パレスチナ人民連帯国際デーに参加するグレタ・トゥーンベリ(写真:ロイター/アフロ)


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イスラエルが「テロリスト」と名指し

 全世界で数百万人規模のストライキを牽引し、「時代の寵児」として米タイム誌の表紙を飾り、ノーベル平和賞候補にまで名前が挙げられた少女は、今、命の危険にさらされていると感じている。

 気候活動家として日本でも知られるグレタ・トゥーンベリは、スウェーデン紙ETCのインタビュー記事で、長きにわたって脅迫や嫌がらせの被害に遭っているとして「自分は長くは生きられないだろうことは、覚悟している」「スウェーデンにいても安全を感じない」と言う。国を離れることも検討しており、バックパッカーとして生活する可能性についても話している。23歳になった彼女が口にしたのは、あまりに重すぎる覚悟だ。

 2026年4月には、イスラエル政府はグレタを「最も危険なテロリスト」の一人として名指しし、圧力をかけている。理由は彼女がパレスチナ(ガザ地区)への強い連帯を示し、イスラエル政府の軍事行動を激しく非難する行動を取っているからだ。

 昨年、彼女と仲間が支援船でガザへ向かった際は、イスラエル軍に拿捕・拘束された。食べ物や水を満足に与えられず、濁った水を飲んだ何人かは病気になったという。グレタは、兵士らに「お前をガス室に送ってやる」と繰り返し脅され、殴る蹴るといった拷問に近い扱いを受けたと主張している(イスラエル側は否定)。

Greta Thunberg är den israeliska extremhögerns näst värsta fiende(グレタ・トゥーンベリはイスラエルの極右にとって2番目に厄介な敵だ)
Greta Thunberg berättar om skräckdygnen i israeliskt fängelse(グレタ・トゥーンベリが語る、イスラエル刑務所での恐ろしい日々)

 一緒にイスラエルに拘束された他の活動家もほぼ同様の証言をしており、トルコ人ジャーナリストのエルシン・チェリク(Ersin Çelik)の証言は、トルコの国営通信社やCNNを通じて世界中に報じられた。

 チェリクは、以下のように語っている。「彼らは私たちの目の前でグレタを激しくいたぶり、拷問した」「地べたを這わせ、イスラエルの国旗にキスを強制した」

 グレタと活動家たちがたどってきた軌跡は、単なる「若い活動家が過激化していく」物語ではない。世界を救おうとした若者たちが、大人たちが解決を放棄したあらゆる矛盾(気候変動、戦争、格差)を一身に背負わされながらも闘いを続けていく、現代社会の非合理と不都合を白日の下に晒している。

15歳で世界の若者たちを熱狂させた学校ストライキ

 グレタが知られるようになったのは2018年、15歳のときに始めた「気候のための学校ストライキ」だった。瞬く間にスウェーデンのあらゆるコミューン(自治体)に広がった。掲げていたのは、2つのシンプルなメッセージだ。

「気候変動のための学校ストライキ」と「大人が私の未来を台無しにしようとしているので私は行動している」だ。

 このメッセージは多くの若者、10代から20代のいわゆる「Z世代」を惹きつけた。「未来のための金曜日(Fridays for Future)」と称した気候変動学校ストライキ (School Climate Strike) 運動が組織され、グレタは世代の代弁者となった。

 2018年12月の国連気候変動会議でグレタが演説して以降、ストライキは世界で行われるようになった。Fridays for Future運動は急速に拡大し、その後数々の大規模な抗議活動が組織された。

 2019年からの活躍はめざましかった。彼女の呼びかけに応じて、世界各地で同時にストライキが起き、大規模デモが開催された。彼女は欧州を始め、米国など世界を飛び回って演説し、デモに参加して行動をする若者たちにエールを送った。

 そして、各国首脳、王族、企業経営者までもが、彼女と並ぶ姿を積極的に演出した。米国では国連気候変動サミットに出席し、当時のオバマ大統領とも面会している。

 こうして、彼女は「希望の象徴」となった。

逮捕や施設占拠も辞さない武闘派へのシフト

 2022年に著書『THE CLIMATE BOOK』を出版した頃から、彼女の主張は「単なるCO2削減」から「社会システム全体の転換が必要だ」という方向へはっきりとシフトしていった。

 この本では貧困・不平等、先住民や脆弱な地域への影響など、気候危機を単なる環境問題ではなく、社会・経済・人権の問題としている。さらに、各国政府や企業、国際社会の対応について、「危機の深刻さに比べて不十分」と強く批判している。

The Climate Bookの日本語訳『気候変動と環境危機 いま私たちにできること』

 この頃から、警察の命令に従わずに罰金刑を受けたとか、身柄を拘束されたというような報道が散見されるようになった。武闘派としての姿勢を鮮明にしたのだ。

 2024年5月に欧州の大型音楽イベントである「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」が開催された際、出場するイスラエル人歌手の排除を要求し、会場で警察ともみ合って逮捕された。またイスラエルの大学と学術提携する欧州の大学の建物を占拠した。さらに石油タンカーの航行阻止、原油施設前での座り込みなど数々の実力闘争に出た。

 こうした変化は、グレタ自身が活動の範囲を広げたというよりは、気候問題はエネルギー・経済・貧困・戦争・植民地主義の問題にぶつかるということに正面から向き合う姿勢を示したということだろう。さらに、「政治家らは知っている(が、動こうとしない)」ということにも。

 つまり気候問題を突き詰めれば、化石燃料に依存する「現代社会のシステム」を根底からくつがえす「社会と経済の作りかえ」に行き着く。

かつて支持した欧州メディアのスタンスが一転

 こうした行動に支持が増える一方、「環境問題に集中しろ。政治にかかわるな」「環境問題は政治ではない」といった批判も大きくなった。彼女は「過激」「危険」とされて誹謗・中傷され、活動家たちは社会から攻撃される対象になっていったのだ。

 分岐点となったのは2023年10月のイスラエル軍によるガザ攻撃だろう。

 グレタはSNSに「世界は声を上げ、即時停戦と、パレスチナ人および影響を受けるすべての民間人への正義と自由を求めるべきだ」と投稿した。また「Free Palestine(パレスチナに自由を)」と書かれたプラカードを持つ写真を投稿。

 そして彼女自身も、これ以降「環境活動家」としての枠を超え、「反帝国主義・反植民地主義の活動家」としての側面を極めて強く打ち出すようになった。イスラエルに対しても、「イスラエルはアパルトヘイト(人種隔離)国家である」「パレスチナ解放なしに気候正義はない」と、イスラエルを明確に加害者として非難する政治的な活動家へと変貌している。

 独日刊紙ビルト(BILT)は、23年11月、アムステルダムで8万5000人が結集した気候変動及びパレスチナ連帯デモを「グレタの最も過激なテロリスト仲間」という見出しで記事を掲載した。

 独シュピーゲル誌など、かつて彼女を支持したリベラルなメディアも、「アイドルは道を見失った」「一方的でナイーブな活動家になった」と厳しく批判し始めた。

 ドイツにおいて、イスラエルを批判したりその存在権利を否定したりするような発言は、歴史的背景(ホロコーストへの反省)から「越えてはならない一線」とされている。そのため、環境問題のアイコンだった彼女がパレスチナ支持を明確にしたことは、ドイツメディアにとってはショックだったのだろう。

 こうして、これまでずっとグレタに対し概ね好意的だった大手メディアが、彼女のパレスチナ問題への介入を境に彼女を「治安上の脅威」と見なし、はっきりとその態度を変えていった。

 しかしグレタは、パレスチナおよびガザへの支援をますます強化していく。

グレタらが乗る支援船団をイスラエル海軍が包囲

 2025年6月には、彼女と活動家たちが、ガザ地区への人道支援物資の搬入と封鎖への抗議を目的として船「マドリーン号」に乗りガザ地区へ向かうと、イスラエル軍に阻止され、船は拿捕された。イスラエルに連行され、長時間の尋問の後、母国へ強制送還されたことは冒頭でも少し触れた

 しかしこの事件が、世界中から大規模な支援を獲得することにつながった。

 2度目の9月には、世界各国のNGOや市民団体の合流により、50隻以上の船舶が参加する大規模な船団「Global Sumud Flotilla」へと成長した。これは、ガザ封鎖に対する国際的な抗議活動としては、史上最大規模とされる。

 欧州の大手メディアなどがグレタへの見方を変える一方、大規模な国際的連帯が生まれている背景には、「国際社会が沈黙していることへの絶望と怒り」があるからだ。

 筆者が注目したことはもうひとつある。

 グレタらが乗る支援船団がイスラエル海軍に包囲される事態に陥った時、イタリアとスペインの両政府が、自国民の保護を名目に軍艦(護衛艦)を海域へ派遣したのだ。それは、自国民を含む活動家たちの安全のため、イスラエル軍による過度な武力行使を抑止するためだ。イスラエルに対して「欧州は自国民に対する不当な暴力を容認しない」という強いメッセージを送ったのだ。

Why have Spain and Italy sent ships to assist the Gaza Sumud flotilla? 
Därför skickar Italien och Spanien krigsfartyg till aktivistflottan

 イスラエルはこれを「テロ支援活動への加担」として猛烈に批判した。こうして、市民活動家による船団を巡る問題が、イスラエルと欧州との間の緊張へとエスカレートしている。

 もし、これが日本だったらどうだっただろうか。

「大人が未来を台無しにしている」今なお私たちに迫る責任

 日本では「自己責任」「勝手に危険な場所へ行った者は見捨てればいい(あるいは冷遇する)」という空気が強いのではないか。

 欧州では「たとえ本人の意志で危険に飛び込んだとしても、国民である以上、国家は軍を派遣してでも守る義務がある」という姿勢を明確に示している。これは国家観や人権に対する、文化・政治的な違いを浮き彫りにしているように見える。

 グレタが2018年に15歳でスウェーデン議会の外で抗議を始めたときのメッセージは、「大人が私の未来を台無しにしようとしているので私は行動している」だ。

 彼女は常に、大人世代に責任を突きつける。「大人が何もしないから、自分は闘っている」としばしば口にする。彼女が最初に注目された2018年の国連での演説では、居並ぶ面々に “You are not mature enough to tell it like it is.”(あなたたちは真実を率直に語るほど成熟していない)とか “You are stealing their future.”(あなたたちは子どもたちの未来を奪っている)と突き付けている。

 世界が注目し、賞賛した少女は、発言や行動の過激化とともに社会のメインストリーム(主流派)の支持を失ったように見える。だが、「大人が作って享受してきた不公平な世界そのもの」と闘う裏には、気候問題や社会・経済の矛盾を将来世代に先送りしようとする“大人世代”の無責任さがある。私たちはそのことを忘れてはいけない。

筆者:松沢 みゆき