阪神・森下翔太が4年目で初退場 名選手たちを襲った“判定への怒り”の代償
阪神の主砲・森下翔太が6月6日の楽天戦で、プロ4年目にして初の退場処分を受けた。5回に空振り三振に倒れた後、球審に打席での投球判定を確認。その際に警告を受け、暴言を吐いたとして退場を宣告された。
かつてのONのように現役、監督時代を通じて1度も退場処分を受けていない“模範生”も存在する一方で、思わぬボタンの掛け違いなどから、退場のほろ苦さを味わった有名選手も少なくない。そんな彼らの初退場シーンを振り返ってみよう。【久保田龍雄/ライター】
【写真】プロ初退場を経験! 物議を醸すプレーも…阪神主砲・森下翔太の姿
オレもまだ若いんだね
現役時代3度の三冠王に輝いた天才打者・落合博満が初めて退場を宣告されたのは、ロッテ在籍最終年の1986年10月8日の西武戦だった。

1対1の7回1死一、二塁、西武・辻発彦がセンター方向にフラフラとした打球を打ち上げたのがきっかけだった。
センター・古川慎一が懸命に前進し、ライト・愛甲猛もバックアップしたが、皮肉にも打球は古川のグラブをかすめ、ポトリと落ちる安打になった。
この間に二塁走者・伊東勤が勝ち越しのホームを踏み、一塁走者・岡村隆則も三塁を狙う。だが、愛甲から返球を受けたサード・落合がスライディングしてくる岡村にタッチ。タイミング的にはアウトに見えた。
ところが、小林晋塁審の判定は「セーフ!」。激高した落合は同塁審の胸を2、3回突き、退場を宣告されてしまう。
「手を出したこっちが悪いんだから、退場を言われても、何も言えない。でも、完全にアウトだ」(落合)。
稲尾和久監督もベンチを飛び出し、約4分にわたって抗議したが、判定は覆らなかった。
結果的にこの判定が大きく明暗を分け、ロッテはこの回5失点。加えて、この日まで48本塁打の主砲を欠いては、終盤の2イニングで反撃する術もなく、そのまま敗れた。
試合後、落合は「オレもまだ若いんだね。野球を辞めるまで退場なんて考えてもいなかったよ」とプロ8年目の初退場劇に複雑な表情だった。
その後、巨人時代の95年6月7日の横浜戦でも、一塁上の際どいプレーのセーフ判定に怒って塁審の頬に張り手をかまし、2度目の退場。中日監督就任後には遅延行為などで6度の退場処分を受けている。
踏んだり蹴ったり
前出の落合と同じようなシチュエーションでプロ初退場を記録したのが、広島選手時代の新井貴浩だ。
2003年6月5日の巨人戦、広島が6対5と逆転した直後の9回表1死一塁、巨人は阿部慎之助の右前安打で、一塁走者・斉藤宜之が三塁を狙った。
だが、ライト・木村拓也の返球は、サード・新井のグラブにすっぽり収まり、斉藤はそのグラブ目がけてスライディングしていく形になった。VTRにも新井が斉藤の右足にタッチする瞬間がはっきり映っており、誰が見てもアウトだった。
ところが、吉本文弘三塁塁審の判定は「セーフ!」。“誤審”に怒りを爆発させた新井は同塁審の胸を小突き、退場を宣告されてしまった。
実は、新井が怒ったのには伏線があった。この日は巨人有利の判定が相次いだばかりでなく、8回には広島の先発・高橋建も退場処分を受けていた。
降板の際にボールボーイへの返球がバックネット前にいた谷博球審の約2メートル横を通過したことから、「かなりのスピードボールをダイレクトに(球審に向かって)投げた」という吉本塁審の証言がきっかけで、審判への侮辱行為と取られたのだ。
そんなあと味の悪い事件の余韻も覚めやらぬときに、今度は三塁タッチアウトをセーフにされたので、ふだんは温厚な新井も堪忍袋の緒が切れてしまったようだ。
これが新井にとって現役20年間で唯一の退場劇だが、1試合出場停止処分まで受け、踏んだり蹴ったりだった。
リクエスト制が導入された現在では、判定が覆った可能性も高く、落合、新井ともに退場になることはなかったかもしれない。
暴れん坊伝説
最後は1試合で2度退場も含むNPB史上最多の退場14回を記録した“退場王”タフィ・ローズにご登場願おう。記念すべき来日初退場は、近鉄時代の1997年4月19日の西武戦だった。
同点の4回、フルカウントから西口文也の内角低めを見逃し三振に取られたローズは、激しい剣幕で中村稔球審に詰め寄ったが、侮辱的発言があったとして、来日2年目の初退場となった。
収まらないローズは、ベンチやロッカーでバットを持って暴れ、鉄扉をへこませるなどのご乱行に及んだ。これが“暴れん坊伝説”の幕開けだった。
その後も毎年のように退場処分を受け、オリックス時代の2008年5月17日のロッテ戦では、三振に倒れた直後、「振り向いて何か言ったときの顔が侮辱行為と感じた」という前代未聞の“お前の顔が侮辱”認定で、通算13度目の退場処分を受けた。
14回中11回までがストライク判定に抗議してのもので、退場歴の多さから“累犯”として基準が厳しくなったとも解釈できる。
ストライク、ボールの判定は、リクエスト対象外である。今季MLBで本格導入されたABSシステム(ロボット審判)について、先月末、日本プロ野球選手会がポジティブに捉えている選手もいることを明らかにしたが、実現にはまだ時間がかかりそうだ。
現時点では、判定に抗議しても覆ることはないし、場合によっては、今回の森下のように退場処分を受けることもある。
“口は禍の元”にならぬよう、たとえ判定に納得がいかなくても、じっと我慢の子でいるのが得策のようだ。
久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘! 激突! 東都大学野球』(ビジネス社)
デイリー新潮編集部
