kZm(撮影=JUN YOKOYAMA)

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【連載:RAP FOR YOUTH】kZm

 若い世代に向けてリアルタイムで活躍するラッパーからの想いを繋ぐ新連載「RAP FOR YOUTH」。登場するラッパーには毎回、自身の過去と徹底的に向き合ってもらい、その姿が若い読者に対して未来への“学び”として映れば、というのが本企画の趣旨である。記念すべき初回には、kZmに登場してもらった。

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 1994年1月生まれ。東京・渋谷区出身の31歳。Awichら擁するYENTOWNのラッパーとして、近年はジャージー、アマピアノからアンビエントまで、多様なサウンドをジャンルレスに接続する“オルタナ界”のトップランナーとなっているkZm。2024年8月にはアルバム『DESTRUCTION』を発表したほか、同年11月にはロンドン発のライブ配信イベント『Boiler Room Tokyo』にも出演するなど、東京を代表するラッパーのひとりとして、間違いない実績を残し続けている。

 そんな彼に今回、約7年半を捧げた“アルバム三部作”を完成させての想いから、自身も生活する東京の若者へのイメージや、彼らに伝えたいこと。さらには年齢を重ねての苦悩まで、連載初回に相応しい充実のエピソードを語ってもらった。(whole lotta styles)

■ついに完結したアルバム三部作 自分だけのジャンルを築くための“破壊”

ーーkZmさんは以前、「ヒップホップって若者の音楽」「正直若いってだけでそれは勝ちというか、正義だし」と語っていました(※1)。まずはこの考え方について、もう少し掘り下げて教えてほしいです。

kZm:いきなり難しいな(笑)。それこそ『POP YOURS』のようなフェスに集まる子たちを見てもわかる通りで、日本のヒップホップはユースカルチャーとして広まっていて。そこで憧れられる立場の人間は、やっぱり彼らと同じ世代であるべきだと思うんすよね。俺自身が歳下のラッパーから刺激を受けがちなのもありますけど、新陳代謝していくのがこのジャンルの在り方だし、音楽全般に限らず、洋服とかもそう。自然の摂理みたいな?

ーーヒップホップの特徴といえる、“流行の音”のサイクルが速いのも、なんらかの関係性があると考えますか?

kZm:あまりヒップホップ以外は詳しくないんすけど、たしかに色々な要素を掛け合わせて新しいものを生むロジックはわりと出来上がっているのかも。あとやっぱり、若者って家から出て、外で元気に遊ぶじゃないですか。“若者”の定義こそ難しいものの、パーティで色々な音や人に出会って、たくさん刺激をもらって。それを自然と掛け合わせて「カッコよくね?」ってアイデアを出しまくれるのが単純に強いと思います。

ーーたしか2年前、Instagramでファンからマインドの保ち方を尋ねられた際も、「外で元気に遊ぶべきだ」と答えていましたよね。

kZm:この年齢になると、家族ができたり腰が重くなったりするはずなのに、うちの周りはあまり変わらなくて。それもあって、俺も可能な限りはオープンなマインドでいたいし、いまも楽しく遊べてるのはすごくいいこと……いや、よくはないんだけど(笑)。

ーー(笑)。さて、kZmさんといえば2024年8月、前作から約4年ぶりとなるアルバム『DESTRUCTION』を発表しました。全18曲にわたる大作でしたが、リスナーからの反応はいかがでしたか。

kZm:俺的には、“アルバム三部作”に上手いオチを作れて納得しています。とはいえ、制作途中から気づいてはいたけど、いまの若い子たちにあのボリュームをぶつけるのは、まぁ難しいっすよね。

ーーいわゆる“TikTok世代”ですからね。

kZm:そうそう。俺もぶっちゃけ、昔より映画とかに集中できなくなったし、ショートコンテンツが流行ってる世の中に、あの作品は合っていなかったんだろうな。でも、だからこそリリースする意味もあったと思うし、本当は18曲じゃなくて20曲以上を用意していて。泣く泣くカットしたんすよ。

ーーなんと。先ほど名前が挙がった“アルバム三部作”は、2018年3月発表の1stアルバム『DIMENSION』と、2020年4月発表の2ndアルバム『DISTORTION』を含めてのものですが、この三部作の構想は具体的にいつからあったのでしょうか?

kZm:1枚目を作っていた頃にはもうありました。『DIMENSION』は、俺が好きな美術家の荒川修作がよく使っていた言葉と、その当時に遊んでいた同名のアプリから引っ張ってきたもので。たしか最初は、UKドリルとかシカゴドリルみたく、俺だけのジャンル=kZmを築こうと考えていたんすけど、その考え自体が結局は自分で自分を縛ることだなと。むしろ、そういう枠組みを破壊しないとって気づいたんですよね。

ーーなるほど

kZm:ただ、いきなり破壊までは持っていかず、一旦は枠組みの真ん中を歪ませてみる。グラデーションを描きながら破壊に繋げるイメージにしました。俺のなかでは『DIMENSION』が朝、『DISTORTION』が夕方で、『DESTRUCTION』が夜。この3枚で1日の流れになっていて、それってつまり円環なんですよね。

■「俺っていいキャラしてると思う」明かされるリリックが変化した理由

ーーどの作品も、取り扱うサウンドのジャンルや色味が異なりましたが、そうした変化も当初から想定していたのでしょうか。

kZm:どうせ変わるだろうとは思っていました。同じことをずっと続けられないタイプなんで。でも当時の制作で頭がこんがらがって、どこまでが自発的で、どこからがそうじゃないのかは、もうあんまり覚えてないっす(笑)。

ーー『DESTRUCTION』にはどのくらいの制作期間を掛けたのでしょうか。ご自身も所属するYENTOWNのAwichさんは、アルバム『Queendom』制作時、すべてを一度作り直したというエピソードも明かしていましたが、kZmさんにも同じようなことが?

kZm:制作自体は、コロナ禍に入ってすぐに始めていたから、実質丸4年かな。Awichと似たようなことはしましたね。あくまで結果的にだけど、最初2年間で作った曲は、1曲も採用しなかったはず。全曲とも2022年11月に発表したEP『Pure 1000%』以降に作ったんじゃないかな。

ーーたしかに制作の軸足を『Pure 1000%』にシフトしたことも、制作期間の長期化に関係していると、以前にどこかでお話をしていましたね。

kZm:あの頃は一瞬だけメジャーレーベルに所属してみたけど、大人たちからヒット曲を求められて、人生で初めて音楽をつまらなく感じちゃって。そうしたらある日、隣のスタジオに入っていたGliiicoと出会って、一緒にセッションをしていったら『Pure 1000%』が出来上がったんすよね。

ーーkZmさんにとってメジャーレーベルで過ごした時間はいかがでしたか?

kZm:すぐに離れましたけど、無駄だったとは思ってないっす。「音楽の世界はこうして回ってるんだ」って、その様子を俯瞰して見られたし、そこで俺がどう闘うべきかも掴めたんで。すごくいい経験をさせてもらえました。それに、尊敬する宇多田ヒカルさんも言ってたけど、みんなから求められるものと、自分のやりたいことを両立するのがプロなんで。それにあらためて気づかされたのがデカかったです。

ーーアルバム三部作を聴いていると、最新作に近づくにつれて、リリックのタッチが抽象から具体描写にシフトしている感覚があります。

kZm: 文章や音楽を問わず、“作品の裏の意図”を自分なりに解釈や考察するのがすごく好きで。一聴しただけじゃ意味の掴めないラインの方が、当時はカッコいいと思ってた節がありました 。

ーー逆に、具体的な描写スタイルに移り変わった理由は?

kZm:単純に「使えるところは全部使おう」と思ったので。というか、1枚目のアルバムはそれまでの人生すべてをリリックに詰め込めるけど、2枚目以降はその間の期間を歌にするしかなくなるんで。あと、あまりに抽象化しすぎると、ファンの子たちが俺の人となりを掴みづらいだろうし、YENTOWNの奴等にも「自分らしさをどんどん出すべきだ」って言われたんですよね。まぁ……自分で言うのもアレですけど、俺っていいキャラしてると思うんで。わかんないすけどね(笑)。

ーー(笑)。実際、現在のリリックからはkZmさんの日常が伺えます。

kZm:だんだんと自然体なリリックを描けるようになってきた気がします。最初の頃は気を張っていたと思うし、いまはこの仕事に慣れたのかもしんないっす。

ーーリリックにおける日本語と英語の構成比も変わりました。現在は日本語ベースですね。

kZm:たしかに! 英語って、やっぱりカッコよく聞こえるからな……。いまは日本語を綺麗に聴かせられるように頑張っています。英語をファッション的に使うのはある種の逃げというか、韻のはずみで本来の意図と違う言葉を使うのは嫌だなって。

ーー素敵です。続いてはサウンド面についてですが、以前に楽曲の音色について「東京っぽさを出すのは負けない」と語っていましたよね?

kZm:東京っぽさ、出せてんのかな(笑)。出そうと思って出すもんでもないけど、俺らがニューヨークやパリをそう見るように、向こうの奴等も東京にしかない空気を感じてるらしくて。俺は『DESTRUCTION』制作当時、その空気感を自分たちを取り巻く環境で鳴っていたダンスミュージックに見出していたんすけど、実際に首都高からの景色とかによく合うんですよね。そのあたりが、俺の曲の東京っぽさに繋がっているのかも。

ーーあくまで前作段階での感覚ですか?

kZm:うん。いまはダンスミュージックに代わる新たな軸を、自分のなかで探し中です。

ーーちなみに、kZmさんがイメージする東京の若者とは?

kZm:友だちがたくさんいて、オシャレで、あとは長い時間遊ぶ子たち。いまのオシャレな子たちは、道玄坂にある翠月 -MITSUKI-とか、四つ打ちのハコに流れていった印象です。それこそ俺らが18歳くらいの頃は、街のキッズはヒップホップのハコにいたけど、2020年頃から消え出して。当時は結構マズいなって感じていました。

ーーなるほど

kZm:あと、途中でひねくれると、後ろの方で腕とか組んじゃう系になるし、俺自身もそういう奴等を見てきたけど、あれはよくない。フロアで踊れる若者になってください。パーティはちゃんと楽しめた方がいいから……いや、やっぱりこれも難しいっす(笑)。

■「ネガティブな感情抜きにリリックなんて書けない」

ーーkZmさんの表現においてある種のフラストレーションが制作の礎になっている節はありますか?

kZm:というか、ネガティブな感情抜きにリリックなんて書けないっす。基本的には明るい性格だと思っていますけど、自分自身を追い込む癖があって。「これをこうしたら、よくないことが起こる。でも、それも創作のため」って思うと、そうしちゃうんですよね。

ーー過去3枚のアルバムそれぞれで、軸となったネガティブな出来事を聞くことはできますか?

kZm:まず『DIMENSION』だと、kiLLaを抜けたこと。自分が立ち上げたはずのクルーを辞めるって、意味わからないじゃないすか。しかも、こっちは初めてのソロ活動で不安を抱えてるのに、アイツらは海外でライブもして、絶頂期と言わんばかりで。あの頃は「全員まくってやる」と、物凄く意気込んでいましたね。ちなみに、いまはそんなことはまったく思ってないんで。「思ってないよ♡」って、ハート付きで書いておいてください(笑)。

ーーしっかりと“♡”付きにしておきます(笑)。

kZm:『DISTORTION』は逆に、制作がすごく順調だった。1年間くらいで完成したのかな。細かいエピソードはある気がするけど、ネガティブなのはそんなに。『DIMENSION』発表以降、アーティストとしていきなり売れて、ライブも忙しくて、あの作品とも1年間くらい向き合う時間がなかったことくらい?

ーー『DESTRUCTION』についてもお願いします。

kZm:『Pure 1000%』を作っていた、2022年の夏くらい。「このまま結婚するんだろうな」って思えていたほど、長く付き合っていた彼女と別れて。ふたりで飼っていた犬も死んじゃって。3人家族みたいなノリで過ごしていたのに、一気にひとりになっちゃって。色々と考えることがありました。あの時期は制作、De-void*(kZm主催のコレクティブ)での自主イベント『Jungle Clash*』と、我ながらよく働いていたとは感じるんすけど、そのぶん私生活ではすごく迷惑をかけちゃって。夏が終わって振り返ったら、誰もいなかった。

ーーその経験が、作品の軸になったと。

kZm:そうっすね。さっきの宇多田ヒカルさんの話じゃないけど、自分がやりたいことと求められるもののバランスを上手く取らないと、こういう結果になるんだって思い知りました。そういうストラグルや、当時の彼女に対する申し訳なさを引きずっていて、「晴れてるのに、雨みたいだわ」って気持ちから生まれたのが「DOSHABURI (feat. JUMADIBA)」。そこからアルバムが作られていった感じです。

■救われた楽曲、シーンへの意識、自信を支える大切な思い出とは

ーーここからは、本連載の共通質問となります。今後、kZmさん以外のラッパーにも、同様の質問をしていく予定です。まず自身の楽曲における“G.O.A.T”は?

kZm:好きな曲って解釈だと「Jordan 11 (feat. Gliiico)」。理由は……カッケえから。

ーーこれまでの人生で救われた楽曲は?

kZm:S.L.A.C.K.(現:5lack)の「NEXT」。俺もまだ高校生くらいだったのかな。でも、当時はまだあんまりラップを聴いていなかったので、後追いだった気がするっす。日本にもこんなにカッコいいラッパーがいるんだって、救われた気持ちになれました。

ーー具体的に、どのあたりが好きですか?

kZm:〈考え込むな 考え込むな〉っていうフックのライン。そうやってポジティブに歌っていながらも「いや、それはもう考え込んだ奴からしか出ない言葉だろ(笑)」って笑ったのを覚えてる。発声の仕方も含めて、聴き手に「じゃあ、この人はなにを考えてきたんだろう?」って、背景にある物語を考えさせるのもすごいし、俺自身もそんな曲を作りたいっすね。

ーーこれまでの人生を振り返って、いまだからこそ語れるエピソードは?

kZm:これは迷うけど……「Forever Young」のリリックの話とか? まだ実家に住んでいた19歳とか20歳の頃、お金はもちろんなくて。でも、働きたくもなくて。そんなある日、友だちといつも通りに集まっていたら、溜まり場にできるようなスペースを見つけたんです。「アッツ!」って思って……俺らで住むことにしたんです(笑)。

ーーなんと(笑)。

kZm:UKで言うところの“スクワット”的なノリ? 必要な家具を揃えて、友だちみんなでずっと一緒にいて。もちろん、いまの方がお金も環境面でも恵まれてますけど、あの時間はなににも代え難いくらいに楽しかった。いまの俺を支えてくれる思い出です。

ーーヒップホップは、今後もカウンターカルチャーであり続けるべきだと思いますか?

kZm:いや、そもそもカウンターカルチャーであり続けること自体が不可能。カウンターの概念って、ずっと変わらないものに対して生まれるので、“カウンターであり続ける”のは矛盾してる気がする。

ーーそれでは「STAR」で〈もともとは この音はカウンター〉とラップした意図を教えてほしいです。

kZm:俺があの曲で伝えたかったのは、ヒップホップは決してポップスじゃないってこと。いまの日本だと、そうなりかけてるじゃないですか。

kZm - STAR

ーー同感です。

kZm:言わずもがな、そのおかげで俺らもこんなにいい生活ができているし、大前提として普通に感謝してる。ただ、影響力のあるラッパーが特に気をつけるべきは、広め方や扱い方。誰かひとりでもミスったら、世間から即座にダサいものとして扱われるに違いなくて。

ーーおそらくそうなりますね。

kZm:俺らがヒップホップに触れた中高生の頃は、いまと違ってクラスで聴いていたのもほんの数人くらい。「俺、こんなやべー音楽を聴いてんだけど?」って、みんなが知らないカッコよさに惚れていたはず。もし俺がいまの中高生だったら、ラップをする選択はまず選ばないです。

ーーそんな現状で、kZmさんは今後、シーンのどんなポジションに立っていきたいと考えますか?

kZm:入り口であり、出口でもある存在。俺自身、曲ごとに“深さ”を変えているつもりだから、kZmの音楽を聴いて、そのままkZmで終わるもよし。とはいえ、ひとつのジャンルにしか触れないのはマジでもったいないし、いまはAIやプレイリストのせいで自分の趣味がどんどん狭い方向に行きがちで、新しいものに流れていきづらいんすよね。いまの若い子たちには、色々な音楽を聴く方が楽しいよって伝えておきたいです。

ーー年齢を重ねて若さを失うことに、アーティストとして苦悩を感じますか?

kZm:謎の自信だけど、当面は大丈夫そうかな。

ーーkZmさんは過去一度も東京を離れたことがないですが、たとえば移住を考えたりは?

kZm:たまに考えますよ。それこそ最近も「もし子どもが生まれたとしたら、東京から外れるのもいいのかな?」なんて思っていました。

ーー自身が育ったのと同じく、子どもにもクラブカルチャーにアクセスしやすい環境を与えたいとは考えない?

kZm:本人の好きに選ばせてあげたいですけど、俺が東京以外の場所に出てみたいっていう気持ちが強いかも。そうなったら、作る音楽もまた変わってくるはずだし。あと、老後を迎えたら、家で野菜とか育ててみたいっす。

(文=whole lotta styles)