【横山 芳春】猛暑の「首都直下地震」で避難所は「生き地獄」に…エアコンなし水なしで「命を奪う空間」へと変貌する

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本連載では日本の地震防災の課題についてお伝えしているが、とりわけ地震防災に関して致命的な盲点の一つが、寒さ、暑さといった「季節のリスク」である。真冬の寒さによるリスクについては「「南海トラフ地震臨時情報」と違って、政府はなぜ厳冬期の八戸で「事前避難」を求めなかったのか…じつは恐ろしい寒冷地特有の「命のリスク」の記事で紹介した。厳冬に対するリスクは主に寒冷で積雪が多い北日本を中心とした課題だ。

しかし、夏場には北海道でも気温40℃に迫ることもある昨今、今年の4月には「最高気温40℃以上の日の名称」について気象庁は「酷暑日」という名称を設けたほど、夏場の高温は常態化している。日本の全国どこでも懸念されるのが、「災害級」ともいわれる近年の「夏の酷暑」と「巨大地震」のダブルパンチによる複合災害である。

今回は、昨年(2025年)のカムチャツカ地震の教訓と、国の近年の地震被害想定シナリオを紐解きながら、「酷暑日」に達する暑さのなかで巨大地震が私たちを襲った場合、一体どのような「生き地獄」が待ち受けているのか。そして、命を守るために今すぐ見直すべき対策について、詳しく解説する。

【前編を読む】首都直下地震」被害予測の「衝撃的な死者数」…建物の耐震化は進んだが、じつは揺れや火災より怖い「死の原因」

「エアコンなし・水なし・トイレなし」:猛暑のトリプルパンチ

7月に首都直下地震が発生した場合、私たちの生活を支えているインフラは一瞬にして崩壊する。内閣府の最新被害想定(2025年、以下「想定」)から、そのリアルなシナリオを読み解く。

(1)ブラックアウト(大停電)による「エアコンの喪失」

「想定」によると、発災直後の停電割合は首都圏で「約52%(約1600万軒相当)」に達するとされている。東京湾岸エリアには多くの電力関係施設が集中しており、激しい揺れや地盤の液状化などによって、送電網が致命的なダメージを受けることも危惧される。

「想定」では、「火力発電所の施設の復旧や部品の交換等に相当の日数を要することによる停止期間の⻑期化、需給バランスの調整ができなかった場合の全域停電(ブラックアウト)といった過酷事象に至るおそれ」が現に指摘されている。

このような事態になれば、当然、避難所にエアコンも扇風機があっても動かない。非常用電源があっても、その燃料には限界がある。都市部の築浅住宅やマンションは気密性が高いため、夏場にエアコンが止まれば、室内はあっという間にサウナ状態と化してしまう。

(2)地下インフラの破壊による「大断水」

都市の地下には、上水道・下水道の管が張り巡らされている。しかし、関東平野は分厚い堆積層(軟弱地盤)や埋め立て地の人工地盤の土地も多く、地下インフラは地盤の液状化などによって大きな被害が発生しかねない。

「想定」では、被災直後には給水人口の3割近く、全体で約1300万〜1400万人が断水に直面するとされている。猛暑の中で水を飲もう、せめて水で体を冷やそうとしても、それすら叶わないことが懸念されているのだ。

(3)最悪の衛生環境を生む「下水道の機能不全」

水が止まればトイレも流せない。内閣府(2025年想定)では、ハザード(震度分布)の見直しや停電による下水処理場の機能停止を考慮した結果、下水道の機能支障人口が発災直後には約200万人、処理人口の5%に達するとされる。

実際には、建物側の配管の損傷等があれば、その数はさらに増加するだろう。酷暑の中で排泄物が放置されれば、すさまじい悪臭が充満し、ハエなどの害虫が爆発的に発生し、不衛生な環境の中で健康被害を招くおそれがある。

さらに、2025年の国の南海トラフ巨大地震の被害想定では「夏季にはドライアイス不足により遺体の腐敗等の衛生上の問題が発生する」と明記されている。多数の死者が発生するレベルの震災では、極めて深刻な衛生状態に陥ることが危惧されている。

避難所という密室のリスク

内閣府の想定では、自宅での生活が困難になった避難者は最大約480万人(※冬の想定として記載)に達するとするとされている。人々は地域の小中学校の体育館などの指定避難所の内外に殺到する。「想定」でも「避難所の定員を大きく超えると、避難所が混乱するおそれがある」とあるが、日常でも死者が出るレベルの酷暑の中では、そこは「生き地獄」ともなりかねない。

冬の地震(能登半島地震など)では「寒さ」が深刻な問題となったが、寒さに対しては着込み、身を寄せ合うことや使い捨てカイロの使用、状況が許せば屋外などで火器を使うことで「ある程度」はしのぐことができる。

これに対して、「夏の暑さ」はどうだろうか。 停電により冷房が一切機能しない真夏の体育館に、数百人の被災者がすし詰め状態になる。多数の人間の体温と吐く息だけで室温は急上昇し、窓を開けても入ってくるのは熱風だけであり、扇風機すら稼働できない。室温は容易に高くなってしまうだろう。

断水しているため水分補給もままならず、汗をかいて体温を下げることすらできなくなる。自力で体温調節が難しい高齢者や乳幼児から順に、熱中症で倒れていく懸念もある。道路は陥没や倒壊家屋で塞がれ、「想定」でも「都区部の一般道で深刻な交通麻痺が発生する」と懸念されている。体調不良者が出ても、救急隊の到着は容易ではなく、医療のリソースも限られている。普段のようにすぐに診察、十分な治療は受けられない場合もある。

避難所は命を守る場所ではなく、わずか数時間で「命を奪う空間」へとなりかねないのだ。

結論:「在宅避難」こそが究極の夏対策である

このような「猛暑の避難所」を回避するための一つの答えは、「いかにして避難所に行かなくて済む状況を作るか(=在宅避難の徹底)」に尽きる。

そのために、私たちが今すぐ取り組むべき実践的な対策を3つ提示する。

1. 住まいの「立地リスク」を知り、危険な土地を避ける

どんなに建物を頑丈にしても、足元の地盤が液状化でドロドロになったり、擁壁が崩落したりすれば、家は傾き、住み続けることはできない。人口密集地の地震では、火災のリスクによって家を失う可能性も無視できない。 ハザードマップや旧版地形図で自分の住む土地の成り立ちを確認してほしい。これからマイホームを購入する方は、絶対に「立地の安全性」を最優先にすべきだ。地盤の強さは、災害時のインフラ復旧スピードにも直結する。

2. 家屋の倒壊と「通電火災」を絶対に防ぐ

在宅避難をするためには、まず家が残らなければならない。耐震補強と家具の固定に加え、「感震ブレーカー」の設置は必須である。死者の大部分を占める火災。地震の揺れを感知して電気を遮断するこの装置は、停電復旧時の「通電火災」を防ぐ。家を火事で失えば、有無を言わさず灼熱の避難所へ行くしかなくなる。

3. 「夏を乗り切る」ための特化型備蓄

太陽光発電システム、蓄電池の導入ができればベストだが、それが難しい場合、暑さ対策の備えを進めて欲しい。夏の災害では次の備蓄が「命綱」となるだろう。

・ポータブル電源とソーラーパネル: 停電時でも扇風機を動かし、情報収集用のスマホを充電するためのエネルギー源。ポータブル型のソーラーパネルでも、あるとないとでは全く違うだろう。充電式の扇風機なども準備しておきたい。情報入手や連絡手段、災害時に大事な娯楽や気分転換のためのスマホの充電にも大きく影響する。

・冷却グッズと飲み水:エアコンなどが使えないことを想定した暑さ対策を行いたい。水で濡らして首に巻く、振って冷却できる冷感タオルは、停電して水も乏しい際にも有効だ。最低限の水さえ確保できれば、自力である程度の冷却が可能となる。水だけでなく、塩分・ミネラルを補給できる備えがあるとベスト。

・室内環境の改善: 室内に熱を入れないことが重要になる。直射日光が当たる窓には遮光性が高いカーテンを用いる。西日が差し込む面は特に要注意。外部ではすだれやグリーンカーテンも有効だ(家庭菜園は新鮮な野菜の供給源にもなる)。室内の風通しを良くし、気温が低い夜間に室温を下げ、日中に上げないという意識を。

・トイレの備え:飲む・食べる側だけでなく、出す側、トイレの備えを忘れずに。トイレを我慢すると水分を控えるようになり、エコノミークラス症候群などに繋がるおそれがある。適切なトイレの備えが優先される。悪臭と感染症を防ぐため、1人あたり「1日5回分×最低7日分」の凝固剤入り携帯トイレと防臭袋。在宅避難では我が家の便器を活用できることを想定した備えも。

災害は、私たちが最も油断している時、最も過酷なタイミングを選んでやってくる。国や自治体の「公助」には限界があり、数百万人が被災する首都直下地震において、行政がすぐにすべての被災した方に、クーラーの効いた快適な避難所を用意してくれることはないと考えたほうがいい。

自分の命、そして大切な家族の命を守れるのは、あなた自身の「今の備え」だけである。足元の地盤を知り、家を強くし、夏に特化した備えを今日から始めてほしい。どうか、一人でも多くの方の行動に繋がることを切に願っている。

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【主な出典・参考資料】

・「首都直下地震の被害想定と対策について (報告書)」(2025年12月改定)

・「南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について【被害の様相】」(2025年3月)

・「公立学校の体育館等の空調(冷房)設備設置状況について」(2025年5月)

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