プロで伸びる選手、消える選手は何が違う? データ全盛時代に問われる「自己修正力」
ドラフト会議でついた順位は、プロ入り後の序列まで保証してくれない。高い評価を受けて入団しながら伸び悩む選手もいれば、下位指名や育成出身から主力へ駆け上がる選手も珍しくない。【西尾典文/野球ライター】
【写真】セパ交流戦優勝! 今年の強い西武ライオンズを支える選手たちの姿
タブレット端末を見ながらピッチングが当たり前に
今年もルーキーの竹丸和幸(巨人)、小島大河(西武)や、入団2年目の篠原響(西武)、浦田俊輔(巨人)などが、早くもチームの主力として活躍を見せている。だが、プロ入り前に高い期待をかけられながら、なかなか結果を残せず、わずか数年でユニフォームを脱ぐ選手がいることも事実だ。
同じように厳しい競争を勝ち抜いてプロ入りしながら、なぜその後のキャリアに大きな差が生まれるのか。投手については以前と比べ、自分のピッチングやボールを理解し、修正する能力が強く求められるようになっているという。ある球団のアナリストはこう話す。

「プロでは試合だけでなく、練習でもボールの回転数や変化量を測定しながらピッチングを行うことが常識になっています。同じ150キロのストレートでも、リリースの位置、回転数、回転効率によって特徴はまったく異なります。変化球についても同様です。最近では、フォームについても動作分析からあらゆることが分かるようになりました。年々レベルが上がっており、何も考えずに自分のボールを投げていれば抑えられる選手はほとんどいません。最初は勢いで抑えられても、相手に研究されれば、すぐに対応されてしまいます。自分の投球やボールの特徴を理解し、どう生かしていくかを考える能力が、より重要になっていることは確かですね。感覚だけで野球をする時代ではなくなっていると思います」
春季キャンプでも、ブルペンで投げたボールをすぐに確認できるよう、タブレット端末を見ながらピッチングを行う光景が一般的になっている。ただ、データを確認することと、実際の投球に生かすことは同じではない。
投手以上に厳しい打者
データは、見るだけでは意味がない。
数値から課題を把握し、自分の感覚と照らし合わせながら、フォームや球種を修正する。改善を繰り返せるかどうかで、成長の度合いは大きく変わる。数字の良し悪しだけでなく、なぜその数値が出たのかを考えられる選手ほど、修正の精度も高くなる。
篠原は、成長の場を自ら求めた。『FRIDAYデジタル』の報道によると、オフにチームメイトである平良海馬との自主トレへの参加を自ら志願し、データを活用した投球練習にも取り組んだという。高校時代から大きく球速を伸ばしただけでなく、新たな球種の習得にも積極的で、専門家に数値を確認してもらいながらボールを磨いていった。
誰かに言われて練習方法を変えたのではない。自分に何が足りないのかを考え、必要な知識や技術を持つ相手のもとへ出向いた。プロでは球団から多くの情報や設備が与えられるが、待っているだけで成長できるとは限らない。
野手に目を向けると、投手以上に難しい時代に突入している。現在のプロ野球における「投高打低」が、それを端的に示している。
昨シーズン、規定打席をクリアして打率3割以上の数字を残した選手はわずか3人。今シーズンも7月23日終了時点で、3割打者はレイエス(日本ハム)、佐藤輝明(阪神)、近藤健介(ソフトバンク)の3人となっている。
背景には、投手のレベルアップとデータ分析の進歩がある。厳しい環境の中で結果を残しているのは、どんな選手なのだろうか。
「昔も今も、打者に得意なコースや球種があることは変わりません。現在は分析できるデータが多くなったことで、弱点が分かると徹底して攻められるようになりました。また、打球方向についても分析が進み、野手の間を抜けるヒットも少なくなっています。そうなると、どうしてもヒットの確率が低くなるのは当然でしょう。それでも結果を残せる打者は、相手に合わせてスタイルを変化させられる選手だと思います。方法はいくつかあり、フォームを作り替えるのも一つですし、苦手なボールを捨てて狙い球をうまく絞るやり方もあります。レベルが上がってくると失投は当然少なくなりますから、打てるコースを増やすことはどうしても必要になってくると思います。打撃は特に投球への対応動作で、目や神経も影響してくるので、より難しい時代になっていることは確かだと思いますね」(前出のアナリスト)
どの課題を解決するために変えたかが重要
投手は、自分の投げるボールを変えることで課題に対応できる。だが、打者は相手投手が投げてくるボールに対応しなければならない。投手ごとに球速も軌道も異なり、試合中に配球が変わることもある。フォームを固めるだけでなく、攻め方に応じて狙い球やタイミングを変える対応力が欠かせない。
苦手なボールを、すべて打てるようにする必要はない。打ちにくい球を見極めて振らず、自分が打てる球を確実に仕留めることも大切になる。
打てるコースを広げる技術。苦手な球を見送る判断。相手の攻め方が変わった際の再調整。現在の打者には、この三つが高いレベルで問われている。
打者の場合、シーズン中に形を変える決断も求められる。昨シーズン、パ・リーグで新人王を獲得した西川史礁(ロッテ)が、その好例だ。
西川は昨シーズンの開幕当初、なかなか結果が出なかったが、それまでのフォームを一から見直して作り替え、夏場以降に一気に成績を伸ばした。
パ・リーグ公式メディア「パ・リーグインサイト」が、データスタジアムのデータを基に分析した記事によると、打撃改造後は変化球のボール球に手を出す割合が低下したという。空振りやファウルが減り、インプレーになる打球が増えたほか、変化球に対する成績も向上した。
フォームを変えた事実よりも、どの課題を解決するために変えたかが重要である。結果が出ないからといって、すべてを変えれば、それまでの長所を失いかねない。西川は従来の形をすべて崩すのではなく、自分の良さを残しながら弱点への対応力を高めた。
オタク気質の選手
変化が見られるのは、技術面だけではない。メンタリティーの面でも、成功する選手の特徴は昔と変わってきているという。ある球団のアマチュア担当スカウトはこう話す。
「昔は『野球選手は少しくらいヤンチャな方が良い』とよく言われていましたが、最近成功している選手を見ると、そういうタイプは減っているように感じます。中にはもちろん学校の勉強が苦手な選手もいますが、そうした選手でも野球に対しては研究熱心というケースが多いですね。割と“オタク気質”な選手も増えています。それだけ、しっかりトレーニングをして体調管理をしなければ活躍できない時代になっているということではないでしょうか。もちろん、オフに遊んだり休んだりするのは構いませんが、いかに野球に対して真摯に取り組むことができるかが、以前にも増して大事だと思います。試合だけでなく練習を見に行くのも、そうした姿勢をチェックする意味合いが強いですね」
ここで言う“オタク気質”とは、単に野球の知識が豊富というだけではない。映像や数値を自分から確認し、練習の目的を言葉で説明できる。食事や睡眠を含めて体調を管理し、不調になった時にはどの形に戻すのかという基準も持っている。日々の行動まで含めて野球を研究できる選手が増えている。
プロ入り後は、監督やコーチ、トレーナー、アナリストなど、さまざまな立場の人から助言を受ける。しかし、助言の内容がすべて同じとは限らない。言われたことを何でも取り入れればよいわけではなく、自分に必要なものを選び取らなければ、かえってフォームを崩す恐れもある。
何を変え、何を残すかを見極める力
新しい考え方を受け入れる素直さは必要だ。同時に、助言が自分の感覚や特徴に合うかを見極めなければならない。
現代のプロ野球で求められる修正力とは、何でも変えることではない。何を変え、何を残すかを見極める力なのである。
昔のプロ野球選手には、朝まで飲み歩き、二日酔いで登板しても抑えたというエピソードもよく聞かれた。だが、同じような生活を続けながら結果を残す選手は、現代ではほとんどいないという。
選手全体のレベルが上がり、分析やトレーニングも高度化した。わずかな準備不足が、成績に直結する。素質に加え、自ら能力を伸ばす意欲を持つ選手が生き残る時代になった。
アマチュア時代の評価は、あくまでプロ入り時点での完成度や将来性を示すものにすぎない。入団後には、相手から研究された時の対応、年間を通したコンディション管理、チームから求められる役割への適応など、新たな課題が次々に現れる。課題に応じて自分を変えられるかどうかで、入団時の評価の序列は大きく入れ替わっていく。
球速や身体能力に恵まれているだけで、プロで長く活躍できるわけではない。自分の特徴を理解してデータを生かし、必要であれば、これまでのスタイルに修正を加える。そして、自ら学ぶ環境を求めながら、日々の準備を続けられるか。より高度化したプロ野球で生き残るためには、自己修正力が以前にも増して問われている。
西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。
デイリー新潮編集部
