記事のポイント
マリメッコは初のアプリで商品販売よりも体験価値を前面に打ち出した。
3500点超のプリントアーカイブを軸に、滞在時間と関係深化を促した。
通知型施策とロイヤルティ連動で継続的な接点づくりを図っている。


マリメッコが12月10日に初のモバイルアプリをローンチした。ファッションブランドが自社のクローズドなデジタルエコシステム構築を急速に進めるなかでの動きだが、同社は業界の潮流とは一線を画すアプローチを取っている。

ブランドによると、このアプリは購入可能な商品よりも、70年の歴史を持つプリントアーカイブを前面に押し出す設計となっている。

狙いは、熱心なファンがブランドと過ごす理由をつくり、もっともエンゲージメントの高い顧客との関係をより深く、かつ測定可能なものにすることにある。

「我々はこのアプリを、何よりもまずマリメッコの世界へのバックステージパスだと捉えている」と、CTOのミッキ・インケロイネン氏は語る。

3500点超のプリントアーカイブを核に据えたアプリ設計



その中核をなすのが、1951年から現在までにデザインされた3500点以上のプリントを収録するデジタルプリントライブラリーである。ユーザーは年代、テーマ、アーティスト別にプリントを絞り込み、その背景にあるストーリーを知ることができる。

Glossyに共有された資料では、これを「プリントメイキングの芸術に没入し、これまでにない形でアーカイブを体験できる場所」と表現している。

インケロイネン氏によれば、アーカイブは常にブランドの核にあったが、モバイル形式で顧客がアクセスできるものではなかったという。

「このアプリによって、我々はこれまで以上に『マリメッコの友人たち』に応えることができる」と同氏は述べる。

「ここは時間を過ごし、ブランドの新たな側面を発見し、次に何が起こるのかをいち早く知るための場所である」。

プリント工場の舞台裏を伝える動画コンテンツ



アプリでは、動画や専用コンテンツを通じて、ヘルシンキのファブリックプリント工場の内部を体験することもできる。

「データを見ると、顧客は我々のファブリックプリント工場に関する動画やストーリーを、とても魅力的で引き込まれるものだと感じていることがわかっている」とインケロイネン氏は語る。

ユーザーは生地づくりの工程を学んだり、マリメッコを象徴するプリントを手がけたデザイナーたちに触れたりできる。

2024年は、1964年にマイヤ・イソラ氏がデザインしたポピー柄「ウニッコ(Unikko)」の誕生60周年にあたった。このパターンは、大胆なモダニズムで世界的に知られる存在となり、北欧デザインへの関心が高まるたびに再評価されてきた。

社内主導のデジタル変革とロイヤルティ施策の強化



マリメッコによると、このアプリは2023〜2027年のデジタルトランスフォーメーション方針の一環として、社内主導で開発されたものである。

アプリの導入と同時に、「ウニッコ・モーメント(Unikko Moment)」も開始された。これは通知を通じて届けられるサプライズ型の施策で、クイズや投票といった短いアクティビティに参加すると、ロイヤルティポイントや特典が得られる仕組みだ。

この機能は、ロイヤルティプログラム「フレンズ・オブ・マリメッコ(Friends of Marimekko)」と連動しており、貯めたポイントは先行アクセス、限定オファー、イベント招待などと交換できる。

コマース主導の他ブランドアプリとの明確な違い



他ブランドの最近のアプリ展開を見ると、異なる戦略が浮かび上がる。

10月にローンチしたアリツィア(Aritzia)のアプリは、クリエイターによるスタイリング提案やブティックレベルの接客、パーソナライズされたフィードを重視している。

2024年再構築されたザラ(Zara)のアプリは、AIによるスタイリングや自動商品提案に大きく舵を切った。8月にはアロ・ヨガ(Alo Yoga)が、ウェルネスアプリを拡張し、ショッピングやクラス予約、コンテンツを統合した。

カルト・ガイア(Cult Gaia)やラルフ・ローレン(Ralph Lauren)も、最近のアップデートでナビゲーションやクライアンテリング機能を強化している。

これらに共通する主目的は、コマースの促進、あるいはソーシャルフィードによる発見体験をブランド独自の環境に置き換えることにある。

一方、マリメッコのアプリでは、購入可能な商品はホーム画面上でプリントアーカイブの下に配置されている。ウィッシュリスト、「マイアイテム」によるワードローブ管理、UGCによるインスピレーション、スムーズなチェックアウト機能も備える。

「ショッピング体験は、とにかくストレスなく感じられるものにしたかった」とインケロイネン氏は語り、ログイン済みの顧客には配送情報が自動入力され、より迅速に購入できる点を挙げた。

アプリを軸に進める長期成長戦略とグローバル展開



インケロイネン氏は、今回のアプリローンチがマリメッコの長期的な成長計画と合致していると説明する。

「エンドツーエンドのデジタル化によってオムニチャネル成長と効率化を推進することは、2023〜2027年戦略における5つの成功要因のひとつである」と同氏は述べる。

マリメッコは現在、世界的に安定した成長を続けている。

10月31日に発表された2025年第3四半期の純売上高は、前年同期比8%増の5080万ユーロ(約5400万ドル、約81億円)で、卸売が15%増と大きく伸び、国際需要も堅調だった。年初から9カ月間の累計では、純売上高は1億3480万ユーロ(約1億4300万ドル、約214億5000万円)となり、前年同期比5%増、国際売上高は8%増を記録している。

店舗拡大とカルチャー施策で高めるブランド存在感



マリメッコのリテールパートナーは、百貨店をはじめ、パートナー運営店やアジア・欧州のフランチャイズに広がっている。

リテール拡大と並行して、同社はカルチャー面での存在感も強めている。現在、世界に約170店舗を展開し、10月には香港とパリにフラッグシップストアを開設した。

2025年は、アーカイブ展「フィールド・オブ・フラワーズ(Field of Flowers)」が日本、台北、東京、ホーチミン、そして大阪を巡回したほか、8月のコペンハーゲン、9月のバンコクでのファッションショーには国際的な観客が集まった。

ミラノデザインウィークでは、視覚芸術家ライラ・ゴハー氏がキュレーションしたマイヤ・イソラ氏のプリントによるカプセルコレクションを発表し、ヘルシンキ・デザイン・ウィークでは、アルテックとのコラボレーションに関連したイベントや、ハビターレ展示会場でのプリント中心のインスタレーションを開催した。

[原文:How Marimekko aims to strengthen customers’ loyalty with its new app

Zofia Zwieglinska(翻訳、編集:藏西隆介)