(※写真はイメージです/PIXTA)

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生命保険文化センターの2025年度「生活保障に関する調査」によると、60代女性の約91.2%が自身のケガや病気に対して不安を感じていることがわかっています。実際に、過去5年間で入院を経験した60代女性は18.0%。平均入院日数は「14.3日fr、52.4%)が8日以上の入院を経験しているなど、決して特別なケースではなく、年齢を重ねれば誰もが直面し得る身近なリスクです。だからこそ、いざというときのために金銭的な備えを万全にしている人も多いでしょう。しかし、入院中や退院後の生活を本当に支えるのは、用意したお金だけなのでしょうか。

人生初の入院への準備

65歳で同い年のルミさん夫婦は、2人の子どもがすでに独立し、現在は夫婦水入らずの生活を送っています。夫は過去に更年期障害の症状に悩まされた時期があったものの、基本的には健康で風邪をひくのも年に1〜2回程度。定年退職後も再雇用の仕事を続けながら、休日は趣味のゴルフを楽しむなど活力的です。

一方のルミさん自身も大病や大怪我をしたことがなく、「我が家は健康だけが取り柄」と自負してきました。

そんなルミさんでしたが、以前から悪化させていた腰の椎名板ヘルニアの手術が決まり、約2週間、人生で初めて入院することに。

「これまでの人生で入院の経験がなかったので、まずは高額療養費制度の手続きや保険金の給付条件を確認し、2週間でかかるであろう自己負担分のお金をしっかり準備しました。お金の面での準備は万全だったのですが……」

夫に合わせて決めた退院日

ルミさんは退院時のサポートについて夫と打ち合わせをしていました。術後の経過が順調であれば入院期間は約2週間。そこでルミさんは、再雇用の勤務日やゴルフの予定が入っていない「2週間後の夫の都合がいい日」を退院日と見定め、夫にこうお願いしていました。

「退院が決まったら車で迎えに来てほしいから、この日だけは絶対に予定を入れないで空けておいてね」

夫もその場では頷いていましたが、それでもルミさんは心配だったため、入院の10日前、1週間前、前日に夫に念押しして頼み、手術に臨みました。そして予定どおり経過は良好で、事前に予定していた日に退院が決まったのです。

安堵したルミさんが病院から夫に「予定どおり退院が決まったから、迎えをお願いね」と電話をかけたところ、戻ってきたのは思いもよらない返答でした。

「えっ、その日? ずっと行ってみかったコンサートのチケットがもらえたんだけど……」

あらかじめ何度も確認したはずの退院日でした。電話口で激しい口論となり、最終的には夫が渋々コンサートをあきらめて車を出すことで決着したものの、ルミさんはあれほど念押ししたお願いが一切頭に残っていなかった夫の態度に、ただ呆れるばかりだったといいます。

入院中の「思いやりゼロ」

夫への苛立ちは、入院中のやりとりのなかでも深まっていました。

面会に来る夫に対し、ルミさんは入院生活で必要な食べ物やちょっとした日用品の差し入れを頼むことがありました。どれも病院のすぐ近くにあるコンビニやスーパーで簡単に手に入るものばかりです。しかし、夫は指定したものとはまったく違うものを買ってきたり、「忙しくて買えなかった」と手ぶらで現れたりすることが度々ありました。

「大した手間でもない買い物すら頼んだとおりにできない。自由に動けない私に対して、気配りや思いやりも感じられませんでした。情けなさと怒りでいっぱいです」

病人である妻の立場に立ち、少しでも快適に過ごせるよう気を配る姿勢が、夫からは微塵も感じられなかったのです。

退院後の大きな懸念

今回の件で浮き彫りになったのは、夫の思いやりの欠如だけではありません。退院後の「生活維持とお金」に関しても、ルミさんには大きな懸念が重くのしかかっています。

腰の手術を終えたばかりのルミさんは、退院後もしばらくは重い物を持つことや長時間の立ち仕事が制限されます。本来であれば同居する夫の家事サポートが不可欠です。しかし、自分の楽しみやスケジュールを最優先し、身の回りの細やかな配慮すらできない夫に、退院後の家事やケアを頼ることは困難といわざるを得ません。

夫が家事を担えない場合、食事の宅配サービスや家事代行サービスを定期的に頼む必要が出てきます。月に数万円単位の追加出費が発生し、定年後の夫婦の生活費を圧迫しました。

「妻が倒れても自分のペースを崩さない」夫の姿を目の当たりにしたことで、今後お互いに本格的な介護が必要になった際、夫を頼りにできないことが明白になりました。より手厚い民間サービスや施設利用を想定した資金計画の見直しを迫られることに。医療費そのものは公的保障や自己資金でカバーできても、配偶者の無関心によって発生する「追加の生活コスト」や「精神的ストレス」は想像以上に大きいものでした。

今後の老後設計

退院後、ルミさんは無事に自宅へ戻ったものの、夫に対する冷めた気持ちが消えることはありません。

「40年間、子育てや家事を当たり前のようにやってきましたが、今回私が入院したことで『私の夫って、こんな人だったんだ』と思ってしまいました」

病気や入院は、家族の絆や危機管理意識が試される機会です。お金で解決できる医療費やサービスの手配と違い、パートナーからの自発的な配慮や思いやりはお金で買い求めることができません。長年連れ添った夫婦であっても、「自分の身や健康は、最終的には自分で守るしかない」という現実を受け入れることは決して悲観的なことばかりではないでしょう。

夫に過度な期待を抱くのをやめ、退院後のサポートが必要なら迷わず有償の外部サービスを利用する。そして、自分のための医療費や生活防衛資金をしっかりと手元に確保しておくこと。結婚40年目という節目に直面した今回の出来事は、ルミさんにとって、夫との適切な「距離感」を保ちながら自分の老後を守っていくための、大きな転換点となったのかもしれません。