小売業が粗利体質に変わるためのKGI設計とは?どれだけ少ない在庫で多くの粗利を得たかを占めす「 GMROI 」
本記事は、在庫分析サービス「FULL KAITEN」を運営するフルカイテン株式会社のCPO田中大介氏の寄稿です。<目次> GMROIという言葉は小売業でも浸透していない 「粗利経営」とは何か よくありがちなKGI構造 【図解】営業利益を最上位に置いたKGIツリー 売上を追うだけでは片手落ち 一足飛びで増収増益にはならない
GMROIという言葉は小売業でも浸透していない
弊社は小売商売において、どれだけ少ない在庫で多くの粗利を得たかを示すGMROI(商品投下資本粗利益率)が極めて重要な指標であることを数年前から啓蒙しています。以前、弊社が開催したオンラインセミナーで視聴者に3つの質問をし、以下のような結果を得ることができました。※セミナーに参加した92名のうち、46名が回答Q1:粗利予算を設定していますか?はい(83%)いいえ(17%)Q2:在庫目標を設定していますか?はい(72%)いいえ(28%)Q3:GMROI目標を設定していますか?はい(7%)いいえ(93%)Q1とQ2はどの企業も目標として設定している様子ですが、Q3に関しては僅か7%しか設定していないことが分かりました。上記の数字からも、残念ながら日々の実務でGMROIが浸透していないことが判明しました。しかし、人口減少、高齢化、物価高など需要がシュリンクする環境下では、物量に頼った商売ではなく、どれだけ少ない在庫で多くの粗利を得たかを示すGMROI(商品投下資本粗利益率)が重要な指標になることは明らかです。次章からは、そもそも「粗利経営」とは何かや、粗利経営に変えていくためのKGI設計、弊社が蓄積する1兆6000億円におよぶ流通総額を用いたGMROIに関する示唆を順にお話しします。「粗利経営」とは何か
まずは今の複雑な経営環境からお話しします。
ご存じの通り、現在置かれている経営環境では在庫の増減を判断する内部要因だけではなく、外部要因として人口減少と高齢化、円安、サステナビリティへの対応などがあります。これらの要因を加味して経営判断を実施することは非常に難易度が高いですが、何から手をつければいいか二の足を踏むと業績悪化が加速するのみです。ここでの打ち手は「定数」を軸に経営判断することです。人口減少と高齢化はニュースでよく取り上げられますが、これらの数字は死亡率や出生率などほとんど変動しないデータを使い算出する統計値なので、ほぼその通りに推移するという特徴があります。そのため、一番信用に足る統計値だと言われています。ですから、人口減少と高齢化を軸に経営判断をするのが妥当だと言えます。それなのに、依然として日本の小売市場では以下の現象が起きています。・市場が縮小しているのに在庫を増やし、売上規模を追う企業が多い・大量生産の価値は喪失しているのに、大量生産型ビジネスを続ける企業が多いさらに以下のような悪循環に陥ってしまうリスクもあります。・資金が在庫で眠る→キャッシュフローが悪化・抱えすぎた在庫を消化させるための値引きが横行→粗利率が悪化・粗利率改善を目的に商品原価を下げる→大量生産が継続では一体、何が小売業の勝ち筋なのでしょうか?以下2つの考え方がありますが、どちらも粗利を稼げなくなるという結果は同じでも、中身が異なります。
上記2つを見比べた際に、在庫を増やしていくのは筋が悪そうだと分かると思います。ただ、単純に在庫を減らすだけでは粗利を稼げないので、工夫が必要です。工夫というのは、在庫を減らし、製造原価を上げ、付加価値向上に投資することで商品単価を上げる粗利経営のことを指します。この後の話にも繋がりますが、ポイントは在庫を減らし、効率よく粗利を稼ぐ勝負へ移行することです。(効率=GMROIと捉えて頂いて差し支えありません。)よくありがちなKGI構造
粗利経営を実現するためのKGI設計についてお話しする前に、KGIとKPIの前提について認識を合わせたいと思います。
KGIは最終目標で、KPIは中間目標の位置づけです。つまり、KGIを達成するためにKPIを設定するということになります。KGIには営業利益や売上が相当しますが、営業利益や売上を上げろと言われても、各担当部署でどのようなアクション(業務)を実施すればいいか分かりにくいと思います。そこで、KPIは各担当部署でのアクションの指標と捉えると分かりやすくなります。構造で言うと、営業利益や粗利、売上などのKGIを達成するためのKPIとして客数や客単価などが存在します。
ですが、本稿で申し上げたいのは「どの指標がKGI、KPIなのか」という話ではありません。まずは、最終のゴールとしてKGIがあるという認識を持っていただければと思います。私は今まで多くの小売業のお客様の在庫課題を支援してきましたが、これまでの経験上、売上予算が最重要概念(KGI)として扱われていることが多いと感じます。
売上予算が最重要概念として扱われていること自体を否定するわけではなく、これだと少し要素として足りないと思っています。なぜなら、在庫目標は置かれているものの、売上・粗利との接続が不明確ですし、営業利益との接続も不明確だからです。ここで考えていただきたいのですが、「企業のゴール」とは一体何でしょうか。多様な答えがあってよいと思いますが、私は以下のように考えています。
最近、「儲けることは悪」のような風潮も一部ありますが、企業のゴールは、利益を出すことが一義的にはもっとも大事だと思います。きちんと利益を出して経営を存続することを前提とする考えを、ゴーイングコンサーンと言います。そのため、利益をKGIの一番上に置いた設計をしないと企業のゴールを達成できません。次章では実際にどのような設計がいいのかお話しします。【図解】営業利益を最上位に置いたKGIツリー
前章でお話しした「企業のゴールは利益を出し存続すること」を念頭に置き、本業での儲けを示す営業利益が頂点にくるP/Lのロジックツリーを描くと以下のようになります。
営業利益を頂点にした時に、粗利と販管費の2つに分かれます。粗利から売上、粗利率という分解になり、販管費も代表的なものを掲載しています。在庫を効果的に利益に変えるためには、施策ごとにどの勘定科目に影響があるのか把握が必要で、売上・粗利だけではなく、コスト面(販管費)への影響も考慮することが重要です。たとえば、小売業で発注業務を行う場合、物流費や人件費もかかります。値引きをしたら値引きシール等の経費やそれを貼るスタッフの人件費もかかることを考慮しなくてはなりません。しかし、前述したP/LのロジックツリーではPLの観点で見ているため在庫の観点が入っていません。「企業のゴールは利益を出し存続すること」を実現するためには在庫の観点が必須なので、その観点を入れた図がこちらです。本稿でもっとも重要な箇所になります。
粗利経営のKGI構造を示した図
粗利単価は商品ごとの粗利単価のことで、原価率と値引き率で決まります。原価率は値入れによって決まり、品番数(SKU数)はどのようなプライスラインナップの商品構成にするかで決まります。非稼働SKU率は最終的に在庫がどれくらい売れたのか、売れなかったのかを示します。【売上予算】
売上予算を客数と客単価に分解せず在庫と接続させたことがポイントで、販売単価と販売数に分解しています。販売数は平均買上点数と客数に分解され、客数は入店客数と買上率に分かれます。【在庫目標】
在庫目標は販売数と特に連動する箇所です。在庫目標はどれだけ投入したかを表す投入数、顧客からの注文に対して在庫不足で出荷できなかった割合を指す出荷可能欠品率、拠点ごとの欠品率を表すバラつき、拠点ごとの欠品率を表す展開店舗欠品率などに加え、仕入れ数などがあります。販管費との連動ですが、集客などの販促は販促費に影響し、販売系は人件費が影響します。在庫系は人件費や物流費にも影響します。
これらの指標を見ることで、儲けるためのKGIを戦略的に達成することができます。売上を追うだけでは片手落ち
前章で、粗利予算と在庫目標を繋ぐ役割のGMROIが登場したので、どのような指標なのかを解説します。GMROIとは、商品への投資(原価ベース)がどれだけ売上総利益につながっているかを測定する指標で、「どれだけ少ない在庫で多くの粗利を得たか」を表します。計算式は以下の通りです。GMROI=粗利益額/平均商品在庫高(期首在庫高と期末在庫高の平均)※粗利率✕在庫回転率でも算出可能GMROIは、在庫を活用してどれだけの粗利益を生み出したかを示す「粗利回転率」と捉えると分かりやすいです。本稿の冒頭でお話しした人口減少と高齢化のマクロ環境もあるため、GMROIという指標は、まさに在庫を減らして粗利を稼ぐことを表現する指標だと思います。ゴールである営業利益を稼ぐうえで、在庫と粗利の関係性を考えてみたいと思います。以下は、在庫と粗利の関係性を示したグラフです。粗利を達成するために、どのように在庫を持つべきか例を用いて考えます。
A社とB社は同じ粗利(400万円)ですが、残る営業利益が異なります。理由は、A社のように多くの在庫を仕入れると、さまざまなコスト増となるため販管費が大きくなり営業利益が圧迫されるからです。在庫が少ない方がGMROIの効率も上がるため、A社がB社と同じ営業利益を取りたいなら、在庫は少ない方がいいことになります。実際に、弊社の在庫分析クラウド「FULL KAITEN」を導入している企業様のデータを解析し「在庫金額とGMROI」「粗利金額とGMROI」を前年比較しGMROIがどのように改善されたかを分析しました。結論から言うと、粗利金額をコントロールするよりも在庫金額を減らして適正在庫にする方がGMROIが改善されることが分かりました。ですので、いかに在庫をコントロールするかが小売業の生命線であると言えます。ここで重要になるのが、商品の発売から終売までの商品のライフサイクルに沿った在庫コントロールです。商品ライフサイクルに関しては、以前の弊社寄稿をご覧ください。小売業界の新常識 利益を蝕むのは値引きではなかった。儲かる商売の原理原則と値引きで粗利が向上した事例商品ライフサイクルに沿った在庫コントロールは、KGIにどのように紐づくのかまとめたのが以下の図です。
上にある青枠が共通KGIです。各指標を改善するために実施するアクションは、売価変更、販売強化、店間移動、倉庫出荷、発注など明確に決まっています。商品ライフサイクルに沿って、必要なアクションをこの中から見極めることで戦略的に在庫コントロールができます。FULL KAITENでは、各業務のアクションと結果指標の振り返りを通じて、最終的にKGIを達成していく支援をしています。一足飛びで増収増益にはならない
最終章では、「粗利経営」に変革していくための考え方をお話しします。ここまでお話ししてきた内容を実践したからといって、いきなり増収増益になるわけではなく、以下のような段階を経て変化していきます。
図の横軸は営業利益の前年比で、縦軸が売上前年比と定義します。ポイントは左下にある「減収増益」のフェーズです。本稿を通じて、在庫を積んで売上を伸ばすことには限界があるとお伝えしていますが、まずはKGI構造を踏まえて利益を取れる組み立てをすることが重要です。在庫金額を減らしたほうがGMROIの改善に寄与するという結果が出ていますが、在庫を減らすと元々の売上が取れなくなる可能性は高いです。増収増益へと構造改革を進める過程で、一時的に売上が減るのは避けられない道ですが、これは粗利経営の実現に欠かせないステップです。焦らず、順を追って着実に進むことが重要です。実際にKGI構造を変える際に、どのように進めればいいかお話しします。1.現状把握まずは何が起きているかの実態を掴むところからはじめましょう。粗利経営のKGI構造の図に当てはめて、自社はどのようなKGI構造になっているのか見比べてみてください。その中で、まずは集計できる指標のみを確認し、どこに問題があるのかを掴むことが重要です。2.目標設定現状把握ができたら、各指標の目標値を設定し、現状とのギャップを把握します。精度は問わず、一度目標を設定することが大事です。これによって振り返りが可能になります。3.全社で実行全社に対して粗利経営の考え方を落とし込み、ギャップを埋めるアクションを実行していきます。アクションに際して、在庫コントロールには3つの要素があると考えており、以下をバランスよく実行するのが勝ちパターンです。
実際に小売業様からもっとも多く相談をいただく在庫課題は『滞留在庫の消化促進』で、まず初めに行うべきアクションは滞留在庫の消化促進になります。弊社がご支援していた小売業様でも、滞留在庫の消化に着手しきれなかったことが原因で、残念ながら倒産となってしまったケースも目の当たりにしました。本稿では一貫して、利益を稼ぐために在庫を減らしていくことをお伝えしていますが、現状把握→滞留在庫の消化促進でキャッシュを作る、という点がすべてのアクションの起点になると考えています。滞留在庫から着手する理由としては、在庫=キャッシュだからです。会社は赤字では潰れませんが、在庫過多やキャッシュの不足などの資金繰りで倒産します。ですから、仕入れた在庫をキャッシュに変えないといけないですし、売れる分だけ在庫を仕入れる必要があります。年々縮小する小売市場において、過去の成功体験に固執するのではなく、まずは自社のKGI構造の見直しをして、今ある在庫からどのように粗利を生み出すかがますます重要になるでしょう。田中大介(たなか・だいすけ)フルカイテン執行役員 CPO新卒でアクセンチュア株式会社に入社。大手アパレル企業を中心にMD、DB、店舗運営の領域にて様々な業務改革/DX推進プロジェクトに従事。その後、ロクシタンジャポン株式会社にて店舗運営統括責任者、株式会社カインズにて経営戦略室マネージャーを経て、フルカイテンにジョイン。幅広い業界知識とプロジェクト経験を活かして、多くの顧客を支援。カスタマーサクセス責任者、プロダクト戦略部 部長を経て2024年10月より執行役員としてプロダクトの責任者に就任。
