昨日6月10日(水)第10話(最終話)を放送した日本テレビ系水曜ドラマ「月夜行路 ―答えは名作の中に―」(TVer:第1話〜第3話・最新話を無料配信中 / Hulu:全話とオリジナルストーリーを配信中)。

数々の名作ドラマレビュー記事を手掛ける「テレビ視聴しつ」室長・大石庸平氏は、最終話をどう見たか?場面写真とともに紹介する。

(※以下、最終話のネタバレを含みます)

本作は、家族から蔑ろにされ寂しさを抱える専業主婦の涼子(麻生久美子)が、文学オタクで洞察力に優れたバーのママ・ルナ(波瑠)と出会ったことから始まるロードミステリーだ。

<多彩な要素と一貫した物語の軸>

振り返ってみれば、今作を構成していた要素は実に多彩であった。
文学をヒントに事件を解決するミステリー。トランスジェンダー女性であるルナという主人公。旅路を共にする涼子との友情物語。涼子が抱えていた過去の悲恋と、その決着。ルナが小説家だったという背景と、その編集者である涼子の夫への密かな恋心。さらに東京編では、長年の確執を抱えた父との関係や、父が残したパソコンのパスワード探しも描かれた。

また、毎回描かれる事件も、心中に見せかけた殺人事件にはじまり、強盗、爆破予告、遺産相続問題など、決して軽いものばかりではなかった。けれど今作は、そのある意味キャッチーな題材やミステリー性そのものを主役にはしなかった。あくまでも、その奥にある“人情”を描き続けてきたのである。だからこそ、一見すると多くの要素が詰め込まれているようでいて、不思議なほど物語はぶれていなかった。

<本作が描いたテーマ――「自分であること」とその過程>

では、最終回を迎えた今、本作が本当に描きたかったものとは一体何だったのだろうか?

それは、ルナの父・英介(石橋凌)が最後に記していたように、“吾輩は吾輩である”と胸を張って言えることだったのではないだろうか。つまり、自分は自分であると受け入れることだ。

だが、その答えは決して一人では見つからない。最終回で丁寧に描かれた父と子がそうだったように、ルナと涼子の友情もまたそうだった。さらに、これまで描かれてきた数々の事件の中でも、人は誰かと関わり、傷つき、支え合いながら、自分が何者なのかを確かめ続けていた。

そしてそれは、決して一瞬で辿り着ける答えではない。本作が約10時間をかけてルナと涼子の関係性の変遷を描いてきたように、父がルナを認めるまでにも長い時間が必要だった。人が自分を受け入れ、誰かを受け入れることには、それ相応の時間がかかる。今作は、その当たり前の事実を丁寧に描き続けてきたのだ。

本作が描いていたのは、ミステリーの謎解きだけではなく、その奥にある“自分探しの旅”だった。だからこそ、多くの要素を盛り込みながらも散漫にならず、最後まで一本の芯を保ち続けることができたのだろう。

また思えば、そのテーマは緑黄色社会が歌う主題歌「章」にも通じていた。「私でいたい」と歌った切実な願いは、まさに今作全体を貫くメッセージでもあった。ドラマの始まりから終わりまで、一貫してその同じテーマが流れていたことに気付かされる最終回でもあった。

<作品を支えた表現力と三位一体の魅力>

そして最後に、本作をここまで魅力的な作品へと押し上げたのは、まさに三位一体の力にほかならない。

ルナという難しい役柄を、繊細さとチャーミングさを両立させながら演じ切った波瑠。そして、涼子という等身大の女性をどこまでも温かく体現した麻生久美子。脇を固めた俳優たちもまた生き生きとしており、それぞれの人生を確かに感じさせてくれた。

さらに、扱い方によっては重苦しくもなり得た題材を、どこまでも優しく、人情味豊かに紡いだ清水友佳子氏の脚本と見事な構成力。そして、ミステリーでありながら前向きな空気を失わせず、ナレーションやFace 2 fAKEのポップな劇伴を採用するなどして作品全体を軽やかにデコレーションしてみせた制作陣。そのすべてが噛み合ったからこそ、この作品ならではの空気感が生まれた。

――文学、ミステリー、人情、友情、家族、そしてアイデンティティー。

数多くの要素を抱えながら、それらを決して難解なものにはせず、どこまでも優しく、カジュアルに描き切った『月夜行路』。最後まで、このドラマらしい爽やかな余韻を残してくれた。そんな愛すべき作品であった。

<番組情報>

原作:秋吉理香子『月夜行路』(講談社文庫)『月夜行路 Returns』(講談社)
脚本:清水友佳子
音楽:Face 2 fAKE
チーフプロデューサー:道坂忠久
プロデューサー:水嶋陽、小田玲奈、松山雅則
トランスジェンダー表現監修:西原さつき、若林佑真、白川大介
演出:丸谷俊平、明石広人
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
製作著作:日本テレビ

番組公式SNS、ホームページ
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・Instagram:@getsuyakouro
・TikTok:@getsuyakouro
・ホームページ:https://www.ntv.co.jp/getsuyakouro/
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<原作情報>

『月夜行路』 
四十五歳の誕生日、孤独な主婦の沢辻涼子は家を出た。偶然出会った美しいバーのママ・野宮ルナは、深い文学知識と洞察力を活かした推理で、かつての恋人への涼子の思いを言い当てる。最愛の彼はなぜ涼子のもとを去ったのか?二人が始めた元彼探しの旅先で、明らかになる秘密とは。涙のサプライズエンディング!
発売中 講談社文庫

『月夜行路 Returns』
元彼探しの旅から戻った涼子が再びルナを訪ねたとき、店に届いた古いノートパソコン。誰が、何のために送ってきたのか。涼子は、パソコンを開くパスワード探しを手伝うことに。行く先々で事件に巻き込まれながら、パスワードを試していく二人。願いを込めた仕掛けに挑めるチャンスは、5回。鍵を握るのは、1冊の本。
発売中 講談社

【秋吉理香子 プロフィール】
兵庫県出身。早稲田大学第一文学部卒業。ロヨラ・メリーマウント大学大学院にて映画・TV番組制作修士号取得。2008年、第3回Yahoo! JAPAN文学賞を受賞し、2009年に『雪の花』でデビュー。主な著作に『月夜行路』『悪女たちのレシピ』『終活中毒』『無人島ロワイヤル』『暗黒女子』などがある。