最後は、できるだけ肯定的な言葉で終わらせる
 ─言葉を工夫して気づかせることでしょうか。
 岩井「最後は肯定的な言葉で終わることを心がけました。人間は最後の言葉しか残らないと思います。だから全員にバカヤローと言っても、「こういうことは経験者が気づくといいな」と自覚を促したりすると、上級生の腹にしっかりと落ちる」

 個別に話すことも増やしています。言い方も自覚を促すようにしています。「俺にはこう見えているが、お前はどう思ってやっているのか」と。『それは無意識か』『無意識だったら怖い。意識しなさい。次に無意識でやっていたら、お前を叱る』というように気づかせるには忍耐が必要です。私自身だいぶ我慢するようになりました。前は『コラァ、何やってるんだ』と言えばよかったから(笑)」

 ─専門のコーチを入れていないのも、気づかせるという意味があるのでしょうか。
 岩井「代わりに生徒をコーチにする学生コーチという仕組みを採用しています。自立のための1つの方法です。学生コーチが指示を出して動くようになれば、生徒が自分たちで動いて組み立てられるので、本当に強くなる。それが理想です」

 「チームでは雑用は下級生はやらないんです。上級生がやる。だから下級生は野球に専念できるんです。新入生なら『なんて良い部に入ったのだろう』と思う。すると花咲愛が生まれ、チームに貢献しようという気持ちが芽生えてくる」

 「部員が150人いるので、誰もがレギュラーになれるわけではありません。試合に出れない生徒も出てくる。その居場所をつくってあげることも大事なんです。試合に出れない生徒にはタイミングをみて、『学生コーチをチームのためにやってくれないか』と言います」

 「貢献の仕方というのは試合に出るだけじゃないわけです。学生コーチになって練習を見てくれたり、グランド整備をやってくれたり、石を拾ってくれたり。それだけでも貢献なんだということがわかってくる。そうやって1人ひとりが自立していくから、周りが見えてチームに貢献する気持ちが生まれ、行動となっていく。レギュラー選手が試合に出れない生徒のぶんもしっかりやろうと思ったとき、花咲のパワーはものすごいものになる。150人のパワーが結集するわけですから」必要なメニューを自分で考え、効果を想像しながら、練習に取り組む

監督や管理者は、現場にとどまらずできるだけ外に出て刺激をもらう
 ─よりしっかり現場で1人ひとりを見ていく必要が出てきますね。
岩井「以前は、毎日グランドに出ることが自分の美学でした。心配と不安でグランドに行きたくなくなることもありましたがそれでも行きました。そうすると、ストレスが溜まって、余裕がなくなって生徒に感情をぶつけてしまう。結局、自分の世界は学校とグランドのせいぜい半径4〜500メートルくらい。自分の視野も広がらないわけです」

 「1人ひとりに目をかけるためにグラウンドに出るだけでなく、指導者自らも積極的に外に出て自分の専門外のことを学ぶべきだと思います。たとえば、先日は、チアリーディングの先生の話を聞く機会があり、彼女は「私は7つ笑顔ができる」と言っていました。元ミス・ユニバースの方に会ったときは「私は5つの立ち姿ができる」と言っていました。そこで言葉だけで表情も仕草も気を使っていかないと、コミュニケーションの質が高まらないということを知るわけです。叱るときは怒った表情をする。ほめるときはほめる表情と仕草をする。こうした新たな発見をするためにも外に出て刺激を得て、学ばないといけません」

 ─岩井監督が考える理想の指導者は。
岩井「私は、教室全体、部員全体に向けて話すことと1人に向き合う話し方を使い分けられる人が理想の指導者だと思います。会社組織で言えば、全社に向けて話すことと個人に向って個性を引き出す話し方が使い分けできる人だと思います。そのために指導者は引き出しを多く持つ必要があります。視野を広く持ち、視点を上から下から、横にも広げる。過去現在未来から見てみる。でも型は変えない。ある茶道の先生に教わったこととして印象に残っていることがあります。“華道や武士道というのは型を教えている”ということです。あの型を崩すと続かない。高校野球も毎年甲子園にあれだけの人が見に来てくれているのは、型がしっかりしているからだと思うのです」

 「私が本当に嬉しいのは勝った負けたではないんです。生徒が変化したときです。声をかけれなかった生徒が周りに声をかけ始めたときや、キャプテンシーがなかったキャプテンがキャプテンシーを持ったときとか。その瞬間を何気ない会話で見られたり、切羽詰まった状況の中で強さを見せたり、そういう変化した瞬間が嬉しい。その小さな変化を引き出すのがコーチングじゃないかと思いますね」
(聞き手=佐藤さとる)

〈私のコーチングの流儀〉考え、想像させ、決断できる力を養う
 自立させることを目的に、全体に対しての接し方、個に対する接し方を切り分けて、生徒に考えさせ、想像させ、判断させることを繰り返すこと。そのための引き出しを持つために、できるだけ外の世界に接することです。

〈略歴〉
いわい たかし
1969年生まれ。川口市立先並中、桐光学園高、東北福祉大を経て花咲徳栄高校の教員に。名将稲垣人司氏のもとで同校野球部のコーチを9年務め、2001年より監督。甲子園の常連校に育て2017年夏の大会で埼玉県勢初の優勝を飾る。