被害の詳細を語った高倉良一氏(右)と高倉氏のもとに送られてきた女性の写真

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 長年にわたり国立大学の教壇に立ち、学生に法律を説いてきた見識ある人でさえ、かくも容易く騙されてしまうのか――。香川大学名誉教授で法学者の高倉良一氏(71)が恋愛感情を抱かせて金銭を詐取する「ロマンス詐欺」の被害に遭った。被害総額は925万円。騙された経緯をライターの河合桃子氏が聞いた。【前後編の前編】

【写真】ピチピチのノースリーブ姿で… 高倉良一氏のもとに送られてきた女性の写真

"愛子"と名乗る中国在住女性からメッセージ

 きっかけは高倉氏が日記代わりに綴るフェイスブックの投稿だった。2024年5月2日、書斎に溜め込んだ本や資料を断捨離する様子を投稿。高倉氏は当時を振り返る。

「それまで自分が培ってきた教養を手放す作業は過去との告別式です。寂しさとも違う自分の人生の否定にも似て、身を切る思いでした。そんな思いの共感を得たくて日記に綴ったのです。するとすぐさま、見知らぬ"愛子"と名乗る中国の深セン在住で日中ハーフだという女性(37)からメッセージが届きました」

 それは"断捨離"という行動について「素敵だ」と肯定するものだった。そして愛子が質問し、高倉氏が答える形で退職後の生活や趣味、将来に関するやり取りが続いた。

〈高倉さんの目標はとても偉大ですね〉

〈敬服します〉

 愛子は常に高倉氏を敬う言葉を重ねてきた。

「いま思えば愛子は自然と私の状況を聞き出し獲物として相応しいか面接していたのでしょう」

 高倉氏は法学者として人間性心理学など58本の論文を書き、法に関する講演もしてきた。なぜそのような人物が騙されたのか。

「まずフェイスブックのメッセージで『この女性は同志だ』と思うほど心を掴まれました。それは決して若い女性と色恋に発展したいなどという浅はかな下心ではなく、同じ思いを共有する人間同士として歩む未来を想像するほどの絆めいたものを感じてしまいました。『気軽に話せるから』と途中からLINEでのやり取りに変わったことも、2人きりの密室に移動したようで喜びを感じてしまった」

最初のやり取りから10日間ほどで強烈な信頼関係

 高倉氏は50代後半で離婚し、現在は成人する子供らとは面会できないまま過ごしてきた。その間、風俗や恋愛にも興味を持たず、それが孤独だったわけでもなく、ただ教壇に立つことだけが生き甲斐だった。

「妻には私との夫婦関係よりも優先したいことがあった。しかし愛子は『あなたは偉大だ』とすべてを認め、定年退職後に実践したいと構想を練っていた夢も肯定してくれた」

 この時点で高倉氏の内心には愛子への信頼が芽生え、そんななかで、投資に関する話が出た。それも勧誘ではなく、こんな巧妙な物言いで、だ。

「最初、愛子は『優れた叔父から投資を勉強中で500ドルの利益を得た』と話してきた。この時点では勧誘してこなかった。なぜか自身の過去の酷い婚約破棄に関する話を打ち明けてきたのです。これを『私だから話した』とか『私との縁を感じる』とも付け加えて。最初のやり取りから10日間ほどという短期間ですが、私は愛子を支えたいとも思ったし、また、強烈な信頼関係を築いたような気がしてしまった」

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【プロフィール】

河合桃子(かわい・ももこ)/1977年、東京都生まれ。ライター。週刊誌を中心に執筆。幅広く取材活動を行なっており、特に性風俗にまつわる事件などアングラな業界を長年取材している。第32回小学館ノンフィクション大賞を受賞した『地面師連絡役カトウ』が6月に刊行。

※週刊ポスト2026年7月24・31日号