加隈亜衣

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 ルーデウスと出会い、ぶつかり、心を通わせ、そして彼にふさわしく「強くなる」ためにそのもとを離れたエリス・ボレアス・グレイラット。テレビアニメ『無職転生III 〜異世界行ったら本気だす〜』では、第2期で物語の表舞台から離れていたエリスの歩みが、再び描かれる。エリス役の加隈亜衣は、第2期を「エリスとしては薄目で見ているような感覚もあった」と振り返る。ルーデウスの物語を見届けたい一方で、エリスを演じてきたからこそ胸が痛む――。その複雑な思いを抱えながら、第3期で加隈が見つめたのは、強く、真っすぐで、それでもどこまでも不器用なエリスの成長だった。インタビューでは、第3期での芝居の変化、エリスにとってのルーデウスの存在、そして加隈自身の上京や“修行編”ともいえる下積み時代について語ってもらった。

【写真】加隈亜衣インタビュー撮り下ろし&「エリス修行編」場面カット集(20枚)

■加隈亜衣が見つめた、エリスの不器用な成長と変化

――『無職転生II』でエリスが登場しない間、加隈さんはルーデウスたちの物語をどのような気持ちで見守っていましたか?

加隈:ルーデウスがどんどん深いところに落ちていく姿を見るのは、やっぱり苦しかったです。しかも第2期では、ルーデウスとシルフィの距離が少しずつ縮まっていくじゃないですか。そこで「おや、これはもう見られないぞ」と(笑)。最初の頃は、なかなか向き合えませんでした。

第1期とは作品の空気感もまた違っていましたし、普通に視聴者として楽しめたらよかったんですけど、どうしてもエリスの気持ちが自分の中に重なってしまって。ルーデウスの物語を見届けたい。でも、エリスを演じてきた身としては、少し胸が痛む。そんな感覚がありました。

それでも、イベントに呼んでいただく機会もあって、「第2期のお話をするのに、見ていないわけにはいかない」と思ったんです。もちろん『無職転生』という作品が大好きですし、この先どうなっていくのかも知っていました。だから思い切って見てみたら……めちゃくちゃ面白かったです(笑)。ただ、エリスとしては、どこか薄目で見ているような感覚もあって。監督にも「なかなか見られなかったんですけど、実際に見たらすごく楽しかったです」とお伝えしました。

それに、ルーデウス役の内山夕実ちゃんが本当に頑張っていたんです。私は第2期に直接関わっていなかったにもかかわらず、相談してくれたり、いろいろ話してくれたりして。だから私自身も、作品の外側にいながら、ずっと本気で応援していました。

自分のその距離感やスタンスが正しいのかは、正直少し難しいところもありました。でも、それを受け入れてくださる方が多かったのはありがたかったです。エリスとしては少し目を細めながら、でも視聴者としてはしっかり心を動かされながら、本当に複雑な気持ちで見守っていました。

――『無職転生III』の第1・2話では「エリス修行編」が描かれます。第1期のエリスは“激しさ”や“荒々しさ”が印象的でしたが、第3期で変化を感じた部分や、演じるうえで大切にされたことはありますか?

加隈:初期の頃から考えると、まず「人と喋れる子になったな」と思います(笑)。最初は本当に、動物というか、獣から人間になっていくような感覚があったんです。

ただ、それもルーデウスやルイジェルドといった親しい人たちがいて、誰かを介してほかの人と話すことが多かったんですよね。獣族との会話では、少し珍しくお姉さんのような立場で話していた印象もありましたけど、それ以外は基本的にルーデウスが中心にいて、彼に手綱を引いてもらっていたような感覚がありました。

でも第3期では、その手綱を自分で放している。もちろんギレーヌはそばにいますけど、自分の意思で話さなきゃいけない、自分のやりたいことに向かって一人で突っ走らなきゃいけない。序盤には、その焦りや焦燥感がずっとあるように感じていました。

だから、以前はうまく話せていたように見えた部分も、また少しうまくいかなくなっているというか。エリスは自分の思いが強いぶん、すごく絡まりやすい子だと思うんです。「あんたみたいな雑魚に用はないわ!」と言ってしまうところもそうですし、同世代の女の子との会話も、きっとあまり得意ではない。そもそも、そういう会話をあまりしてこなかった子なんですよね。

年齢のわりに不器用なところがある一方で、ものすごく強い部分もある。そのバランスのおかしさが、エリスらしさなのかなと思っています。だから第3期では、そのアンバランスさを大事にしながら、「今のエリスはどういう子なんだろう」と改めて考えて収録に臨んでいました。

――第1期の頃と比べて、エリスの声や芝居のトーンで変えた部分はありますか?

加隈:だいぶ変えています。初登場の頃が一番声も高くて、そこから時系列や成長に合わせて、少しずつ変化させていきました。

意識していたのは、ルーデウスを主軸にしたときのバランスです。エリスは年齢的にはルーデウスよりお姉ちゃんなんですけど、精神面では全然そうではないじゃないですか。だから、ルーデウスより少しお姉ちゃんではあるけれど、どこか子どもっぽくも見えるように、という気持ちで第1期は演じていました。

今回の第3期では、さらにエリスが大きく成長していく部分があります。そこを声や芝居のトーンでどう表現するかは、すごく考えました。ロキシーは変わらない印象がありますが、シルフィはかなり変化していますし、ルーデウスも声のトーンが低くなっている。だからこそ、全員が同じように低くなりすぎても難しいなと思ったんです。

なので、テストの段階でいろいろ試しながら、エリスとしてのちょうどいい位置を探っていくような感覚でした。第1期からのエリスらしさは残しつつ、今の彼女がどこまで成長しているのか。そのバランスを確認しながら収録に臨んでいました。


■「恋愛感情だけでは足りない」エリスにとってのルーデウス

――エリスはルーデウスのもとを離れ、「強くなる」という決意を胸に剣の道へ進みました。その決断を、加隈さんはどのように受け止めましたか?

加隈:そこに至るまで、エリス自身、本当に濃い時間を過ごしてきたと思うんです。大変な目にもたくさん遭っていますし、家族を失うという出来事もあった。でも、彼女はもともと強い意志を持っている子なので、そういう痛みや傷が見えづらいところもあるのかなと思います。

家族を失ったと知ったときも、エリスは泣いていないんですよね。「私、ひとりになっちゃった」という弱音のようなものをルーデウスにこぼすことはありましたけど、涙を見せるわけではなかった。そんな彼女が唯一、ボロボロ泣いたのが、第1期でオルステッドと戦って「ルーデウスが死んじゃうかと思った」と言ったときなんです。

家族を失ったときにも流さなかった涙を、ルーデウスを失うかもしれないと思ったこわさで流した。戻ってきてくれた安堵も、不安も、恐怖も、全部が一気にあふれたんだと思います。それくらい大きな衝撃を受けた彼女が、胸に決めたことだったんですよね。

ただ、エリスは言葉にするのがすごく苦手な子です。そこにエリスの良さも出ていると思うんですけど、そのブレなさや真っすぐさ、素敵な部分が、見事に裏目に出てしまった別れ方だったなとも感じています。

あの決意自体は、すごくかっこいいですし、エリスらしいと思います。ルーデウスからしたら「言ってよ」と思うのも分かるんです。でも、きちんと言葉にして別れることは、エリスにはできなかったんだろうなと。

言えないことは、彼女なりの弱さでもある。もしかしたら、言ってしまったら行けなかったのかもしれない。決心が鈍ってしまうから、言えなかったのかもしれない。そういう不器用さも含めて、エリスらしい選択だったのかなと思います。

――初登場時は家庭教師としてやってきたルーデウスに強く反発していたエリスですが、旅や別れを経て、彼はエリスにとってどんな存在になっていったと感じていますか?

加隈:最初は「また追い出してやるわ!」くらいの気持ちだったと思います。出会い方も、馬乗りになって殴りかかるような形でしたし(笑)。でも、その出会いから割とすぐに、エリスはルーデウスのすごさを目の当たりにして、助けてもらって、少しずつ彼の存在が大きくなっていったんだと思います。

ルーデウスは、エリスにとって先生でもあり、お兄ちゃんのような存在でもあり、家族でもある。本当に“すべて”に近い存在なんだろうなと、ずっと感じていました。

恋愛感情という言葉だけでは、たぶん足りないんです。呼吸をするみたいに、空気みたいに、酸素みたいに、エリスにとっては当たり前に必要な存在。大切にしようと意識するより前に、もう自分の中にあるものなんだと思います。

だから、エリスの口癖のようにルーデウスの名前が出てくるのも、すごく自然なことなんですよね。削っても削っても、最後に残るものはルーデウスしかない。エリスという子の根っこの部分には、ずっとルーデウスがいるんだと思います。


■会社員から声優へ――加隈亜衣の“修行編”と、背中を押してくれた親の存在

――エリスは、不安や迷いを抱えながらも、自分が決めた道に向かって真っすぐ進んでいくキャラクターです。加隈さんご自身にも、当時は勢いで進んだけれど、振り返ると今の自分を作る大きな力になっていた出来事はありますか?

加隈:やっぱり、上京したことは大きかったと思います。私は福岡出身で、地元に住んでいた頃は会社員をしていたんです。でも、転職して「声の仕事をしたい」と思ったんですよね。

もちろん、福岡でも声の仕事は探せばあったのかもしれません。ただ、人生の中で「これをやりたい」と強く思えることが、私にはそんなに多くなかったんです。だからこそ、せっかくそう思えたなら、ちゃんと東京で学んで挑戦したい。そう思って上京しました。

今振り返ると、本当に勢いで動いていたなと思います。「今だ」と思って、そのまま飛び出したような感覚でした。失敗したらどうしようとか、うまくいかなかったら福岡に戻るのかとか、そういうことはあまり考えていなくて。貯金して上京資金が貯まったときに、「行ける。行けるチケットを手に入れたんだ」と思って、そのまま東京に来てしまったんです。

でも、その感覚は少しエリスに似ているのかもしれません。エリスもきっと、ルーデウスと離れている間に彼に何かあったらどうしようとか、誰かほかの人が近づいていたらどうしようとか、そういうことまでは考えていない気がするんです。自分が決めたことに向かって、ただ真っすぐ進んでいる。

もちろん、あとから見れば不安になる要素はいくらでもあります。でも、そのときには見えないからこそ進めることもあるし、ひとつのことしか見えていないときだからこそ出せる熱量もあると思うんです。

私自身、当時は「ものすごい覚悟を持って上京した」という感覚ではありませんでした。ただ、会社員から転職して声優を目指すという選択は、周りから見れば「すごいね」と言われることでもあるし、「怖いよね」とも言われることだったんですよね。今になって振り返ると、「確かに怖いことをしていたんだな」と思います。

でも、そのときの自分には、怖がるより先に「行くんだ」という気持ちがありました。その真っすぐさや、あとから気づく怖さも含めて、今の自分を作ってくれた大きな力だったと思います。

――ちなみに、声優としての「修行編」はいつだったと思いますか?

加隈:アルバイトをしながら養成所に通っていた頃ですね。毎日、どうやって食費を切り詰めるかを考えていましたし、養成所やレッスンのあとに「みんなでご飯に行きます」となったときも、「ここで先生やマネージャーさんのお話を聞けるかもしれない」と思うと、その機会を逃したくなかったんです。

ご飯会が長引いて終電を逃し、始発まで待つこともありました。そのまま一度家に帰って、シャワーだけ浴びて、また次の日のアルバイトへ行く。今振り返るとかなり無茶をしていたなと思いますけど、当時は「少しでも吸収したい」という気持ちのほうが大きかったんだと思います。

最初の頃にいただいたお仕事も、自分にとっては大きな修行でした。ゲームのお仕事だったんですけど、とにかく収録量が膨大で。まだ養成所生で何も分からないまま大量の台本をいただいて、「今日はこれを録ります」と言われて。台本を前にしながら、「これで合っているのかな」と不安な気持ちもありながら現場に臨んでいました。

台本のチェックの仕方も、ゲーム収録ならではの進め方も、最初は分からないことばかりでした。でも、現場では自分で判断しなければいけない場面も多くて、誰かに全部を聞けるわけではない。だから、自分なりに確認しながら、とにかく食らいついていくしかありませんでした。

そういう意味では、本当に“1000本ノック”のような感覚でした。生活面でも、現場でも、毎日何かに鍛えられていた。余裕はなかったけれど、あの時期に必死で積み重ねた時間が、今の自分の土台になっていると思います。

――エリスにとってのルーデウスのように、加隈さんご自身にとって「この人の存在が糧になった」と感じる方はいらっしゃいますか?

加隈:親の存在ですね。私が上京を決めたのは、ちょうど東日本大震災があった年でした。3月に上京する予定で、その前に一度、東京へ部屋を決めに行くことになっていたんです。でも、その飛行機に乗る2日前に震災が起きて。結局、予定は先延ばしになり、部屋も決まらないまま上京することになりました。

きっと親も、ものすごく不安だったと思います。それでも、いよいよ東京へ向かう日、空港まで見送りに来てくれたんです。そのときの、心配そうで、でも私の背中を押そうとしてくれている切ない表情を、今でもふと思い出します。「本当に大丈夫かな」と思いながら、それでも私の決断を尊重して送り出してくれたんだろうなって。

今振り返ると、本当によく送り出してくれたなと思います。不安も心配もあったはずなのに、私がやりたいと思ったことを止めずに見守ってくれて、何かあれば支えてくれた。その親の思いと距離感が、自分にとってすごく大きな支えでした。

もし距離が近すぎたら、きっと甘えすぎてしまったと思うんです。でも、離れた場所からちゃんと見守ってくれていると分かっていたからこそ、「しっかりしなきゃ」「弱音ばかり吐いていられないな」と思えたところがありました。

だから、声のお仕事や雑誌に載せていただけたときに名前が載っているのを報告できることも、自分の中では大きなモチベーションになっていました。少しずつでも頑張っている姿を伝えたい。安心させたい。そう思わせてくれた存在という意味でも、私にとって糧になったのは、やっぱり親だと思います。

――最後に、『無職転生III』の放送開始を楽しみにしているファンのみなさんに向けて、「ここを見てほしい!」というポイントを含めてメッセージをお願いします。

加隈:まずは、「エリスもいるよ!」というところですね(笑)。第3期では、エリスはエリスで必死に頑張っていますし、ルーデウスたちもそれぞれの場所で前に進んでいる。その時間や思いが少しずつ交わっていくところに、『無職転生』ならではの面白さがあると思います。「あのとき、こっちではこんなことが起きていたんだ」と分かっていく仕掛けもいろいろあるので、そういう部分も楽しみにしていただきたいです。

そして、エリスの頑張りに関しては、見るというより、ぜひ“感じて”ほしいです。エリスは、自分の思いを言葉で丁寧に語るタイプではありません。だからこそ、「この表情はどういう意味なんだろう」「この行動にはどんな気持ちが込められているんだろう」と、彼女の表情や行動から受け取ってもらえたらうれしいです。

(取材・文・写真:吉野庫之介)

 テレビアニメ『無職転生III 〜異世界行ったら本気だす〜』の第1・2話は【エリス修行編】と題して特別連続放送。7月4日にTOKYO MXにて20時〜21時に放送され、7月5日にBS11、KBS京都、サンテレビでも連続放送。以降、7月12日よりTOKYO MX、BS11にて毎週日曜24時、KBS京都24時45分、サンテレビ25時30分に通常放送。ABEMA、dアニメストアは7月4日より毎話地上波同時・最速先行配信。他配信サービスでも7月8日24時より順次配信開始。