【新車のツボ127】スバル・レガシィアウトバック目からウロコの、元祖なんちゃってSUV
普通のステーションワゴンやハッチバックの車高をカサ上げして、少し飾りをつけただけの"なんちゃってSUV風グルマ"は、失礼ながら、お手軽商品そのものである。
ただ、この種のクルマは意外(ふたたび失礼)に人気がある。なるほど、「本格的なSUV性能は不要だし、あまり大げさなカタチは好きじゃないけど、ちょっとした未舗装や段差などに気づかいしなくていい」とか「安心できる定番商品ながらも、少しだけ人とちがうヤツがほしい」といった絶妙なニーズに、こうした"なんちゃって系"はちょうどいい。
スバルのレガシィアウトバックは、本来はニッチ商品だった"なんちゃって系"のなかでも、定番に昇格した代表格といっていい。というか、じつはアウトバックは、なんちゃって系SUV風ステーションワゴンの元祖的な存在だったりする。
アウトバックの初代にあたる"グランドワゴン"は2代目レガシィツーリングワゴンをベースに1995年に発売された。この種のクルマは今では世界中のメーカーが当たり前のようにつくっているが、この初代グランドワゴンがほぼ世界初だ。
スバル=富士重工は自動車メーカーとしては小規模。SUVは当時から流行のきざしを見せていたものの、スバルに新型SUVをゼロから新開発するほどの体力はない。そこで編み出されたのが、ワゴンの車高だけを上げて、"新しいカタチのSUV"といいきってしまう手法だった。いわば苦肉の策である。
発売当時は"ちょっと奇妙なレガシィ"として、一部の変なモノ好き(さらに失礼)のノリモノだったグランドワゴン=アウトバックも、時代とともにジワジワと人気が出て、とくに世界最大票田のアメリカではちょっとしたカリスマ的存在に成長する。
あげくの果てに、先代の5代目レガシィでは、アメリカ向けは元のツーリングワゴンをなくしてアウトバックに統一。そして一昨年にデビューした現行レガシィでは、あの(かつてはレガシィの代名詞的存在だった)ツーリングワゴンが世界的に廃止! 日本でもアウトバックのみとなってしまった。さしずめ『軒を貸して母屋を取られる』ということか!?
スバルのワゴンというと、いまだに"荷物が積めるスポーツカー"とばかりギンギンに走るイメージをお持ちの向きも多いだろう。その役割は、今はレヴォーグが担う。アウトバックはそれとは対照的に、「もともとがニッチ商品」や「最初に火が点いたのはアメリカ」といった前記のような出自もあって、どことなく大陸的というか、牧歌的なホッコリ系テイストである。それは細かなデザイン、内外装のカラーづかい、走りの味つけなど、クルマ全体に貫かれている。
だから、最新のアウトバックのエンジンには、スバル最高性能のギンギン系ターボは用意されず、大排気量でゆったりと走る2.5リッターのみ。最大のキモとなる最低地上高は本格オフロード車なみに200mmもあって、曲がり性能も、あえて"ほどほど"のレベルで寸止めされているのが、アウトバックらしい。いわば癒し系の乗り心地だ。
しかも、さすが"遊び上手大国"のアメリカで鍛えられてきただけに、遊びグルマのツボが、そこかしこに注入されている。
たとえば、寒いときにありがたいシートヒーターは、アウトバックでは後席用まで標準装備となる。この価格帯のクルマでは明らかに贅沢品といっていいが、それが単なる高級車としてのイバリではなく、「後席に乗せた犬が寒がる」というユーザーからのリアルな声に応えた結果という。また、ドアを開けたときの下部分(専門用語でサイドシル)が、アウトバックではやけに幅広くなっているのだが、これも屋根上につけたラックやボックスに、荷物を載せる踏み台として使えるように配慮したためだ。どれも、そのウンチクを聞くと、目からウロコのツボばかりだ。
スバルの本拠地である群馬県といえば、自然は豊かで農林業もさかん。山間部は雪深い。スバルというと、一部マニアはラリーでの活躍やかつてのレガシィを思い出して、ギンギンな走り一辺倒のイメージをお持ちかもしれない。だが、本来のスバルは伝統的に、あぜ道での走破性や荷物の積み下ろしやすさなど、地味ではあるが、地に足が着いたクルマづくりを身上としてきた。
アウトバックには、そんなスバルの良心的な伝統と世界のトレンド......という2つのツボが、"なんちゃって"という商品コンセプトを介して、なんともイイ感じに融合している。
佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune