プーチン大統領の胸中は

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 前編【プーチン大統領を焦らせる戦線の“残酷な現実”…新兵の平均生存時間は「35分」、進軍できたのは「1日わずか50メートル」 独裁政権がもたらした「異常な戦死者数」】からの続き──。プーチン大統領は6月28日、ウクライナ4州を完全に制圧するまで戦争を続けると表明した。軍事ジャーナリストは「威勢のいい発言とは裏腹に、プーチン大統領は、かなり追い詰められている印象です」と指摘する。ロシア軍の戦死傷者が140万人という戦史で類を見ないような桁外れの人的損害が出ているだけでなく、国内のエネルギー事情が極度に悪化してきたからだ。(前後編の後編)

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「ロシアは世界有数の産油国でありながら、ウクライナ軍が長距離ドローンで製油所などを攻撃したため、原油の精製が不可能になっています。そのためガソリンやケロシンを輸入する事態に陥りました。そうすると輸出入に使うタンカーがウクライナ海軍システム隊の無人ドローン艇で撃沈されるなど、全てが後手に回っています」(同・軍事ジャーナリスト)

 ロシア国内ではガソリンを求めて車の長い行列ができており、燃料不足から停電も相次いでいる。特にロシアがウクライナから併合したクリミア半島は燃料不足だけでなく、変電所も攻撃されており、6月26日には非常事態宣言が発令された。

プーチン大統領の胸中は

 これで国内世論が動揺しないわけがない。だからこそプーチン大統領は戦争を継続すると“不退転の意志”を示したのだろう。必ずウクライナ軍に勝ち、ロシアに平穏をもたらす、というわけだ。

「しかし、それほど戦果は上がっていません。7月3日にはドネツク州・コンスタンチノフカの制圧を発表しましたが、複数のシンクタンクが『虚偽発表』と指摘しています。プーチン大統領の焦りが浮かび上がるわけですが、『ロシア軍が苦戦している最大の原因』を誰よりも把握しているのは彼自身というのも皮肉な状況です。なぜなら肝心の緒戦で大統領は致命的な判断ミスをしており、それが巡り巡って膨大な戦死傷者を生んでいるからです」(同・軍事ジャーナリスト)

成功率の低い空挺作戦

 2022年2月、ロシア軍はウクライナに侵攻した。作戦の鍵を握るのは空から首都キーウを急襲した空挺部隊と特殊部隊だった。

「空挺部隊はアントノフ国際空港の制圧を目指し、特殊部隊は大統領府でゼレンスキー大統領を殺害しようとしました。つまりアメリカ軍がベネズエラで行った特殊作戦、いわゆる斬首作戦を実施しようとしたのです。これが成功していれば、ロシアがウクライナ全土を占領しても不思議ではありませんでした。アントノフ国際空港をフル活用すればロシア軍の補給が容易になりますし、ゼレンスキー大統領を殺害すればウクライナ国民の士気は喪失したでしょう」

 だがロシア軍特殊部隊が大統領府を急襲した際、ゼレンスキー大統領は自動小銃を手に最後まで応戦する覚悟だった。

「大統領府の特殊部隊も、国際空港の空挺部隊も、いずれもウクライナ軍に撃退されました。アントノフ国際空港はロシア軍の地上部隊が再攻撃を行い、一時的には占領に成功しましたが、やはり後に撃退されています。実は空挺作戦の成功率は極端に低いのです。戦史では『マーケット・ガーデン作戦』が代表的な失敗例として知られています」(同・軍事ジャーナリスト)

プーチン大統領の致命的な判断ミス

 マーケット・ガーデン作戦とは第二次世界大戦中の1944年に連合国軍が実行した。

「連合国軍はノルマンディ上陸作戦に成功し、フランスを奪還します。いよいよドイツを目指して進軍するという時、連合国軍が多数の空挺部隊を降下させてオランダを制圧し、ドイツへのルートを確保しようとしたのです。ところが空挺部隊が孤立するなど、作戦は大失敗に終わりました。ウクライナの首都キーウを空挺作戦で占領するとの作戦案を最終的に承認したのはプーチン大統領です。つまり彼の判断ミスが今に到るまでロシア軍の苦戦に大きな影響を与えているわけです」(同・軍事ジャーナリスト)

 ロシア軍の侵攻に苦しむウクライナは当初、NATO(北大西洋条約機構)各国に武器援助を求めてばかりだった。しかし最近は、そうした報道が減っていることをご存知だろうか。

「ウクライナは自国で自爆型ドローンを開発したり、AIに作戦を立案させるシステムを構築したり、最前線の一兵士にまでタブレットを持たせ、インターネットで情報を共有するなど、様々な改革を自分たちの手で成し遂げました。今、ドネツク州の最前線ではウクライナ軍のドローンが24時間365日監視し、ロシア兵を発見すると即座に攻撃します」(同・軍事ジャーナリスト)

配車アプリや電動バイクをフル活用

 軍事ジャーナリストは「私が注目しているのはウクライナの兵士が様々なアイディアを提案し、それを実現するというプロセスです」と言う。

「例えばウクライナの最前線では、ウクライナ軍の兵士が提案したアイディアを採用し、移動では電動バイクや電動キックボードを活用しています。さらに特筆すべきは『GISアルタ』というアプリです。これはドローン無人機が発見した敵の位置を共有し、どう砲撃するのが最も効果的なのか瞬時にAIが判断、直ちに精密砲撃を実行するためのアプリです。発見から砲撃開始まで数分と世界最速。しかもベースになったのは何と配車アプリだそうです」(同・軍事ジャーナリスト)

 一方、ロシア軍は第一次世界大戦の時と変わらぬ人海戦術。ウクライナ軍に比べると硬直化が著しい。さらに莫大な戦死傷者は兵士の補充を困難にしている。

「新兵の基本教育を見てみましょう。アメリカ陸軍なら10週間、海兵隊なら13週間です。ウクライナ軍も10週にしたかったのですが、やはり人員が不足しているので5週間に短縮しています。ただし内容はNATO訓練基準です。ところがロシア軍の場合、1週間から10日間しかありません。これでは銃の使い方も満足に覚えられないでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)

止血授業の重要性

 アメリカ軍であれ日本の自衛隊であれ、まともな軍隊なら止血方法の授業は徹底的に行うという。

「静脈や動脈の位置を覚えさせ、どこにケガをしたら、どうすると出血を止められるのか、それこそ止血の方法だけなら看護師さんと同じくらいの知識を頭に叩き込みます。そうすることで何よりも自分の命を救うわけです。そうした授業を行うためには、やはり10週間という期間が必要なのです。もちろんロシア軍は止血方法を教えていないでしょう。夥しい死傷者が出ているのは無謀な人海戦術だけでなく、劣悪な装備品や新兵教育の欠陥なども大きな原因なのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 ウクライナ軍はドローンを活用し、ロシア占領地の橋梁を次々に破壊している。第2次世界対戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争…戦後の戦史を振り返ると、アメリカ軍でも敵軍が守る橋を破壊することが難しかったことが浮かび上がる。

 だがドローンの登場で、戦場の“常識”が急速に書き換わりつつある。橋を失ったロシア軍が補給に苦しむのは確実だ。ウクライナ軍のドローン攻撃がボディーブローのようにロシア軍を苦しめることを期待してしまう。

35分で戦死する兵士

 ドネツク州・コンスタンチノフカの占領を目指すロシア軍は異常な量の戦死傷者を出している。だが、プーチン大統領は「自信をもって進軍している」と嘘をついた。

 ロシア軍の新兵は1週間から10日間の訓練しか受けていないため、最前線に送られると20分から35分で戦死してしまうという。

 後編【プーチン大統領を焦らせる戦線の“残酷な現実”…新兵の平均生存時間は「35分」、進軍できたのは「1日わずか50メートル」 独裁政権がもたらした「異常な戦死者数」】では、ロシア軍の苦戦によりプーチン大統領が相当に追い詰められている“苦況”について詳細に報じている──。

デイリー新潮編集部