ソマリア人審判は強制送還、イラク得点王は7時間拘束…北中米W杯を襲うトランプ政権「非情のビザ・入国審査」の実態
アメリカのトランプ政権による外国人取り締まりがワールドカップ(W杯)サッカーに暗い影を落としている。国際サッカー連盟(FIFA)公認のソマリア人審判がアメリカへの入国を拒否されたほか、戦争状態にあるイランのチームスタッフへの入国ビザが発給されないでいる。イラクの選手も入国の際、一時拘束され7時間もの尋問を受けた。トランプ政権は大会期間中、ニューヨークなどで移民の取り締まりを強化する方針で、W杯が「外国人狩り」を加速させてしまう恐れがある。
トルコ・イスタンブールからの直行便トルコ航空646便が着陸し、機体のドアが開くと、空港は大きな歓声に包まれた。タラップを降りてきたのはFIFA公認審判のオマル・アルタン氏だ。ソマリア人初のW杯審判として今大会、ピッチに立つ予定だった。しかしフロリダ州マイアミでアメリカに入国しようとしたところ、アメリカ税関・国境取締局(CBP)に入国を拒否された。アルタン氏はアメリカの土を踏むことなくソマリアに帰国した。
空港に集まった群衆はアルタン氏を「英雄」として迎えた。胸にFIFAの名前が記されたウインドブレーカーを着たアルタン氏に国旗が渡され、アルタン氏は優勝したアスリートのように国旗を肩に掛け、取り囲んだ人々に手を振って応えた。VIPが通過するルートで空港を出た後、大統領官邸でモハムド大統領と面会した。
CBPはアルタン氏の入国拒否について「入国の可否は審査時点に入手できる情報に基づいて個別に決定される」と一般論でしか説明していないが、アルタン氏はニューヨーク・タイムズの取材に対し、11時間拘束され、過激派組織「アル・シャバブ」との関係について尋問されたと話している。ソマリアのパスポートと入国に必要なアメリカ政府発行のビザも所持していたにもかかわらず、テロ組織との関係を疑われて入国を拒否されたことになる。
アメリカ政府は「外国人テロリストからアメリカを守る」との理由で昨年6月からソマリアなど12カ国を対象に厳格な入国制限を実施している。12月にあったW杯組み合わせ抽選会の3日前、トランプ大統領はソマリア系住民が多いミネソタ州で予定されていた移民取り締まり作戦について語った際、「ソマリアは国と呼べるかどうかも怪しい」と述べ、ソマリアからの移民を「ゴミ」と表現した。
ソマリアでアルタン氏が「英雄」になったのは、トランプ大統領にさげすまされたソマリア人の怒りの裏返しでもある。
◆アメリカ在住移民の間にも広がる恐怖
戦争状態にあるイランは15日にロサンゼルスで初戦を迎えるが、選手らにビザが発給されたのは試合10日前の5日だった。しかし技術顧問らチームスタッフの多くにはビザは発給されなかった。
6日にアメリカ入りしたイラクのエース、アイメン・フセイン選手はシカゴのオヘア国際空港で7時間にわたり拘束され尋問を受けた。チームのカメラマンは入国を拒否された。イラクサッカー連盟は「イラク代表の得点王が容疑者扱いされるようなことがあれば、イラク代表とサポーターがどのような扱いをうけるのか、疑問を持たざるを得ない」とアメリカへの不信感をあらわにした。
W杯での「外国人いじめ」を警戒するのはアメリカに入国する選手やサポーターだけではない。アメリカで暮らす移民もW杯中の取り締まりを恐れる。
開幕してもニューヨークではまだ、W杯の熱狂を目にすることがないが、ラテン系の移民が多く住む市内クイーンズのジャクソン・ハイツやコロナという地区は別格だ。W杯の旗を掲げ、オブジェを設置する飲食店や洋品店が軒を連ねる。メキシコなどチームのジャージが露店で販売される。
