混乱必至の値下げをゴリ押しした総務省の狙いとは?

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混乱必至の値下げをゴリ押しした総務省の狙いとは?

総務省がスマホの2年契約、いわゆる"2年縛り"の解約金について、従来の9500円から上限1000円にする方針を打ち出した。

果たして、ユーザーにはどんなメリット、デメリットが生じるのか?

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■月々の通信料金は逆に値上げ!?

携帯大手3キャリアの2年契約を途中解約した際に支払わなければならない解約金が、現行の9500円から上限1000円に値下げされる。18日に総務省が開催した有識者会議で事実上、決定し、今秋から実施される見通しだ。

大幅な値下げによって利用者がキャリアを乗り換えやすくし、各キャリアにより手頃な通信料金プランへの競争を促(うなが)そうという狙いで、総務省によるネットアンケートの結果、約8割の人が1000円ならば解約金として許容できると回答したことから設定された額なのだという。

9500円だった解約金がほぼ10分の1になれば、ユーザーの心理的、金銭的な負担はかなり軽減される。よりおトクな通信料金プランを提供しているキャリアへ思い立ったときに移ることができるのだから、今回の決定はまさに朗報、総務省の大ファインプレーじゃないだろうか?

......が、どうやら事はそう単純ではなさそうだ。携帯電話ライターの佐野正弘氏はこう指摘する。

「現在の大手各キャリアの料金プランは、ユーザーが2年間自社と契約し続けるという前提のもとに設定されているものです。それが解約金の大幅値下げによって、契約途中でもさっさと他キャリアへ流れるかもしれないとなれば、そもそもの前提条件が崩れるわけで、また新しい料金プランを作り直さざるをえません。

特にNTTドコモとKDDI(au)は先日新料金プランを発表したばかりだというのに、今秋までにまた変更しなくてはならないわけで、キャリアはもちろん、ショップや肝心の消費者も大混乱するのは目に見えています」

ただ混乱するだけではない。ITジャーナリストの石川 温(つつむ)氏が語る。

「最低2年保証されていたユーザーとの契約期間があてにならなくなるわけですから、経済原理から考えれば3大キャリア側としては、秋に導入する新プランでは月々の通信料金を値上げしてバランスを取りたいところ。しかし、従来より月々の料金が下がったことが現行プランのウリなのですから、それをまた値上げするとなると消費者の反発を招くので、おそらくは据え置くでしょう。

となると各キャリアは減益分を自社でのみ込まざるをえず、結果、企業体力が削られてインフラ整備などへの投資が減り、通信品質が落ちる可能性も出てきます」

また、今回の会議では解約金の値下げとともに、通信契約とセットで販売する端末の値引き額を、現在の最大半額から上限2万円とすることも定められた。

「端末の過剰な値引きは通信料金が原資になっているので、それを規制することで頻繁に端末を買い替える携帯マニアばかりが恩恵を受け、通信料金が高止まりする構造を改める意図のようです。

しかし、たまたま今秋以降に買い替えを考えている一般的なユーザーも、従来より割高な価格での端末購入を強いられるわけで、誰もトクをしないのです」(石川氏)

結局、今秋からの施策はどれもありがた迷惑でしかなさそう......。

■今秋から参入の楽天がカギを握る

そもそも解約金の大幅値下げ自体、既存の他キャリアへの乗り換えを促進する起爆剤にはなりえないのだという。

「現在、大手キャリア間で月々の通信料金の差はほとんどありません。ユーザーにとっては、契約中のキャリアを切ってまでほかに移る理由が存在しない状況です。かといって、いわゆる格安スマホに流れるかといえば、通信品質やアフターケアに不安を抱くユーザーが多く、こちらもあまり期待できない。

結局、かつて大手キャリアの一部が力を入れていた長期契約者への割引を残してもらったほうが、ユーザーにはよほどありがたい話だったのです。総務省も当初は長期利用者優遇の方向性だったのに、最近は競争促進の姿勢が強まり、あまり重視しなくなってきています」(佐野氏)

では、そうまであれこれ口出しする総務省の真の狙いは、どこにあるのか?

「ズバリ、今秋から参入する第4のキャリア、楽天モバイルにユーザーを誘導するためです。楽天モバイルは3大キャリアよりも割安な通信料金設定をしてくるとみられているので、そちらへどんどんユーザーを移して競争を促進させ、ほかの大手キャリアもさらに値下げをする方向に持っていきたいのです」(佐野氏)

しかもその総務省の思惑があったところへ、さらに上からの"意向"が加わっている様子なのだとか。

総務省が楽天モバイルを優遇したいのは基本路線なのですが、当初は既存大手キャリア側の負担も考え、解約金を4000〜5000円に下げさせる線でキャリアとの合意も取れていました。

ところが、そこへ夏の参院選に向けた人気取りや、10月の消費増税への不満の軽減をもくろんだ現政権が、上限1000円という非現実的な数字を総務省に押しつけたと囁(ささや)かれています」(石川氏)

なんともキナくさい話......。だが、ここまでのあからさまなお膳立てをもってしても、楽天モバイルが秋にロケットスタートできる保証はどこにもないという。

「携帯電話は、ただ通信料金が安ければ契約者が増えるというものではありません。地道にインフラ整備をして、どこでもつながりやすい環境をいかにつくれるかが生命線。

auの回線を借りる地方部はともかく、イチから自社ネットワークを立ち上げる都市部で、もし楽天モバイルのサービス開始早々に『つながりにくい』という印象が広まったりすれば、大コケもしかねないですよ」(佐野氏)

インパクトこそ抜群の「解約金上限1000円」化。だが、いったいそれで誰がトクをするのだろうか? 

せめて総務省の胸算用どおり、楽天モバイルが契約者を大量獲得し、それを機に各キャリアによる通信料金値下げバトルが再燃してもらいたいものだが......。