主役の座を奪った兄弟の328 フレイザー・ナッシュBMW 319(1) 影になった1.9L直6エンジンとキドニーグリル
主役の座を明らかに奪われたBMW 319
BMWを振り返ると、多くの名車が兄弟モデルの影になって来た。2002 tiiは2002 ターボに、E28型535iはM5に、話題をさらわれた。E30型325iも、M3の存在感へ霞んだ。
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いずれも素晴らしいクルマだったが、正当な評価は得られなかったといっていい。しかし筆者が把握している限り、戦前のBMW 319、今回の例ではフレイザー・ナッシュBMW 319ほど、主役の座を明らかに奪われた例はないように思う。

フレイザー・ナッシュBMW 319(1936年式/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
この319は、1933年に発売されたBMW 303の進化版で、ニュルブルクリンクやミッレミリアで活躍した328より先に誕生している。ドイツ南西部、ミュンヘンで初めて量産された直列6気筒エンジンを搭載し、フロントには縦に長いキドニーグリルが備わった。
英国の工場でライセンス生産されたBMW
遡ること1934年。アーチボルド・フレイザー・ナッシュ(AFN)社を率いたHJ・アルディントン氏は、自社モデルがアルパイン・トライアルの1500cc以下クラスで活躍すると期待していた。前年には、同社のTTレプリカがペナルティゼロの記録を残していた。
ところが同年に躍進したのは、1.5L直6エンジンを積み、独立懸架式サスペンションとラック&ピニオン式ステアリングを採用したBMW 315。319の前身だった。

フレイザー・ナッシュBMW 319(1936年式/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
アルディントンは速さに感銘を受け、BMWの輸入代理店になるだけでなく、自社工場でのライセンス生産を希望。フレイザー・ナッシュBMWとして、そのモデルを英国で展開する権利も与えられた。自社ブランドの名が先に置かれるという、有利な内容で。
ナチス政権がドイツで台頭した当時、BMWを強調すると販売が制限される恐れがあったことが、その理由だとされている。英国製だと、強調する意味も強かったはず。
ミッレミリアで脚光を浴びた328の魅力に通じる
とはいえ、AFN側は右ハンドル仕様の部品をドイツから一式輸入。英国の工場では、純粋に完成車として組み立てられるだけだった。記録によれば、1934年に315の生産がスタート。その後、1.9Lエンジンの319へ改良されている。
315や319のサルーンやカブリオレは、AFNから600台以上が提供されている。対して、今回の例のようなオープン2シーターは、315 スポーツで16台。319 スポーツは26台と少なかった。残存数は、合わせて24台ほどだという。

フレイザー・ナッシュBMW 319(1936年式/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
設計に優れた319だが、技術が革新的だったわけではない。独立懸架式のフロントサスペンションやラック&ピニオン式ステアリングは、モーガンが第一次世界大戦前から採用していた。排気量の小さい6気筒エンジンも、珍しくはなかった。
それらを巧みに融合させ、軽く美しく仕上げた点がBMWのアドバンテージといえた。敏捷なだけでなく、快適に運転できた。1940年のミッレミリアで脚光を浴びる、460台がラインオフした328の魅力にも通じていた。
1939年前後にギブソン兄弟が中古車で購入
そんなフレイザー・ナッシュBMW 319で、今に生き延びる貴重な1台が、この1936年式。グレートブリテン島北部、スコットランドの販売店だったスコット・ブラウン社が、俳優でレーシングドライバーだったエリオット・プレイフェア氏に届けた車両だ。
経歴は断片的にしか残っていないが、1939年前後に、ポールとジャックというギブソン兄弟が中古車で購入している。金額は225ポンドだった。当時の写真を見ると、第二次大戦中はヘッドライトを遮光するカバーを装着していたようだ。

フレイザー・ナッシュBMW 319(1936年式/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
ASC 131のナンバーで登録された319は、兄弟が入手するまでに多くのレースを戦った。1937年のボネス・ヒルクライムとスコティッシュ・コロネーション・ラリーでの勇姿や、翌年のインターナショナル・ラリー・スコットランドを戦う写真が残されている。
1950年には自動車雑誌、ザ・モーター誌の編集長だったチャールズ・ブルマー氏が購入。1962年と1966年にも転売されているが、以降は不明だという。
「BMWのことを、もっと父へ確認しておくべきでした」
現在のオーナーは、数10年を経て探し出したという、ジェレミー・ギブソン氏。「このBMWのことを、もっと父へ確認しておくべきでした」と悔やみながら振り返る。「でもその頃の自分は若くて、古いクルマの話はあまりしませんでしたから」
ギブソンは根っからのクルマ好きだが、専ら現代的なモデルを好んできた。しかし、フレイザー・ナッシュへ詳しい知人だったマイク・サイス氏から、1940年頃に父が乗っていた319の情報を聞いたことをキッカケに、心は動いた。

フレイザー・ナッシュBMW 319(1936年式/英国仕様) ジャック・ハリソン(Jack Harrison)
「最後に確認されたのは、ドイツ。レストア中だったようです。ヴォルフガング・シュルンダーさんという人が、所有していました。レストア後の価格はかなり上昇すると予想できたので、自分はそれ以上深追いしなかったんです」
この続きは、フレイザー・ナッシュBMW 319(2)にて。

