「私は大丈夫」と笑いながら…〈年金月12万円〉エアコンは最小限、擦り切れた服を着続ける81歳母。長男を驚愕させた“まさかの通帳残高”
「子どもに迷惑をかけたくない」――そんな思いから極端な節約を続ける高齢者。しかし、その不安は本当に現実的なものなのでしょうか。本記事では、年金月12万円で暮らす81歳女性の事例を通じて、老後資金との向き合い方を考えます。
「仕送りしようか」息子が心配になる母の生活
息子の浩一さん(仮名・56歳)は、ここ最近、実家を訪れるたびに母・和枝さん(仮名・81歳)にこう問いかけていました。
「ねえ、母さん。ちょっと節約しすぎだよ。生活が苦しいなら、少し仕送りしようか」
和枝さんは、地方都市の築40年を超える戸建てで一人暮らし。夫を亡くして8年。年金収入は月12万円ほどです。もともと贅沢をする人ではありませんでしたが、今の倹約ぶりは見ていて心配になるほどでした。
真夏でもエアコンは最低限しか使わない。スーパーでは値引きシールの貼られた商品ばかりを選ぶ。擦り切れた服や靴も、まだ使えると言って買い替えない。さらには、病院に行く頻度まで減ってきました。
「年金だけじゃ大変だろう。貯金はまだあるの? 遠慮しないで頼ってほしい」
浩一さんがそう尋ねると、和枝さんは決まってこう答えました。
「本当に大丈夫。お前には迷惑をかけたくないの」
柔らかい笑顔でしたが、その口調には、“それ以上聞かなくていい”という強い信念を感じるものでした。しかし、それがかえって「気を使っている」と思わせ、浩一さんの胸を痛ませました。
通帳を見たら…まさかの残高に仰天
転機が訪れたのは、和枝さんの通院に付き添った日のこと。銀行で記帳を終えた母の通帳をさりげなく見た浩一さんは、思わず声を上げました。
それまで、貯金額を聞いてもうやむやにされ隠されていました。しかし、残高は約1,350万円……まさかの金額でした。
「えっ、母さん、まだお金あるじゃないか!」
しかし、和枝さんは困ったように笑いました。
「え、見たの? ……これっぽっち。もし施設に入ることになったらどうするの。お金が足りなくなったら、お前に迷惑がかかるでしょう」
父が亡くなったとき、和枝さんの手元には預貯金や保険金などを合わせて1,500万円ほどが残りました。相続手続き上、浩一さんも、そのことは知っていました。
それから8年。家電の買い替えや冠婚葬祭、孫へのお祝いなど、避けられない支出があり、物価も上昇しました。そのため浩一さんは「かなり減っているんだろう」と思っていたのです。
しかし、実際には、和枝さんの普段の生活費は年金収入を大きく下回っていました。年金から余ったお金はそのまま積み立てられ、家電の買い替えや冠婚葬祭、孫へのお祝いなどの特別な支出に充てられていたのです。そのため、8年という歳月が経過しても、預金残高は想像ほど減っていませんでした。
「子どもに迷惑をかけたくない」が本末転倒になる前に
和枝さんのように、「できるだけお金を取っておかなければ」と考える高齢者は少なくありません。その裏には、長寿化に伴う介護、施設入居などの現実的な不安があります。
厚生労働省「令和5年簡易生命表」によると、男性の平均寿命は81.09年、女性の平均寿命は87.14年。女性の約2人に1人が90歳まで生存すると推計されています。
こうした不安を増幅させているのが、「介護施設には莫大なお金が必要」というイメージです。たしかに高級な介護付き有料老人ホームのなかには、入居時に数千万円規模の費用が必要になる施設もあります。
しかし、それはあくまで一部。実際には、特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)、入居一時金のない有料老人ホームなど、入居条件はあるものの比較的費用を抑えられる選択肢もあるでしょう。
例えば、和枝さんが85歳で施設に入居し、95歳まで10年間暮らしたと仮定してみましょう。
月額利用料20万円の施設であれば、年間費用は約240万円。和枝さんには年144万円の年金収入があるため、預金から補う金額は年間約100万円程度になります。仮に10年間続いたとしても、必要となる取り崩し額は約1,000万円前後。
もちろん、医療費や介護度、施設の種類によって状況は変わりますが、少なくとも「施設に入ったら、すぐにお金が枯渇する」という状況とはいえません。
そもそも、介護サービスを最大限活用した在宅介護という選択肢もあります。あるいは、より安い費用の施設を探す、持ち家という資産もあるため、状況によっては売却や活用を検討する選択肢もあります。
和枝さんのように、「子どもに迷惑をかけたくない」と考える高齢者は少なくありません。しかし、そのために冷暖房を我慢したり、必要な受診を先延ばしにしたりして健康を損ねてしまっては、本末転倒です。
大切なのは、この先何にいくら使うことになるのか、その費用をイメージではなく具体的に知ること。その安心感こそが、残りの人生を少し豊かに過ごすための第一歩になるでしょう。
