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 9人組アイドルグループ「Next☆Rico」が6月30日に2ndシングル「TickTack」を発売した。これを記念して、彩本芽生がスポニチ東京本社でソロインタビューに臨んだ。3部作の最終回では、舞台からアイドルを志した原点、二つの現場を走り続ける現在、そして「現状維持は停滞ではなく後退だ」という言葉を刻む今に迫る。(推し面取材班)

 1年半前、舞台の世界からアイドルへ踏み出したばかりの彩本芽生を取材した。

 まだ、アイドルになりきれてはいなかった。150センチの身体を目いっぱい伸ばし、少しでもその輪郭へ近づこうとしている。笑顔にも、話し方にも、舞台で役を背負ってきた人の硬さがほんのりと残っていた。

 そして今、目の前には、しっかりとアイドル然とした姿がある。

 カメラを向けられた時の口角。言葉を受け取った瞬間の表情。客席へ届く自分を知った者のたたずまいが、もう無理なく身体に馴染んでいた。思わず口をついた。

 「すっかりアイドルらしくなりましたね」

 「本当ですか? 嬉しいです!」

 声が弾み、顔いっぱいに笑みが広がった。

 アイドルを志した原点は、舞台の上にある。共演したピュアリーモンスターの西門志織や、当時、純情のアフィリアに所属していた桜田アンナ。芝居だけでなく、歌い、踊り、観客の視線を受け止める姿に目を奪われた。

 「ステージでの見せ方がすごくキラキラしていて、かっこよくて。アイドルさんってすごくかっこいいんだな、やってみたいなと思ったのがきっかけです」

 最初に抱いたのは、「可愛い」よりも「かっこいい」という感覚だった。

 舞台では、役の人生を背負って客席へ差し出す。台本に書かれた言葉を、照明と呼吸の中で届ける。観客は暗闇から、その物語を受け取る。

 ライブは違った。

 初めてアイドルとしてステージに立つと、自分の色(チェリーパープル)を身につけた人がいた。ペンライトが揺れ、名前を呼ぶ声が飛んできた。

 「舞台は、こちらがお芝居をして“観てもらう”ことに集中する部分があります。でもライブは、パフォーマンスしている側と、観てくださる側が一緒に作る時間なんだなと思いました」

 その衝撃を身体が受け止めきれず、最初のステージではマイクを何度も歯にぶつけた。

 思い出して笑う声は軽い。だが、舞台経験を積んだ者であっても、役名ではなく「彩本芽生」として視線を浴びる場所は、まったく別の世界だった。

 芝居の仕事は続いている。稽古へ向かい、台本を読み、役の人生を身体へ入れる。舞台の本番中、休演日にライブが入ることもある。生誕祭と公演期間が重なることもある。

 「お芝居との両立でスケジュールが本当に忙しくて。。いっぱいやることがあってパニックになることもあります」

 二つの現場から、同時に名前を呼ばれる。台本を開けば振り入れが気になり、ライブへ向かえば役のせりふが頭をよぎる。オンとオフの境目は消え、移動中も帰宅後も、次の予定が時計の針を追い立てる。

 「めちゃくちゃ大変です。でも、今のところなんとかできています。ずっと駆け抜けていますね」

 「なんとか」という四文字の中には、風呂やソファで意識を失うように眠る夜も含まれている。それでも、舞台の幕が上がれば役として立ち、ライブの照明がともれば笑顔でぴょんぴょんぴょんと跳ねる。

 だが、終演後に残るのは達成感だけではない。

 「常に壁は感じています」

 返事は早かった。

 一度のライブが終わるたび、「ここはもっとできた」「もう少し楽しませられた」と振り返る。芝居との両立で、すべてに十分な時間を割けない日もある。

 でも、満足できないから、続けられる。

 その渇望が言語化された。最近出演した舞台のせりふが浮かぶ。

 「現状維持は停滞ではなく後退だ」

 家族をテーマにした作品だった。夢を追う人、諦めかけた人、それぞれの背中を押す物語。その中で発せられた一言が、台本の外へ飛び出し、現在の彩本の生活に居座っている。

 「自信がないと、挑戦することさえ諦めてしまいそうになることがあるんです。やらないで、“現状維持でもいいかな”って自分に甘くなってしまう時もあるけど…。やっぱり“停滞”だと思うと嫌だなって」

 前へ進みたい、と口にするのは簡単だ。だが、進む先には失敗がある。時間が足りなくなり、誰かに迷惑をかけ、思い描いた形に届かない日もある。

 今までは、目の前に迫る仕事をこなすだけで精いっぱいだった。最近は、SNSをどのくらいの頻度で更新するか、小さな目標を立てられるようになった。昔弾いていたギターを再開したい。唎酒師として日本酒をさらに極めたい。同じ誕生日を持つ吉村侑莉との合同生誕ライブも、より多くの人へ届けたい。

 忙しさが消えたわけではない。ただ、次の予定に追われるだけだった視界に、自分の手で未来を書き込む余白が生まれた。

 1年半前、アイドルへ近づこうと、小さな身体は懸命に背伸びをしていた。

 今、足の裏はしっかりとステージを捉えている。笑顔も、マイクの持ち方も、客席との時間の作り方も、もう借り物ではない。

 それでも、かかとは床に落ち着かない。アイドルになれたからではなく、その先にまだ届いていない景色があるからだ。

 彩本芽生は今日も、舞台とライブの間でつま先を上げる。現状維持という床から、ほんの少しでも高い場所へ手を伸ばすために。