“出口がない”“終わりが見えない”…「バックルームズ」は不安感が漂うホラー・スリラー(金澤誠/映画ライター)
弱冠21歳のケイン・パーソンズが監督したホラースリラー「バックルームズ」が9月4日に日本で公開される。今年5月に全米で公開されると、「スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー」を抑え、全米と世界興行収入ランキング1位を獲得。史上最年少の全米・世界興行収入1位作の監督になった。
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同作は、1990年のシリコンバレー近郊にある家具店の販売員・クラークが、ショールームの地下に異空間への入り口を発見し、調査するうちに消息を絶つところから始まる。彼が通院していたクリニックのセラピスト・メアリーは、音信不通になったクラークを心配し、家具店にやってくるが、彼女も異空間(バックルームズ)へと迷い込む。
元ネタは2019年5月、匿名掲示板4chanに“違和感を覚える画像を投稿するスレッド”として、黄色の壁紙に囲まれ、蛍光灯に照らされた誰もいない空間の画像が投稿された。8時間後、画像の説明を思わせる文章が投稿される。
「現実から外れ落ちると、古くて湿ったカーペットのにおいと、単調な黄色の壁と、ハム音を発する蛍光灯の雑音と、約15兆平方メートルを超えて広がる、区分けされた空っぽな部屋に閉じ込められる、バックルームズへ行きつくことになる」というのが大まかな内容。ここからインターネット発祥の都市伝説である「クリーピーパスタ」のひとつとして、拡張されていった。
監督のケイン・パーソンズは、22年に当時16歳で短編「The Backrooms(Found Footage)」を監督して、YouTubeで公開。この短編は話題になりシリーズに発展し、再生回数は2億回以上に達した。彼の才能に目を付けた映画製作会社A24が長編映画化をオファーし、ケインが19歳の時に撮影、20歳で作品が公開された。
元のバックルームズが瞬く間に世界中で支持されたのは、最初に投稿された「リミナルスペース」の空間画像。懐かしさと恐怖の感情を見る者に喚起させた。どこかで見たことのあるオフィスやくすんだカーペット、人工的なのにどこにも人がいない不安を感じさせる空間。ノスタルジーと怖さが同居した空間が多くの人々の心の中に入り込んでいった。
映画もまた彼らの過去にも分け入っていくように描かれ、記憶と恐怖を刺激する、映像体験を提供している。誰もいない空間に迷い込んだ人間を描く映画では、地下通路の無限ループから抜け出そうとする二宮和也主演の「8番出口」(25年)があったが、同作はゲームソフトがもとなので、脱出するためのルールがある。だがこちらは“出口がない”“終わりが見えない”不安感が、恐怖の根源になっている。
漠然とした不安に世界の観客が共鳴しているところに、今のホラーの特徴が読み取れる。混迷した時代の空気を敏感に感じ、作品世界を作り上げたケイン監督恐るべし。かつてスティーブン・スピルバーグは、「ジョーズ」(75年)を28歳で監督したが、さらに若いケイン監督。先々楽しみな新鋭である。
(金澤誠/映画ライター)
