避難訓練コンサートの様子(水戸芸術館提供)

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「避難訓練コンサート」というイベントをご存じでしょうか。「コンサートの最中に災害が起きた」という想定で行う「避難訓練込みのコンサート」です。東日本大震災をきっかけに実施する施設が増え、ここ2〜3年は全国各地で行われるようになりました。現在では、火災やテロなど、さまざまな事態を想定したコンサートが行われています。どのようなイベントなのか取材しました。

避難訓練は突然に

 まず、全国の国公立文化施設の運営者でつくる公益社団法人全国公立文化施設協会(東京都中央区)事務局事業課長の堀江和子さんに聞きました。

Q.「避難訓練コンサート」は、どのような流れで行うのですか。

堀江さん「まずは通常通りコンサートを始めます。そして、演奏途中で不意に『地震が発生しました』と告知し、避難訓練を開始します。観客には、施設内のホールや外に避難してもらい、訓練終了後は元の席に戻って、改めて演奏を聴いてもらいます。地元の警察や消防による災害に関する講義をセットで行うこともあります。各施設の地元にある学校の吹奏楽部や警察、消防、自衛隊などの楽団が演奏することが多いです」

Q.なぜ、通常の避難訓練ではなくコンサートの途中に訓練を盛り込むのですか。

堀江さん「そもそも『避難訓練コンサート』は、住民に避難への意識を向上させてもらうことに加え、自治体や文化施設で作成した災害対策のマニュアルやガイドラインの実地検証を行う目的があります。

机上では最善の策に見えても、実際に数百人かそれ以上の観客を避難誘導すると、避難用の誘導サインが分かりにくかったり、大人数では通り抜けしにくい経路があったりと、改善が必要な点が見えてきます。実地検証を繰り返し、ガイドラインやマニュアルのさらなる充実を図ることが大切です。そこで、多くの人に参加してもらえるように、実際にコンサートを行い、ほとんどが参加費無料です」

Q.どれくらいの文化施設で行われていますか。

堀江さん「2016年7月、協会加盟の全国の文化施設に対して行った調査によると、回答した261施設のうち『避難訓練コンサートを実施したことがある』と48施設が回答しました。『今後実施する予定』と回答した施設も多く、実施した施設はかなり増えました。2019年現在、実施したことがあるのは、加盟施設の約30%と推測しています」

Q.どのような人が参加し、どのような時期に開催されることが多いですか。

堀江さん「若者から高齢者まで幅広い世代が参加します。週末や平日夜間に開催されることが多く、各文化施設で平均して毎年1回程度行われます。時期は、東日本大震災が発生した3月11日など大きな災害の節目と思われがちですが、必ずしもそうではありません。基本的に、文化施設でイベントの開催がない時期を選んで行われます」

非日常性や好奇心から参加

 全国公立文化施設協会の加盟施設の中で、東日本大震災後に初めて「避難訓練コンサート」を実施したのは、水戸芸術館(水戸市)です。企画した同館学芸員の篠田大基(ひろき)さんに聞きました。

Q.なぜ「避難訓練コンサート」を開催したのですか。

篠田さん「東日本大震災で水戸芸術館も被災し、2011年7月ごろまで休館せざるを得ませんでした。なんとか再開館したのですが、建物に被害を受けたことで以前のように来館してもらえるか不安がありました。そこで、防災への取り組みをしっかり行っていることをアピールし、安心して来館してもらうために『避難訓練コンサート』を行うことにしました」

Q.いつ、開催したのですか。

篠田さん「東日本大震災から5カ月ほど過ぎた、2011年8月27日です。震災時に近い『震度6強』の地震が発生し、停電で非常照明に切り替わるという想定です。演奏は地元の音楽家にお願いし、観客約430人が参加しました」

Q.2011年8月以降は。

篠田さん「2回目の『避難訓練コンサート』は、2015年3月8日に行いました。1回目の大地震の想定とは異なり、中規模の地震(震度4〜5程度)が起きたとき、避難してもらうかどうかのシュミレーションを行うためです。1回目を上回る約560人が参加しました」

Q.観客はどのような意識で参加するのですか。

篠田さん「防災意識の高さから参加している人もいるでしょうが、通常のコンサートとは異なる『非日常』を味わえることや、『避難訓練コンサートって面白そう』という好奇心から参加している人もいるのではないでしょうか」

Q.文化施設の職員が実地訓練を行う意味も大きいのですね。

篠田さん「職員だけで観客の避難誘導訓練を実施しても気付けないことが明らかになるのが大きいです。例えば、職員が訓練で『速やかに避難してください』と言ったとき、観客から『どこへ?』と言われました。自分たちは分かっているつもりでも、観客とのギャップがある点に気付きました」

 最近の「避難訓練コンサート」は、地震発生を想定したものだけではありません。火災やテロなど、さまざまなバリエーションで行われています。また、落語を聞く寄席と避難訓練を組み合わせた「避難訓練寄席」や、映画上映と組み合わせた「避難訓練上映会」なども行われています。

 共通するのは、イベントをメインにして避難訓練を『脇役』として行い、防災知識を身に付けてもらうところ。避難訓練だけでは、なかなか参加しづらい人もいますが、イベントを絡めることでハードルが下がります。全国各地で実施されており、入場無料の場合が多いということなので、一度調べてみてはいかがでしょうか。