「泣き崩れる母を、置いていくしかなかった」…82歳老親のために〈入居一時金3,500万円・豪華老人ホーム〉を選んだ息子が、10日後の面会で“激しく後悔”の理由
「お願いだから、家に帰らせて。ここは私の居場所じゃないの……」。高級老人ホームに入居してわずか10日。誰もが羨むような終の棲家で暮らす母が、長男に涙ながらに“実家に戻りたい”と訴えていました。一体何が起きたのでしょうか。※事例の人物名はすべて仮名です。
母のために高級老人ホームを選んだ息子
事の始まりは、82歳の母・礼子さんが自宅で転倒したことでした。礼子さんは夫亡き後、戸建てに一人暮らし。「万が一、発見が遅れていたら……」と危機感を覚えた長男の亮介さんは、老人ホームへの入居を提案しました。
息子の負担を考えると、同意せざるを得なかった礼子さん。問題は費用でしたが、実家の土地が高く売れることが判明。6,500万円の査定が出たのです。
亮介さんは、都内にある24時間看護スタッフ常駐の「介護付き有料老人ホーム」を選びました。
・入居一時金:3,500万円
・月額利用料:32万円(母の年金14万円+母の貯金1,000万円+売却益の残りで補填)
雑費を含めても、母の一生涯にわたって資金は持つ見込みでした。大切な母だからこそ安心の環境で過ごさせてあげたい。費用は高額ですが、亮介さんの想いを叶える環境だと思えました。
老人ホームの契約には入居一時金の払い込みが必要です。しかし、母自身のもつ貯金は1,000万円程度。そのため、実家を売却し、現金化して引き渡した後でなければ入居できませんでした。
実家を離れる日、礼子さんは寂しそうにポツリ。「もう、ここには戻れないのね」――。しかし、実家を売ったことが、2人を追い詰めることになります。
豪華な空間が辛い…それなのに「戻る家はない」
礼子さんが入居した施設は、コンシェルジュが常駐し、毎日のようにイベントが開かれる充実のサポート体制でした。しかし、夫亡き後、ひとり静かに暮らしてきた礼子さんにとって、その空間は異質すぎました。
入居者は華やかな経歴を持つ人が多く、会話に気後れした礼子さんは、入居して早々部屋に引きこもるようになります。
そして入居から10日後、礼子さんに会いに行った亮介さんに、礼子さんは涙ながらにこう言ったのです。
「亮介、ここは嫌。自分の家に帰りたい……」
しかし、すでに実家は他人のものになり、取り壊しが進んでいる。戻る家は、もうどこにもないのです。
「……慣れるまで、もう少し頑張ろう。ね、母さん」
握られた母の手をそっと離し、施設の担当者に母を預けるしかありませんでした。亮介さんは、その時の母を思い出しては良心の呵責に苦しみ、激しい後悔に襲われたのです。
「90日ルール」があっても、実家を売っていたら戻る場所はない
長年住んだ我が家を失い、見知らぬ場所で暮らす。自分に置き換えてみてもわかることですが、そのストレスは決して小さなものではありません。
礼子さんのように「施設が合わなかった」というケースは少なくありませんが、そうしたときのために「90日ルール」という仕組みがあります。90日ルール(短期解約特例)とは、老人ホームに入居後、90日以内に退去・死亡した場合、支払った入居一時金の大部分が返還されるもの。老人福祉法で定められています。
通常、入居時に数百万〜一千万円ほど差し引かれる「初期償却(お礼金のようなもの)」が全額免除され、実際に入居した日数分の家賃や管理費、食事代などの実費だけが日割りで差し引かれ、残りの大金が戻ってきます。
ただ、90日ルールがあっても、帰る家がないのであれば意味を成さないのです。
価格の高さや設備の豪華さ=「親の幸せ」ではない
亮介さんの「最高の環境を用意してあげたい」という気持ちは、母への思いやりに他なりません。しかし、価格の高さや設備の豪華さが、必ずしも親の幸せに直結するとは限らないのが、老後の住まい選びの難しさです。
もちろん、礼子さんのケースでは、半年〜1年後に状況が変わっている可能性もあります。そもそも“場”に慣れるのには、多少の時間がかかるもの。入居者の中で気の合う人が見つかったり、楽しみを見つけたり……。亮介さんの言ったように「慣れるまで待つ」ことは、老人ホーム入居において、誰にでも必要になるステップでしょう。
ただ、もし時間を戻せるとしたら、一気に進めず体験入居を徹底的に活用すべきでしょう。可能であれば、手元の預貯金などで先に数ヵ月分の月額費用を支払い、実家を残した状態で一度暮らしてみる。「ここなら大丈夫」と本人が確信してから、初めて実家を売却する方が間違いありません。
慎重すぎるほどのステップを踏むことが、親子ともに後悔しない終の棲家選びの大切な鍵となるはずです。
