調査の進展は?(写真はイメージ)

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またしても官製談合の疑い

 北海道新幹線の延伸工事を巡り、談合が行われていた疑いが強まったとして5月19日、公正取引委員会が独占禁止法違反容疑でJR東日本グループのユニオン建設(東京)や、JR北海道グループの北海道軌道施設工業(札幌)など、計9社の鉄道工事会社へ立ち入り検査を実施した。公取委は札幌地検特別刑事部への刑事告発も視野に、調査を進めている。

【写真を見る】特捜部長時代に3人の国会議員を逮捕…“次の次の検事総長”の呼び声が高い“エース”の最高検刑事部長時代

 本件を巡っては、「リニア中央新幹線建設談合事件」(2018年)に続く大型事件となる可能性があり、法務・検察上層部も捜査に前向きとみられることから、公取委の調査の行方に注目が集まっている。

調査の進展は?(写真はイメージ)

 公取委関係者によると、9社は札幌延伸に伴う北海道新幹線のレール敷設工事の入札で2024年から25年までの間、落札会社を事前に調整する談合を繰り返していた疑いがもたれている。容疑の対象となった落札額は合計200億円だが、同新幹線は事業規模が3兆5000億円にも膨らんでおり、氷山の一角とみられる。発注元は独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」(神奈川)で、同時に立ち入り検査を受けた。

 同機構は北陸新幹線の融雪設備工事を巡る談合事件で、予定価格を漏らしていた職員2人が東京地検特捜部に官製談合防止法違反の罪で立件されており(2014年)、機構も関与した官製談合が繰り返されていた疑いも浮上している。

 北陸新幹線の事件では、業者側8人が独禁法違反の罪で、発注者側2人が官製談合防止法違反の罪で、それぞれ立件され、公取委は独禁法違反容疑で刑事告発を行うとともに、入札の参加企業11社に排除措置命令を出し、うち7社に総額10億3500万円に上る課徴金の納付を命じている。

新幹線をめぐる事件

 東京地検特捜部が手がけた新幹線を巡る事件は冒頭に述べたように、まだある。2018年3月、JR東海が発注する総工費9兆円のリニア中央新幹線建設工事をめぐり、ゼネコン4社が事前に受注予定業者を話し合って決定していた疑いで、独占禁止法違反容疑で法人としての4社と担当者2人を逮捕・起訴した。特捜部長として、この事件の捜査を指揮したのが「特捜検察のエース」と謳われ、「次の次の検事総長」の呼び声が高い、森本宏・法務次官だ。

 法務次官は法務省事務次官の略称で、同ポストは東京高検検事長を経て検事総長に登り詰めるための登竜門である。森本次官は2017年9月から20年7月までおよそ3年間、東京地検特捜部長を務めている。3年間も特捜部長を務めるのは異例だが、森本次官の在任中は、現職の国会議員3人を逮捕した。検察OBの弁護士はこう語る。

「特捜部のヒラ検(一般の検事)や、副部長時代の実績もさることながら、東京地検の次席や最高検の刑事部長、法務省の刑事局長として、特捜部の捜査をコントロールしてきた特捜検察の実力者です。『今の検察は森本検察だ』と考えている法曹関係者は少なくありません」

 一方で森本次官には、捜査現場に没頭する特捜検事にありがちな、法務行政への無関心さとは一線を画す面もある。法務省でも刑事局参事官、大臣官房参事官、刑事局刑事課長や刑事局総務課長を歴任。特捜検事ら“現場捜査派”だけでなく、「充て検(行政職に充当された検事)」ら“赤レンガ派”からも一目置かれてきた。

 現職を含め、過去20人の検事総長のうち、法務次官を経験していないのは7人のみ。うち4人が特捜部長(1人は大阪地検で3人が東京地検)を経験している。つまり次官も特捜部長も経ていないのは3人だけで、両方経験している人物は1人もいないのだ。

「だからこそ、森本次官は総長に当確だと言われているのです」(前出の弁護士)

旧拓銀の不正融資で実績も

「北陸、リニア中央と、刑事事件化が進んだ新幹線は、次代に向けた国内最大級の大型インフラ工事です。不正の徹底排除に向けた公取委と検察の協力関係は、確固たるものとなっていると言っていい。その関係を盤石にしたのは森本次官と言ってもいい」

 同弁護士はこう語った上で「北海道新幹線は、工事現場は北海道だが、企業は東京を含め全国各地。札幌地検の特刑部でどこまでやれるのか」とも指摘する。

 特別刑事部(特刑部)は東京、大阪に続く「第3の特捜部」として名古屋地検特捜部が設置された際、合わせて札幌、仙台、千葉、さいたま、横浜、神戸、京都、高松、広島、福岡の10地検に置かれたいわば“準特捜部”だ。

 札幌地検特刑部はかつて、バブル崩壊後の不良債権処理で大手都銀の一角を占めた旧北海道拓殖銀行の経営陣による特別背任事件を北海道警と合同で立件した実績はある。しかし、東京地検特捜部が手掛けたこれまで2件の新幹線談合は、いずれも公取委と合同で強制調査に入ることにより着手している。今回は、公取委の任意の立ち入り検査がスタートとなっているため、状況が異なる面もあるのだ。

 しかし、ある公取委OBはこう打ち明ける。

「そもそも東京地検以外の地検と組んだ刑事事件は、まだ2件しかなく、公取委に強制調査権(犯則調査権)が2006年に付与されてから20年が過ぎたが、検察との連携捜査の“手法”は手探り状態が続いていると言っていい」

 事実、東京以外が立件した事件は過去に、大阪地検特捜部の汚泥・し尿処理施設談合と、名古屋地検特捜部の名古屋市営地下鉄談合の2件のみだ。また独立行政法人「地域医療機能推進機構」が発注する医薬品の入札を巡り、医薬品卸大手4社が事前に受注調整を行っていた談合事件では当初、公取委が2019年11月に任意の立ち入り検査を実施。悪質性を確認した上で20年10月に東京地検特捜部と合同で家宅捜索(公取委は強制調査、特捜部は強制捜査)へと乗りだし、翌12月に公取委の刑事告発を踏まえて特捜部が独占禁止法違反の罪で法人3社と担当7人を立件している。

4地検の筆頭格という立場

 北海道新幹線の談合は医薬品談合と同じパターンで、東京地検が公取委の事前調査結果を精査し、その上で手堅く立件するというパターンだけでなく、特別刑事部が手掛ける初のケースにするという選択肢もある。

「そもそも公取委の告発先は、法律の規定で検事総長に一元化されています。総長の指示で東京地検特捜部から札幌地検特刑部に応援検事を派遣させるという手法も取り得るのです」(前出・同公取委OB)

 また、多くの地検が各都府県の県庁所在地に庁舎を構え、県域全体をテリトリーとする中、広大な面積を誇る北海道には道庁が所在する札幌市を拠点とする札幌地検に加え、函館地検、釧路地検、2001年に全国初の女性検事正が誕生することとなった旭川地検の計4地検がある。北海道内の地検の筆頭格に当たる札幌地検は、3地検から応援検事を招集しやすい環境にもある。

 5月の立ち入り検査後、北海道南部の各自治体から懸念の声が上がる中、函館市の大泉潤市長は定例記者会見で、談合疑惑を「大変残念」としつつ「一日も早い開業を望んでいる」と述べた。道内での新幹線の期待値や注目度は想像以上に高く、仮に一般事件の処理に停滞が生じたとしても、道内の地検がマンパワーを結集させることに必然性はある。何より、地域の経済を脅かす事件に対処するという特刑部の使命を果たす絶好の機会である。

 大阪地検特捜部の証拠改竄事件(2010年)後に始まった検察改革の中では、特捜検察の東京地検への一本化も取り沙汰された。前出・検察OBの弁護士は「だからこそ、各地に点在する特刑部が、検察捜査の有効なオプションとなり得るかの試金石にもなる。札幌地検には成果を期待したい」と話す。

 特捜検察が萎縮のスパイラルに封じ込められるのか、復活の突破口を開くのか――その意味でも見物ではある。

岡本純一(おかもと・じゅんいち)
ジャーナリスト。特捜検察の捜査解説や検察内部の暗闘劇など司法分野を中心に執筆。月刊誌「新潮45」(休刊中)では過去に「裏金太り『小沢一郎』が逮捕される日」や「なぜ『東京高検検事長』は小沢一郎を守ったか」などの特集記事を手掛けた。

デイリー新潮編集部