『風、薫る』が急に面白くなった理由とは? 朝ドラ人気の肝は日常系アニメ「女子校ノリ」のわちゃわちゃ感にある
群像劇の幕開けで高まった「朝ドラっぽさ」
NHKの朝ドラ『風、薫る』が残すところ三分の一となった。視聴率や注目度などを見る限り、ここ数年の平均レベルというところだろうか。
ただ、ネットでよく見かけるのが、4月末あたりから面白くなったという指摘だ。物語的には、ダブルヒロインのふたりが看護婦養成所に入った時期から、ということだろう。
実際、第5週(4月27〜5月1日)から第12週(6月15〜19日)にかけての看護婦養成所編は、朝ドラの強みが大いに発揮されていた。その強みとは、若い女性たちによる笑いあり涙ありの青春群像劇を存分に描けたことだ。
というのも『風、薫る』の売りは、一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)というダブルヒロインによるバディ物。ただ、刑事ドラマ以外でのバディ物は視聴者が馴染むまでに時間がかかる。
それこそ、朝ドラ史におけるレジェンド作品『おしん』にも、主人公と奉公先のお嬢さまによるバディ物的な要素があったが、それがわかってくるのは、ふたりが同じ男性を好きになり、葛藤するようになってからだった。
また『風、薫る』のダブルヒロインが出会うのは第2週(第9話)でのこと。そこから接点を持ちつつも、しばらくはもっぱらそれぞれの物語が続き、本格的に行動をともにし始めるのは第4週(第20話)の終盤、看護婦養成所の門をふたりがくぐるときからだ。
それはふたり以外の同期生たちもまじえた群像劇の幕開けでもあった。そして、その幕開けが朝ドラっぽさを一気に高めたともいえる。なぜなら、こうした群像劇がかもしだす若い女子たちのわちゃわちゃとしたやりとり、その喜怒哀楽を通した成長は、朝ドラにけっこうつきものだからだ。
『あまちゃん』『ひよっこ』にも通じる女子群像劇の系譜
同じく医療の世界を扱ったものとしては『梅ちゃん先生』の女子医専があるし、芸能系では『あまちゃん』のアイドルグループ合宿所や『ブギウギ』の歌劇団、また『ひよっこ』の工員女子寮などもそこに当てはまるだろう。
この手の展開が盛り上がるのは、多彩なキャラの女性を何人も登場させて、そのぶつかり合いを見せられるところが大きい。制服やステージ衣装などがあれば見た目にも華やかだし、ヒロインオーディションに落ちた子が爪痕を残そうとして張り切ったりもするので、独特の熱気も生まれる。
『風、薫る』でいえば、ダブルヒロイン以外にも、プライドの高い医者の娘や田舎出身の三枚目、ナイチンゲール信奉者や眼鏡をかけたクリスチャン、ナース服に憧れる呉服屋の娘がいて、看護婦を目指す理由や事情もさまざまだった。それゆえ、看護婦になることをあきらめるケースも描かれたが、それがドラマの緊張感やリアリティにもつながっていた。
しかも、その群像劇を通して、ダブルヒロインのキャラがそれまでよりはっきりしてきたという効果もある。多くの学園ドラマがそうであるように、同世代の比較ができることで、それぞれの個性が明確になるわけだ。また、学園ドラマは視聴者との一体感を生みやすい。誰もが経験する「青春」という気分を共有できるからだ。
この看護婦養成所編は2ヵ月近くにも及び、ひとつの学園ドラマのようでもあった。第12週(第59話)で描かれた卒業式には、感慨ひとしおという人もいたのではないか。
そのさなか、厳しくも優しかった英国人女性教師がもう帰国してしまったと早とちりした生徒たちがドタバタを巻き起こす。真相は、その教師が卒業式に出るかわり、生徒たちの食べたがっていたアップルパイを焼いていた、というものだったが――。
このエピソードは、ある気づきをもたらした。それはこうした描き方が学園ドラマ的であるとともに、二次元の漫画やアニメ、いわゆる「日常系」作品の世界にも通じる気がしたことだ。
『けいおん!』『ゆるキャン△』と朝ドラの共通点
具体的にいえば、2000年前後にヒットした『あずまんが大王』に始まり『ひだまりスケッチ』『けいおん!』『ご注文はうさぎですか?』『きんいろモザイク』『ゆるキャン△』などに受け継がれていった世界だ。ウィキペディアには「若い女の子たちのまったりとした日常を延々と描くタイプの作品」という説明もされている。
もちろん、漫画やアニメの日常系に比べれば、朝ドラは劇的だし、ともすればドロ沼的展開も見せるが、それでも平日朝に毎日見るドラマとしての「まったりとした日常」っぽさは不可欠な要素だ。その点『風、薫る』という作品において、特に看護婦養成所編ではそこがうまく機能していたように思う。
象徴的だったのは、このパートの初期を飾ったエピソードの主役がダブルヒロインのふたりではなく、玉田多江(生田絵梨花)だったこと。中の人はかつて乃木坂46の一期生として『ぐるぐるカーテン』で世に出たひとりだ。あのデビュー曲は「男子禁制」の秘密めいた女子的世界を可憐に描いて、乃木坂のイメージと方向性を決定づけた作品でもあった。
2000年前後から、モーニング娘。にAKB48、そして乃木坂という、大人数ガールズアイドルグループの時代が続いたのも、芸能における日常系の定着みたいな捉え方が可能なのではないか。
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