寒中お見舞い申し上げます。

正月も七日が過ぎ、皆様に於かれましては平時の生活に戻られたかと存じますが、昨年は世界中で実に様々な事柄が起きた年でした。

特に我が国では、太平洋沿岸の東北並びに関東地方が千年に一度と言われる大地震に見舞われ、その後に襲ってきた津波と、その津波によって誘発された原発事故という大災害に四苦八苦した一年でした。そして、それらの影響で日本の経済は低迷し、政府の無策も相俟って日本中に憤りと閉塞感が広がる事態となりました。更に海外でも欧州の金融危機やタイの洪水、また、アラブの春といった事件が相次いで起こり、世界恐慌一歩手前の危機に瀕するなど、何かと暗い話題の多かった一年だったと言わざるを得ません。そしてその余波からくる不安は、今尚くすぶり続けているどころか拡大しそうな勢いです。

しかし、フットボール界に目を向けると、とりわけ我が国にとっては千年に一度とは申しませんが、女子代表チームがW杯優勝という未曾有の快挙を達成し、なでしこブームが日本中を席巻するという嬉しい出来事がありました。私が生きている間に如何なるカテゴリーであれ、日本代表がW杯で優勝するシーンを拝めるとは思っていなかったので、まさに夢のような出来事でした。しかし、宇宙の万物は原因と結果の法則に則って動いていますので、なでしこジャパンは優勝するべくして優勝したと申し上げるべきなのでしょう。澤選手という得難い人材を中心にまとまったチームを佐々木監督という優れた指導者が束ねたこと、震災に沈む日本に元気を与えたいとチーム一丸となって闘ったこと、世界の舞台で幾度となく経験した苦く悔しい敗戦を回避するために用意周到な準備を重ねたこと等々、それら全ての因が結果として結実し、運と勢いを呼び寄せたのだと信じます。選手並びに指導者、そして関係者の皆様の努力に敬意を表しつつ、心より感動をありがとうございましたと御礼申し上げたいと存じます。

一方で昨年のW杯の決勝戦も、なでしこ達は実際に強豪の米国に勝ちきったわけではなく、延長戦で同点に追いついた末にPK戦で下したに過ぎず、高校選手権優勝の市船のように土壇場で追いついた上で最後はしっかりとうっちゃれるような真の王者を目指して精進して頂きたいと存じます。それには今、彼女達自身の手で巻き起こしたなでしこ旋風を活用し、協会関係者が人材発掘や育成に尽力せねばならないのだと思います。今こそが女子フットボール底上げの時代だと確信する次第です。

先日スイスのFIFA本部で開催された昨年度の世界最優秀選手等を表彰するセレモニーでは、澤選手と佐々木監督が選手と指導者という立場でそれぞれ世界の頂点に立ちました。これまた、本当におめでたいことですが、このまま縁起良くロンドン五輪優勝という大目標に向かって邁進して頂きたいと存じます。しかし、女子日本代表チームへの各国のマークが相当きつくなるので、優勝どころかメダル獲得すら微妙な状況であると個人的には分析していますが、なでしこ関係者の皆様には小生のつたない予測など蹴散らす活躍を期待致します。

さて、男子チームに目を向けますと、昨年春にはザック・ジャパンがアジア杯奪回という快挙を成し遂げてくれたのは、嬉しい限りでした。そのお蔭で優勝を決める決勝ゴールを叩き込んだ李忠成選手はウエストハム入りが噂されていますし、本田選手、香川選手、長谷部選手、長友選手、川島選手と言った海外組の質の違いが浮き彫りになったのは結構なことでした。やはり、日本人選手も「青年は荒野を目指す」ではありませんが、どんどんと世界基準の本場欧州を目指さし、そこで揉まれて一皮も二皮も剥けた成長を遂げて日本フットボール界の向上に貢献して頂きたいと存じます。