイオフで立て直したことを評価され、1994年にトイレットペーパーや家庭用ペーパータオルをつくるスコット・ペーパーズのCEOに抜擢される。

 ダンラップはたちまち1万2000人をレイオフし、工場の閉鎖や寄付金の全廃などを断行して“チェーンソー・アル”と呼ばれるようになった。この大規模なリストラで株価は2年半で3倍以上になり、会社を競合企業に売却して100億円の報酬を手にした。

 その後、不振に陥っていた家庭用電機用品メーカーのサンビームCEOに破格の好待遇で就任すると、2年間で従業員のおよそ半分の6000人を人員整理し、多数の工場を閉鎖して企業城下町をゴーストタウンに変えた。

 ところが、米国証券委員会(SEC)が巨額の粉飾決算の疑いでサンビームの調査に乗り出したことでダンラップは窮地に陥り、容疑は否認したものの責任を取って辞職。巨額の退職金を受け取る一方、SECとの和解で1850万ドル(約20億円)を支払い、生涯にわたって株式会社の役員の地位に就くことができなくなった。――経済ジャーナリスト、ジョン・A・バーンの『悪徳経営者 首切りと企業解体で巨万の富を手にした男』(日経BP)でその悪名は広く知られることになった。

 ダンラップの首切りエピソードはたくさんあるが、スコットのアラバマ州モビールの工場では、ある従業員に「何年ここで勤めているのか?」と訊いた。

「30年です!」と従業員が誇らしげにこたえると、ダンラップは心から当惑した顔でいった。「なぜ30年間もひとつの会社にとどまりたいなんて思うのかね?」

 数週間後、ダンラップはモビールの工場を閉鎖し、従業員全員を解雇した。

 ダンラップは自伝『意地の悪いビジネス(Mean Business)』でこのような逸話を自ら誇らしげに書いている。

 スコットの企業モラール担当役員は、とても感じのいい人物でいやらしいほど高額な給与を受け取っていたが、彼女の主な仕事は重役室の調和を保つことであった。調和などくそくらえだ。こういう連中は互いの髪の毛を引っ張り合うべきなのだ。私はスコットの最高財務責任者バシルに、彼女をクビにしろと言った……その週の終わりごろ、企業内弁護士のひとりが重役会議の最中に居眠りをした。それは給料支払い名簿に記載されている期間内で最後の居眠りとなった。数日後、彼は過去の人になっていた。

 一事が万事、こんな調子で首切りをやっていたため、ビジネス誌ファーストカンパニーが「サイコパスCEO」の記事を掲載したとき、現役の経営者で唯一、ダンラップだけが取り上げられる栄誉を浴した(他のCEOは死んでいるか、獄中にいた)。

「asshole(クソ野郎)はサイコパスだ」というのはたしかにわかりやすいが、はたしてこれはほんとうだろうか。

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