【中村 清志】「焼肉の網交換は本当に無料であるべきなのか」広がる有料化に賛否両論…それでも大手チェーンがタダを貫くワケ
【前編記事】『「網交換サービス有料」の焼肉屋が急増している“致し方ない”理由…元焼肉店経営者「タダだった昔とはワケが違う」』よりつづく。
網交換をめぐる店側と客側のギャップ
焼肉と切っても切り離せない関係にあるのが「網交換」だ。多くの読者にとって、焼肉店での網交換は“無料”というイメージが根強くあるはずだ。何せ、客側にとっては家で食べれば安く済むが、わざわざおカネを払って来ているのだから、おしぼりなどと同様、網交換くらい無料サービスが当たり前と思うのだろう。
だがここへきて、店側にも限界がきているようだ。多くの焼肉店、特に個人経営の店舗では「網交換100円」といった形で有料化の動きが活発になりつつある。
この背景にはコスト高による焼肉店の経営圧迫という問題が横たわっているわけだが、それはあくまで店側の事情にすぎない。実際、XなどSNS上で網交換の有料化を体験したユーザーたちからは、「この店は網交換ごときで追加料金を取るのか」とひんしゅくを買っている場面がまま見受けられる。
網交換の対応をめぐって起きている店側と客側の認識のギャップや感覚のズレ――これを解消するためには、まず網交換そのものにどれだけの労力やコストがかかっているか知る必要があるだろう。元焼肉店経営者である筆者がその裏側をできる限り、つまびらかにしていきたい。
まず知っていただきたいのが、焼肉店の網には「使い捨て」と、洗浄して「再利用」する2つのケースがあるということだ。最近では、衛生面や手間の少なさから使い捨て網を採用するケースが多いが、たとえば高価な肉を扱う高級焼肉店などは、それに見合った特注・専用の網、鉄板を再利用して使うことも少なくない。
「使い捨て網」の値段はどれだけ上がった?
再利用する網の場合、だいたいは店舗内に洗浄機を設置して自ら洗浄するか、専門業者に委託しているかのどちらかだ。店で洗浄する場合、業務用の網洗浄機「ロストルクリーナー」を使うのだが、実はこれ、「作業負担が多くて汚い」と従業員の間ではかなり評判が悪い仕事だ。
だから、網の再利用を採用している店舗では、よほど人余りを起こしている場合を除き、業者委託が普通だ。実際、筆者が携わった店でも使い捨て網を採用する前は委託していた。確かに初期コストは高めだが、それでも人材など長期的コストを鑑みればプラスというわけだ。
しかし、これが焼肉食べ放題店となると事情は変わってくる。何せ食べ放題というのは時間制限があるわけで、客側も少しでも元を取ろうと、時間ギリギリまで肉を焼こうとする。そうなると必然的に網交換も増えるので、使い捨て網を採用するのがほとんどだ。
今回、議論を読んでいる「網交換の有料化」はまさに、この使い捨て網のことだろう。筆者が焼肉店を営んでいたおよそ15年前、使い捨て網は1枚あたり10円程度だったと記憶している。それが今は約15円、高いところでは2倍の20円にまで値上がりしていると聞く。
全体のコストからみれば、金額的に微々たるものにも思えるが、数が増えれば負担になる。集客力の高い繁盛店ほど網交換の回数は増えていくわけで、売上高は増えても利益が伸びない、という状況に追い込まれていくということになる。それを食い止めるべく、網交換の有料化に踏み切ったということだろう。
ここで勘の良い読者なら気付いているかもしれないが、同じ食べ放題店でも「焼肉きんぐ」や「牛角」といった大手焼肉チェーンは今現在も網交換の無料を貫いている。もちろん背景には絶大な資本力もあるのだが、そこには彼らなりの「高いコストを支払ってでも、網交換は無料のほうがメリットが大きい」といった狙いが隠されている。
なぜ大手チェーンは網交換“無料”を貫くのか
筆者が調べた限り、厳しさが増す焼肉市場で、それでも新規出店を加速させている“ひとり勝ち”チェーンの「焼肉きんぐ」、それに業界店舗数1位の「牛角」は、どちらも食べ放題時間中の網交換は無料になっている(前者は100分、後者は120分)。
興味深いのが“ひとり焼肉”をウリにしている「焼肉ライク」。こちらも最大9時間の食べ放題メニューがあるのだが、網交換は1枚30円と有料対応している。問題なのは、こちらのメニューが、ホルモンや豚・鶏など脂身の多い肉ばかりということ。ゆえに網が焦げ付きやすく、それでいて網交換が有料ということで、かなり不評を買っているという。
話が少し逸れたが、店舗数の多い巨大チェーン店だからこそ網交換が無料か否かは、個人店以上に大問題となる。そうした中で、「焼肉きんぐ」らが網交換の無料を貫くのは、それ相応の理由が存在する。
そもそも「焼肉食べ放題」という業態自体、内容の差別化が困難になりつつある今、きめ細かなサービスで提供価値を競い合っているのが現状だ。その一環として、「肉を美味しく食べ続けてもらう」という根幹を担う網の交換は、やはり必須ということだろう。
また、ファミレス型の焼肉チェーンはほとんどが「無煙ロースター」を採用している。このロースターの下には水を張ったワクがあり、焼いた肉の脂を受け止めることで、炎が脂に引火して必要以上に燃え上がるのを防ぐ役割を果たしている。もしワクの中に水がなくなると火災の危険性も出てくるが、店員は網交換によって水の有無をチェックし、未然に火災のリスクを抑えるという意味合いもある。
このように、焼肉チェーン店にとって網交換はあらゆる観点から重要視されている業務なのだ。とはいえ今後さらなる物価高騰の波が襲えば、いくら大資本といっても無視できないコストになってくる。網交換とどう向き合っていくか――焼肉店の課題は尽きない。
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