【小林 美希】ある日突然、顔に原因不明の激痛…酷い虫歯かと思ったら珍しい病気「三叉神経痛」だった「恐ろしい実態」

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顔に原因不明の激痛が走る――。

酷い虫歯かと思って歯科にかかると歯に異常がない。そんなとき、「三叉(さんさ)神経痛」という珍しい病気の可能性があることは、あまり知られていない。

歯が痛いと思って歯科にかかる人が多いが、実は、脳神経外科で診てもらう必要がある。三叉神経痛は「人間が感じる中で最も強い痛み」とさえ言われる10万人に1人という珍しい病気であるが、加齢に伴い誰にでも起こり得る病気だ。

三叉神経痛になると、一体どのような痛みが起こるのか。茨城県水戸市にある脳疾患と心疾患の専門病院「水戸ブレインハートセンター」で手術を受けた3人のケースを紹介する。

1時間に10〜15回、針で刺されるような痛み

看護師の竹内直人さん(43歳)が三叉神経痛になったのは2019年。ご飯を食べていたら右耳の後ろに痛みを感じた。「右上の歯が削られて、そのまま貫かれるような激痛だった」という。週1〜2回の頻度で痛んだため、知覚過敏かと思って様子を見ていた。

竹内さんの勤め先は、三叉神経痛の手術を行うことができる数少ない病院である水戸ブレイハートセンター。痛くなることが数週間続き、「もしや、三叉神経痛ではないか……」とは思うが、そう信じたくはなかった。

三叉神経痛とは、脳神経のひとつ「三叉神経」に血管が触れることで痛みが引き起こされる病気である。加齢に伴って血管が屈曲して三叉神経を圧迫することから、誰にでも起こり得る病気だ。三叉神経は、左右のこめかみの奥から顔に広がる神経のため、痛みが顔に生じる。食事、歯磨き、洗顔、会話をする時に激しい痛みが出るのが特徴だ。

竹内さんは仕事柄、三叉神経痛のことをよく知り、手術という医療行為は日常のなかにある。その竹内さんにとっても頭の手術を受けるのは怖かった。竹内さんは職場で相談もできず、「歯が原因ならいいな」と淡い期待を抱いて歯科で治療を行った。2本の歯の神経を抜いて痛みが治まったが、数ヵ月後にまた激痛が走った。

その後は1時間に10〜15回、1回当たり数秒だが、何度も針で刺されているような痛みが起こる。歯磨きをすると激痛。話をしても笑っても痛い。中華料理屋で、いつも食べている大盛チャーハンと餃子のセットを頼むと、餃子を一口、チャーハンを三口食べただけで限界に。「残して、すみません」と言って店を出た。豆腐と味噌汁、ゼリータイプの栄養飲料しか口にすることができず、体重が5キロ減った。

地獄のような毎日に、「自分もそうではないか」と薄々は気づいていたが、認めたくない。そんな竹内さんを見ていた同僚からの強い勧めでMRI検査を受けると、やはり三叉神経痛だった。

三叉神経痛の治療方法は4つある。?薬による治療、?局所麻酔による神経ブロック、?放射線治療(ガンマナイフ)、?手術によって三叉神経を圧迫する動脈の位置を変える――となる。三叉神経痛の手術の第一人者である水戸ブレインハートセンターの畑山徹院長は、こう解説する。

「薬は人によっては副作用が出たり、だんだん効かなくなるケースがあります。根本治療となるのが手術です。手術では耳の後ろを切開し、頭蓋骨に500円玉ほどの穴を開け、神経と血管を離していきます。平均的には2〜3時間で手術は終わります。それまで険しく暗い表情だった患者さんが、手術の後には見違えるように明るくなっていきます」

竹内さんは「診断がつけば、手術を受けたほうがいい」と、覚悟を決めた。勤務先で同僚らによって手術が行われると、オペ後は嘘のように痛みがなくなった。その後、竹内さんは三叉神経痛の患者に「自分も手術をしたんですよ。私もオペ前は怖かったけど、今となっては笑い話」と体験談も交え、患者の不安を取り除くことができるようコミュニケーションをとっている。

「痛い、痛い、痛い」、そしてうつ病に…

「手術は嫌だと思って薬を飲んでいましたが、いよいよ拷問のような苦しみになると腹をくくりました」

埼玉県在住の木村雅一さん(仮名、69歳)が振り返る。最初に三叉神経痛の痛みが出たのは40代半ばの頃だった。当時、企業の営業職だった木村さん。出勤前にシャワーを浴びて頭を洗っていると、突然、左の肩の上に電気が走るような痛みが起こった。失神するかと思うくらいの痛みで5分ほど動けなくなった。

神経内科を受診すると、「三叉神経痛」だと診断された。処方された薬を飲むと副作用で発疹が出たため、他の薬に変えて様子を見ていた。冬の寒い時期には風が顔に当たっただけで痛みが出たが、まだその頃は、我慢できる程度の痛みだった。年によって、痛みが出るところが頬や唇に移り、マスクをつけられなくなった。定年退職してからの2023〜2024年頃には我慢できない痛みに。

痛さで話をすることも困難な状態。勢いをつけて大きな声を出し、短い言葉しか言えない。妻に対して「ご飯まだか!」「ご飯作れ!」と怒りっぽい口調になってしまい、しょっちゅう「痛い、痛い、痛い」と叫んでしまう。食べられるものといえば、おじや、うどん。ろくに食事もとれず、動くだけでも痛くなるため、じっとして家にいて昼からお酒を飲む。うつ症状も出た。そうした生活を1ヵ月半送った。

かかりつけ医に週に1回は頬に注射を打ってもらい、点滴で痛み止めを入れてもらったが、効果があるのは数時間。帰宅する頃には激痛が走る。痛みで不機嫌な様子に、妻は当たらず触らず。娘は分かってくれてはいるものの、「お父さんと一緒にいるの嫌だ」と煙たがった。幼い孫は、おじいちゃんを怖がった。その頃の痛みについて木村さんは、「真っ赤になった火箸をそのまま歯茎に当てられるような拷問でした」と振り返る。

神経内科の医師からは薬の服用ではなく手術を勧められ、「手術は怖いけれど、この拷問状態から抜けられるなら」と決断したのだった。木村さんも水戸ブレインハートセンターに紹介され、2025年3月に手術を受けると前述の竹内さんと同様に、痛みから解放されたのだった。

「食べるのが痛くて痛くて、あれだけ嫌だった食事でしたが、術後の入院中は3食が配膳されるのが楽しみでした。痛みがなくなり、まるで人生が180度変ったようです。何より家族が喜んでいます」(木村さん)

今では同居する孫の保育園の送り迎えを手伝い、車を運転して妻とたまの旅行に出かけることを楽しみにする生活を送っている。

顔に髪の毛1本触れるだけでも痛い

都内在住の佐藤真由美さん(60歳)は、保育園で働きながら三叉神経痛に耐えていた。

2010年の春、目と鼻の間にどーんと鈍痛を感じた。かかりつけの耳鼻科にかかると「もしかしたら三叉神経痛ではないか」と、脳神経外科の受診を勧められた。

しかし、脳神経外科では「これは三叉神経痛ではない。気持ちの問題だ」と言われ、精神科の受診を勧められた。腑に落ちない真由美さんが再びかかりつけの耳鼻科に行くと、「症状からすると三叉神経痛だとは思うけれど」と、痛み止めを処方された。

最初の頃は鈍痛だったが、歯磨きするのも酷い痛みで、そーっと磨くため1時間もかかった。ストローを吸う力もなくなり、「さしすせそ」を発語するのが辛い。そのうち、保育園で勤務中にも針で深く刺されるうような痛みが突然起こり、倒れそうになることが増えていった。壁にもたれかからないと自分を支えられず、子どもたちを抱っこするのは危険な状況になった。そんな様子に気づいていたのか、子どもたちは、「いたいの、いたいの、とんでいけー」と優しくしてくれた。

脳神経外科で三叉神経痛を否定されたことが納得いかなかった真由美さんは自分で調べ、2017年になって三叉神経痛の権威と言われる埼玉県内にある大学病院の医師を訪ねた。すると三叉神経痛だと診断され、医師は「よく今までうつ病にならずにいられたね」と慰めてくれた。そして、治療が始まった。

薬を飲んだが、痛みの出る間隔が短くなり、5分ごとに激痛が起こるようになった。髪の毛が1本でも顔に触れれば痛くて耐えられない状態に。2020年3月に手術が予定されたが、オペ室に入る手術で切開する部分に湿疹が出てしまい、手術は中止。新型コロナウイルスの感染が流行し始め、次の手術の見通しがたたない。病室に戻って「この痛みからやっと解放されると思ったのに」とがっかりする真由美さんに、同室の女性が声をかけた。

「私たちには明日がない。このまま緩和ケア病棟(看取りまでの間を過ごす病棟)に移るんです。コロナが落ち着けば手術はできるから。次のチャンスが来るまで頑張って」

そこは血液内科病棟。相部屋だったため、血液の癌が治らず余命を待つ患者がいたのだ。

痛みのせいで常に寝不足で、見える景色がすべてグレーがかるなか、真由美さんは「なんで私ばかり辛いのか」「いっそ、死んでしまいたい」と自死も考えたが、その女性の言葉に救われ、思いとどまることができた。

当時、コロナの感染拡大の影響で多くの病院が感染の恐れから手術そのものを中止にし始めていた。都心で手術が受けられなくなった真由美さんは、水戸ブレインハートセンターで手術を受けられることを知り、2020年5月に手術を受けることとなった。

「手術後、目の前に見える景色の色が変わりました。今は趣味の手芸に忙しくして、毎日が楽しい。大変なことがあってもなんとかなると思えるようになりました」(真由美さん)

このように地獄のような苦しみから脱するには、まず適切な医療にアクセスすることがカギとなる。つまり、脳神経外科の受診が必要不可欠なのだ。ただ、三叉神経痛の認知度が低いこともあり、多くの人は虫歯の痛みだと思って歯科にかかる。眼科や内科に行く人もいるが、そこで同疾患を疑う医師はそう多くはない。

水戸ブレインハートセンターの畑山院長は、「脳外科にたどり着かず、痛みを我慢する期間が長くなってしまう患者さんがいかに多いか。歯が痛いと思って歯科医に診てもらっても原因が分からない場合、三叉神経痛の疑いがあると思って脳神経外科や口腔外科にかかってみてほしい。手術によって約9割の患者さんは完全に痛みがなくなります」と話し、三叉神経痛についての啓蒙活動や医師の育成に注力している。

三叉神経痛の痛みの程度や間隔には個人差があり、我慢できてしまうこともあるようだが、原因不明の顔面の痛みや異常を感じたら、「三叉神経痛」という病気があることを思い出してみてほしい。

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