ヘルメットも不要 ノーマルで参加できるお手軽ラリー 英国で人気上昇中のアマチュア向けスポーツ【UK編集部コラム】
普通のラリーとは一味違う
4月のある日曜日のこと。一般の入場は許可されていなかったが、英国西部の海沿いにある王立海兵隊基地「RMBチブナー」で、1972年式フォード・エスコートから2007年式BMW 123dに至るまで、約50台の使い込まれたクルマが滑走路やアクセス道路、芝生の外周を猛スピードで走り回っていた。
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一日中、1987年式フォルクスワーゲン・ゴルフGTIや1990年式トヨタ・カローラGTiといった希少車から、1997年式プロトン・サトリアや2003年式フォード・フュージョンといった変わり種まで、さまざまなクルマが基地内を疾走し、時折、タイム計測を行う係員のそばで急ブレーキをかけて停止した。ラリー競技だが、筆者が知るものとは少し違った。

英国タルガ・ラリーに参加していた2008年式ルノー・モデュス ポール・モーリス
これは英国のタルガ・ラリー(Targa Rally)だ。アマチュア向けの急成長中のモータースポーツであり、参入コストの低さが大きな魅力となっている。
筆者がこのスポーツを初めて知ったのは、2023年のクラシック・トラックス・タルガ・ラリー(Classic Tracks Targa Rally)のYouTube動画だった。そこには、標準仕様の乗用車が古い農場を猛スピードで駆け抜け、観客たちが声援を送る様子が映っていた。目を細めれば、1970年代のロンバードRACラリーのラウンドのようにも見えるが、決定的な違いが1つあった。
それは、ドライバーもナビゲーターも誰もヘルメットを着用していなかったことだ。
最大の魅力は参加ハードルの低さ
ヘルメットや耐火スーツ、消火器、ロールケージといった装備はコスト増につながり、草の根ラリーへの参加意欲を削いでしまうという意見もある。タルガ・ラリーには「シルバー・スター」と「ゴールド・スター」の2種類があり、いずれもBTRDA(英国トライアル・ラリー・ドライバーズ協会)の下で運営されている。参加費が安いシルバー・スターは、タルガ・ラリーの精神に最も近い。
タルガ・ラリーに参加するには、自動車クラブの会員であることと、モータースポーツUKから無料で取得できるRSクラブマン・ライセンスを所持していることが条件となる。インタークラブ・ライセンスでも参加可能。イベント内容によって参加費は異なり、ある故人の会員を偲んで開催されたイベントではわずか180ポンド(約3万80000円)に設定された。この金額には、専門的なマーシャル体制が整った会場のレンタル料も含まれる。

英国タルガ・ラリーの様子 ポール・モーリス
車両は公道走行可能なものでなければならず、エンジンは4気筒以下で、シングルカム、または標準装備であればツインカム、2つのキャブレターチョークまたは標準の燃料噴射システムを備えたもののみが競技に参加できる。ディーゼル車を除き、排気量1500ccを超えるターボチャージャー付きエンジンは認められない。
騒音の大きいマフラーや、従来のHパターンではないトランスミッションも禁止されている。ロールケージは認められているが、必須ではない。ヘッドライニング、カーペット、後部座席(装備されている場合)、およびオリジナルのドアトリムは装着したままにしなければならない。シートベルトは通常のタイプでよい。クルーが着用すべき服装に関する規則はない。
砂利などさまざまな路面を50km
こうした規制の緩やかさが、参戦費用に直接影響する。冒頭で触れたチブナーでは、ブロックタイヤやレーシングシート、ボンネットキャッチ、ロールケージを装備して見栄えを良くした車両も多かったが、本質的には完全に標準仕様だった。工場出荷時のままの姿を保っている車両も、ほぼ同数見られた。
すべての車両が対等な条件で競えるのは、平均許容速度がわずか時速30マイル(約48km/h)だからだ。

英国タルガ・ラリーの様子。ほぼノーマルで参加する車両が多い。 ポール・モーリス
一見平凡な2002年式日産マイクラ1.4を駆って2位に入ったウィル・ジェフェリスさんは、「勝ち目がなさそうに見せるのが好きなんです。タルガでのドライビングはテクニックがすべてで、どれだけ速く走れるかではありません」と語っている。
とはいえ、ペースが緩むことは決してなかった。当日は10のテストが設けられ、総走行距離は約50kmに及んだ。その半分はターマックで、残りはターマックと芝生と砂利道が混在していた。
ごく普通のファミリーカーで参加
路面に関わらず、ドライバーたちは全力で走った。ショーン・メリフィールドさんと息子のコナーさんは、ダッシュボードにカーナビを雑にテープで貼り付け、後部座席には荷物が山積みになったままの2008年式ルノー・モデュス(写真)で会場に現れた。彼らはRSクラブマン・ライセンス保持者向けのクラブマンクラスで17位となった。他には、2003年式フォード・フュージョンで参戦したカップルもいた(こちらは最下位だった)。
ジョシュ・マーティンさんとコ・ドライバーのデイブ・モッターハムさんは、2000年式マツダMX-5(日本名:ロードスター)を駆っていた。モッターハムさんは、「タルガは1970年代のステージラリーに似ています。安価で参加しやすく、クルマのセッティングについて多くのことを学べます」と語った。彼らはインタークラブ・ライセンス保持者向けのインタークラブクラスで8位となった。

英国タルガ・ラリーに参加していた2008年式ルノー・モデュス ポール・モーリス
競技終了時点で、両クラスを通じた総合優勝は、2000年式フォード・プーマを駆るジェイミー・レイモンドさんとオリバー・ラクストンさんに決まった。ザック・リンハムさんとハリー・ブラックモアさんは、2003年式MG ZRでクラブマンクラスを制した。しかし、参加者全員の笑顔を見る限り、誰もが勝者だったと言える。
多種多様なラリーイベントを開催
タルガ・ラリーは、ジムカーナ、公道ラリー、耐久ラリーから発展したもので、過去10年間で他のモータースポーツが衰退する中、飛躍的に成長している。
その魅力は、参加費用が安く、ほとんど準備を必要とせずに日常の一般車両で参戦できる点にある。もっとも、走行条件が過酷なイベントであれば、タイヤ選びや車体下部の保護はしっかり行った方がよさそうだ。

英国タルガ・ラリーの様子 ポール・モーリス
一部のイベントでは2人の参加者が交代で運転できる点も、魅力の1つと言える。中には、本番のわずか1週間前にクルマを購入する参加者もいるほどだ。
路面は、レースサーキットの整備されたアスファルトから森林ステージまで多岐にわたる。英国タルガ・ラリーは60以上開催されており、その気があればBTRDAシルバー・スター選手権を通じてステップアップすることができる。
こうした草の根のモータースポーツが、クルマの文化を育んでいくのだろう。
