廊下に全裸の老人、エレベーターに尿…“住人のいる廃墟”と化す老朽マンションの惨状。修繕も建て替えも進まないワケ
国土交通省によれば、築40年超のマンションは現在約148.5万戸。2043年にはその数が約3.4倍の463.8万戸に達すると予測されている。全国704万戸超のストックに対し、実際に建て替えられた実績は2025年3月時点でわずか323件だという。老朽化したマンションで何が起きているのか。
修繕工事を巡って業者が談合に走る背景には、マンション大規模修繕という「巨大な市場」があるが、大きな別の問題もあって、マンション再生コンサルタントの山本侑介氏はこれを「2つの老い」と表現する。
「建物の老朽化と住民の高齢化が同時進行しており、築40年超マンションに住む世帯主のうち70歳以上が約半数を占めています。修繕積立金を建築資材の高騰に合わせて2〜3倍にしたくても、年金暮らしの高齢者には払えない。修繕したくても金が集まらない。そういう現場が増えています」
設備配管が室内を通る古い構造では、そもそも修繕自体が困難なケースも少なくない。漏水が起きても保険では賄いきれず、部分補修だけでやり過ごす「延命処置」が常態化しているマンションは珍しくない。
建て替えに必要な合意形成のハードルも高い。区分所有法では原則として区分所有者と議決権の各5分の4(80%)以上の賛成が必要だ。2026年4月施行の法改正で、耐震性不足など一定の客観的事由がある場合に限り4分の3(75%)に緩和されたが、現実はなかなか動かない。
「建て替えの話を持ち出すと、地上げ屋が来たと思われるんです。まず修繕の限界を理解してもらうところから始めて、そこから建て替えの選択肢が視野に入る。合意形成まで早くて5〜6年、検討開始から20年かかるマンションもあります」
好立地なら建て替え後に戸数を増やして保留床を売却し、事業費を賄うスキームが成り立つ。だが郊外ではデベロッパーも採算が合わず参入しない。建て替えすら「選択肢に入らない」物件が全国に大量に存在しているのが現実だ。法改正は追い風ではあるが、それで動くのは好立地の物件だけという現実は変わっていない。これが全国の高経年マンションの大多数が直面している「詰んだ状況」の正体だ。
◆廊下で全裸の老人、エレベーターには謎の水たまり
約500世帯を管理している不動産コンサルタントの大島海氏は「古い物件と高齢住民は比例する」と話す。
たとえば騒音トラブルでは、高齢者は一日中家にいるため生活音に敏感になり、隣の若者の来客を「契約違反だ」として管理会社に内容証明を送りつけてくることもある。
また、「猫の鳴き声がうるさい」と言い続け、両隣と上下の部屋を調査した結果、誰もペットを飼っていなかったということも……。
「登記簿謄本でオーナーの住所を調べて直接、内容証明を送りつけてくるんです。若い頃に頭の回転が速かった人がそのようにしてくるので、始末が悪い。横浜の築60年アパートでは、高齢男性が全裸で廊下に寝転がっているのですが、声をかけても会話が成立しない。警察も半笑いで『どうにもなりませんね』といって帰っていくんです」
また、廊下が「トイレ状態」になることがある。エレベーターに「小便禁止」の張り紙がある物件があるが、「張り紙があるということは、過去にそういう事案があったということ。高齢の生活保護受給者が入居している階では、正直よくあります」と大島氏は言う。
