“クレアチニン”上昇の放置は危険?がんの「薬」に潜む落とし穴【医師監修】

腎細胞がんそのものが原因でクレアチニン値が急激に上昇することは多くありません。しかし、手術や薬物療法を行うことで腎機能が変化し、値が上がることがあります。特に片方の腎臓をすべて摘出した場合や、腎毒性(腎臓へのダメージ)を持つ薬剤を使用する場合には、定期的な測定が欠かせません。治療のどの段階で注意が必要かを把握しておきましょう。

監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)

長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科

腎細胞がんの治療方針決定におけるクレアチニン検査の活用

腎細胞がんの診断や治療管理において、クレアチニン検査はさまざまな場面で活用されています。このセクションでは、老廃物の排泄機能を示すクレアチニン検査が、どのように腎細胞がんの診療に役立てられているかを具体的に説明します。

クレアチニン検査が行われるタイミングと目的

クレアチニンとは、筋肉を動かした際に生じる老廃物の一種です。本来であれば腎臓でろ過されて尿と一緒に体外へ排泄されますが、腎機能が低下すると血液中に溜まっていきます。そのため、健康診断や定期的な血液検査の際に行われるスクリーニング(初期のふるい分け検査)として広く実施されています。腎細胞がんが疑われる場合や、すでに診断されている場合には、以下のような重要な目的でクレアチニン検査が活用されます。

まず、治療前の「現在の腎機能評価」として使用されます。腎細胞がんの手術(がんのある部分だけを切除する部分切除術か、片方の腎臓をすべて摘出する全摘術かなど)や薬物療法を行う前に、残された腎臓がどの程度働けるかを確認することは、治療方針を決める際の極めて重要な情報となります。腎機能があらかじめ低下している場合は、使用できる抗がん剤や分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬の種類・投与量が制限されたり、手術の切除範囲を慎重に検討したりする必要が生じます。

次に、治療後の経過観察や回復の評価として役立ちます。手術で片方の腎臓を摘出した場合や薬物療法を開始した後も、残った腎臓の機能が適切に保たれているかを定期的に確認するため、クレアチニン検査は継続して行われます。特に術後の腎機能の変化を長期的に追うことで、低下した機能の回復状況や合併症の早期発見につながります。

また、薬物療法中の副作用モニタリングとしても非常に重要です。腎細胞がんの治療に用いられる分子標的薬や一部の薬剤の中には、腎毒性(腎臓の細胞にダメージを与える性質)を持つものがあります。クレアチニン値を定期的に測定することで、薬剤による腎機能への悪影響を早期に察知し、必要に応じて薬剤の休薬や減量調整を行うことができます。

クレアチニン値の変化が示すサイン

クレアチニン値が急激に上昇した場合は、何らかの原因で腎臓の機能が短期間で急激に低下していることを示しています。このような状態は「急性腎障害(AKI)」と呼ばれ、速やかな原因特定と医療処置が必要です。一方、クレアチニン値が数ヶ月~数年かけて徐々に上昇している場合は、慢性的な腎機能の低下(慢性腎臓病など)が進行している可能性を示しています。

腎細胞がんの治療中にクレアチニン値の上昇を指摘された場合は、自己判断せず担当医とよく相談することが大切です。不安だからといって自己判断で処方薬の服用を勝手に中止したり、受診を遅らせたりすることは、かえってがんの治療や全身状態を悪化させるリスクがあります。クレアチニン値の変化は、ご自身の腎臓の状態を知らせてくれる大切なSOSのシグナルとして受け止めてください。

また、臨床ではクレアチニン値だけでなく、クレアチニン値に年齢や性別を掛け合わせて算出する「eGFR(推算糸球体ろ過量:腎臓のろ過能力を表す数値)」や、血液中の「尿素窒素(BUN)」などの検査値も合わせて総合的に評価されます。筋肉量によって変動しやすいクレアチニン値にeGFRを組み合わせることで、現在の腎機能の全体像をより客観的かつ正確に把握することができます。健康診断や病院の検査で異常値を指摘された際には、数値が持つ意味や今後の対応について主治医へ確認することをおすすめします。

まとめ

腎細胞がんは初期症状が現れにくいため、早期発見には健康診断での超音波(エコー)検査や尿検査が非常に有効です。また、血液検査でわかる「クレアチニン値」は、がんの直接的なサインではありませんが、いざ手術や薬物療法を行うとなった際に、残された腎臓の機能を評価するための重要なバロメーターとなります。クレアチニン値の異常を指摘された場合は慢性腎臓病などの可能性もあるため、自己判断せずに腎臓内科を受診し、ご自身の腎機能を正しく把握しておくことをおすすめします。

参考文献

国立がん研究センター「腎がんとは | 国立がん研究センター中央病院」

厚生労働省「健康・医療腎疾患対策」

がん情報サービス「腎臓がん(腎細胞がん) 検査」