ポスティングによるメジャー移籍が叶わず、今季もライオンズに正式残留となった中島裕之選手。ライオンズが優勝するためにはこれほどの味方はいないわけだが、しかし中島選手の残留により大きな影響を受ける選手がいることもまた事実だ。とは言えファンが心配するほど、彼らはマイナスには捉えてはいない。もし彼らが中島選手の残留を自分に対するマイナス要素だと考えたならば、そのような選手は決してプロでは大成できないだろう。

まず最も大きな影響を受けるのは、今季は正遊撃手候補の一人として期待されていた浅村栄斗選手だ。彼は昨季から打撃面でも飛躍的な成長を見せ、今季はいよいよレギュラー獲得かとも考えられていた。しかし中島選手が残留するということになれば、浅村選手は昨年以上に守るポジションに悩まされることになるだろう。だがプロは結果がすべての世界だ。もしヘルマン選手カーター選手のどちらかでも不調に陥るようであれば、浅村選手は全力でそこを突き、レギュラー奪取を目指さなければならない。

昨季、浅村選手は主にレフトとファーストを守った。もちろんどちらも浅村選手の得意なポジションではない。レフトでは打球判断を誤る場面も見受けられ、ファーストではバントに対するチャージを本職の一塁手のようにはかけられなかった。だが専門外のポジションを守っていたわりには、本当によくこなしてくれていたと思う。今季も恐らく本職であるショート以外を守る試合が多くなると思われるが、この経験は必ず浅村選手の将来にプラスに働くはずだ。そしてプロは試合に出てナンボであるため、今はとにかく1軍の試合に少しでも多く出場することだけを考え、ただ我武者羅に、若々しく頑張って欲しいと思う。

守る方で影響を受けるのが浅村選手ならば、打つ方では栗山巧選手だ。昨季までは中島選手が担っていた3番と、主将という立場を栗山選手が今季から引き継ぐはずだった。実際渡辺久信監督も栗山選手への年賀状で、栗山選手の3番起用を明言していた。これは中島選手の残留により一度白紙に戻されることとなり、渡辺監督も栗山選手とはよく話をするとは言っていたが、栗山選手自身は今季も1・2番を打つであろうことを十分承知しているようだ。

片岡易之選手も、1月中に痛みがなくなれば左肩の手術は成功だったと言える状況であるようだが、開幕戦までにコンディションを高められるかはまだ明確ではない。片岡選手の復帰をクリティカル(批判的)に見るならば、開幕戦の1番打者は栗山選手が有力だろう。昨季後半に見られたような、栗山選手が出塁し、2番打者(主に原拓也選手)が送り、3番中島選手・4番中村剛也選手で得点圏に進んだ栗山選手を還す、という野球に自ずとなっていくのだろう。

だがその栗山選手も2011年のシーズン後、遊離軟骨の除去手術を受けている。ただこちらは片岡選手の事情とは異なり、開幕戦には問題なく間に合う見込みであるようだ。栗山選手の右肘が万全になれば、打撃でも守備でも昨季以上の活躍が期待できる。今季が栗山選手にとってキャリアイヤーになる可能性も高いことから、筆者個人としては「3番栗山」という打線も見てみたかった。しかし長年2番を打ち続けたことで培った高い野球観を持って1番を努めてくれれば、得点圏に走者がいる状況でクリーンナップを迎えられる回数は増えるだろう。これは得点力を上げるためにも重要な要素であるため、栗山選手には、今後ライオンズの1番を打つであろう選手たちの手本となるべく、レベルの高い1番打者像を今季も見せてもらえればと筆者は考えている。

今日、中島裕之選手は年俸現状維持+インセンティヴ(出来高払い)で正式に西武球団と今季の契約を結んだ。これで少なくとも今季の3番ショートと、4番打者という打線の核は完成された。ちなみに西武残留が決まった中島選手に対し、ショートではなくサードを守らせるべきという意見もあるようだが、筆者はそうは考えない。もちろん次世代の遊撃手を育成すべく、余裕がある試合では浅村選手や原選手をショートとして起用すべきだとは思う。しかし1軍の目的はあくまでも勝利し、日本一を目指すこと。それを考えれば、中島選手は3番ショートとして起用するのが一番だと筆者は考える。やはり浅村選手のような若手が本職以外を守るのと、実績十分である球界を代表するスタープレイヤーに本職以外を守らせるのとでは、その意味合いはまるで異なる。そう考えれば、やはり中島選手には3番ショートとしてライオンズの日本一に貢献してもらいたいと思うのだ。

とにかく正式にライオンズへの残留が決まった中島選手だ。何はともあれ今季はすべてを出し切り、一年後、次こそは晴れてメジャー移籍を果たしてもらいたいと願うばかりだ。