バスで暴れ回る男の子を「一発で静かにさせた」“意外な言葉”とは? 車内にほっこり笑顔が広がった
今回は、そんな場面で思わず「なるほど」と感じてしまう注意のしかたを目撃したエピソードをご紹介しましょう。
◆車内に広がるヒヤッとする空気
ある日の仕事帰り、原田佳苗さん(仮名・32歳)は、いつものように路線バスに乗っていました。
「いつものように、つり革につかまりながら揺られていると、後部座席からやたら元気すぎる声が聞こえてきたんですよね」
「男の子は手すりを叩いて、笑って、またジャンプ、とすごいテンションで。近くの人が困った顔で『危ないよ』と声をかけても、全く聞く耳を持たない感じでした」
その様子に、車内には少しずつ緊張した空気が流れ始めていました。バスは揺れますし、急停車することもあります。転倒すれば大きなケガにつながりかねません。
佳苗さんが「これはさすがに……」と一歩踏み出そうとした、その瞬間でした。
◆年上の男の子が見せた意外な行動
「ふと前方の座席から小学校高学年ぐらいの男の子が立ち上がり、その子の前まで歩いてきたんですよね」
年上の男の子は怒るでもなく落ち着いた様子で、騒いでいる子の目線に合わせるようにして、ゆっくり声をかけました。
「それさ、“バスのステージ”やってるの?」
「え?」と、騒いでいた子の動きがピタリと止まったそう。
おそらく「バスのステージ」という有名なゲームは存在しません。けれど高学年の男の子は、この場をあえてゲームに見立てることで、相手の興味を引きつけようとしたのです。
◆ゲームオーバーという言葉で伝えた危険
「高学年の子が『だったら、ジャンプするとゲームオーバーのやつだよ』と真っ直ぐに見つめると、騒いでいた子の表情が一変したんですよ」
騒いでいた子は目を真ん丸にして「え、なにそれ?」と食いついてきたそう。
高学年男子は、あくまで真顔のまま「急に止まったらドーンってなって、はい終了。しかもコンティニューなし」と説明を続けます。
バスはいつ揺れるか分かりません。立ったりジャンプしたりしていれば、バランスを崩して転倒、怪我をしてしまう……つまりゲームオーバー。子どもにも分かりやすい形で、「危ない行動」を自然に伝えているように聞こえました。
「すると周囲から、フフッと小さな笑いが漏れたんですよね」
空気が少し和らぎます。説教ではなく、あくまで遊びの延長のようなやり取り。それが、場の緊張を和らげていきました。
◆少年が導いた、笑顔の結末
「騒いでいた男の子が『えー?』と考えこんでしまうと、その様子を見た高学年男子が少しだけ口元をゆるめて『でもちゃんと座ってたら、ぜったい最後までクリアできるよ』と、彼を見つめながら伝えたんですよ」
ちゃんと座っていれば安全に目的地まで行ける。それをゲームクリアという形で伝えることで、行動のゴールを分かりやすく伝えたのです。
「すると騒いでいた子は、少し迷ったあとゆっくりと座席に座り直し『じゃあ座る』と大人しくなったんですよね」
あれほどはしゃいでいたのが嘘のように、静かに座り直すと、高学年の男の子は「それに、その方がかっこいいしね」と軽くうなずいたそう。
そして彼は、何事もなかったかのように自分の席へ戻っていきました。
「私は思わずその背中を目で追ってしまいました。怒るでもなく、押さえつけるでもなく、でもちゃんと騒ぐ子を静かにさせ着席させた凄技に、なんだか胸を打たれてしまったんですよね」
車内には、どこかほっとした空気が流れていたそう。
後ろの方からは「説明うまいなぁ……」「大人より大人だね」そんな声が聞こえてきて笑顔が広がり、佳苗さんもつい大きく頷いてしまいました。
「見ず知らずの男の子に、頭ごなしに叱るのではなく、相手の世界に寄り添いながら伝えることの重要性を教わりました。そして、その方がより相手の心に響くし、周りも笑顔になれるということも」と微笑む佳苗さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
