Amazon Ads、「ロスリーダー戦術」で大手DSPに挑む 狙いは非エンデミックブランド

記事のポイント
Amazon Adsは、DSP市場での存在感を高めるため、手数料の引き下げや報奨金制度を導入し、メディアバイヤーとの関係強化に乗り出している。
インターフェースの刷新や人的リソースの投入など、ユーザー体験とサービス水準の向上にも力を入れ、特に非エンデミック広告主の獲得を狙っている。
GoogleやTTDが市場で優位を保つなか、Amazonはブランド広告予算の獲得やファネル上部での活用を通じて、競合との差別化を模索している。
Amazon Adsは、DSP市場での存在感を高めるため、手数料の引き下げや報奨金制度を導入し、メディアバイヤーとの関係強化に乗り出している。
インターフェースの刷新や人的リソースの投入など、ユーザー体験とサービス水準の向上にも力を入れ、特に非エンデミック広告主の獲得を狙っている。
GoogleやTTDが市場で優位を保つなか、Amazonはブランド広告予算の獲得やファネル上部での活用を通じて、競合との差別化を模索している。
Amazon Adsが、自社のDSP(デマンドサイドプラットフォーム)であるAmazon DSPをプログラマティック・プロバイダーの定番としてみなすところを増やそうと、業界中のメディアエージェンシーに働きかけている。米DIGIDAYが話を聞いた11人のメディアバイヤーによると、意思決定者に対するAmazon Adsの売り込みでは、新しくなったインターフェース、コネクテッドテレビ(CTV)のインベントリー(在庫)などが強調されており、一部では、金銭的なインセンティブも提案されている。広告主基盤を拡大して、非エンデミックブランドをさらにとりこみたいのだ。
業界全体を説き伏せることはとてもできていないが、メディアバイヤーの注目は集めている。市場シェアが極めて大きいザ・トレードデスク(The Trade Desk:以下、TTD)とGoogleのDV360の陣営も気にしているはずだ。
Amazonがバイヤーに提示しているもの
あるエージェンシーのバイヤーは匿名を希望した上で、Amazon DSPの関係者からあまり見ないオファーを提示されたと米DIGIDAYに語った。新たな広告主を代理して実施する、プライムビデオ(Prime video)を含む動画投資について、クライアントの購入額の10%相当を追加で提供する(上限25万ドル[約3630万円])と、Amazon DSP側が提示してくるのだという。彼らは米DIGIDAYに、Amazon DSPのファネル上部の機能を「プッシュする」売り込みの一環だと説明した。
また、同じく匿名の別のメディアバイヤーによると、AmazonはAmazon DSPに使う額をエージェンシーに増やしてもらおうと、通常の「技術料(tech fee)」、すなわち、エージェンシーがAmazonの技術を使う場合にDSPによって適用される料金を、半年間下げていた。Amazonは「技術料の引き下げにとても意欲的」だったという。このエージェンシーについては、技術料が10%に引き下げられていた。
料金はDSPによって異なり、関与するメディアエージェンシーで決まる部分もある(別のメディアバイヤーは米DIGIDAYに、このような料金は3〜15%のあいだだと述べている)ということはあるが、この話は、バイヤーとブランドに広告費の増額を説得する場合、スーパーマーケットが牛乳やパンに適用する「ロスリーダー(赤字覚悟のサービス)」と同じ理屈で、マージンを減らすことをAmazonが受け入れているということを意味する。
「どちらかのDSPを選択する段階にあるとしよう(中略)、Amazonが費用、料金、税の一部を持ってくれるのは相当大きな決断理由になるだろう」と、メディア・バイ・マザー(Media by Mother)でのアクティベーションのトップを務めるハリー・イングリス氏は語る。
「ジ・インフォメーション(The Information)」によると、Amazonはアマゾンウェブサービス(Amazon Web Services:AWS)を利用しているクライアントに対しても、広告支出の増額を誘うための値引きを提示している。
Amazon Adsの広報担当者は米DIGIDAYにメールで次のように述べている。「Amazon DSPでは、米国だけでも平均して2億7500万人以上いる広告付きサービスのユーザーに広告主がリーチできるよう支援しています。継続的なイノベーションにより、ひときわ高いパフォーマンスを達成しつつ、効率化とキャンペーン管理コストの削減を進めることを通じて、Amazon DSPをメディアバイイングに最良な場所にすることを我々は目指しています」。
「膨大な購買、ストリーミング、購買シグナル、さまざまな広告付きのプロパティ、および最先端技術を組み合わせることで、測定可能な形で業績を大規模に推進する有意義なつながりを、ブランドと顧客のあいだに生み出すことができます」。
アカウントサービスとユーザー体験のアップグレード
Amazon側の売り込みには人員の要素も含まれている。独立系メディアエージェンシーのコレクティブ・メジャーズ(Collective Measures)でブランドメディア部門のアソシエイトディレクターを務めるリア・ラム氏によると、ここ数週間、Amazonのスタッフから同社に、非エンデミッククライアントの支出をAmazonにシフトさせるように誘う働きかけがあったという。Amazonが多くの営業スタッフを準備したことで、コレクティブ・メジャーズがアクセスできるAmazon側の担当者は4人になった。「本当に力を入れている」とラム氏は言う。
事実、Amazonの担当者は「非エンデミック」の広告主を取り込もうと熱心に取り組んでいる。プライムビデオ、Twitch(ツイッチ)、Amazonのファーストパーティデータ(Amazonの市場をリードするコマースプラットフォームで構築されたもの)の提供のほか、自社が所有していない広告についても売り込んでいる。
メディアプラスUK(Mediaplus U.K.)でプログラマティック担当責任者を務めるマット・ウィルケ氏は、「Amazonはオープンウェブのインベントリーで我々にもっと利用してほしいのだ」と語った。
今年1月には、DSPのユーザーインターフェースの見直しを実施した。直観的ではないデザインのせいでその価値以上に面倒が上回っていると、長年、バイヤーの不満の種だった部分だ。ノーブル・ピープル(Noble People)のプロダクト責任者のジョン・グラディス氏によると、この改良で小規模エージェンシーがAmazon DSPをクライアントに推薦しやすくなった。
電通UKでアドレサブルメディアおよびトータルコマース担当マネージングディレクターを務めるジョン・タンカモニ氏は、「操作面は全般的に改善してきている。まだ改善の余地はあると思うが」と述べている。
Amazonの中核戦略
こうしたものはいずれも、新たなブランドの取り込み、既存クライアントの広告費の拡大、そして、より多くの小規模企業広告主の獲得というAmazonの大枠の戦略につながっている。
DSP市場におけるAmazonのロスリーダー戦術は、ストリーミングにおけるCPMの引き下げにAmazonが成功したことを思い出させる。DSPプロバイダーのトップ3の中でAmazonがもっとも積極的なのは明らかだが、行動を起こしているのはAmazonだけではない。
(メディア・バイ・マザーの)イングリス氏によると、現在、TTDを「主力」DSPにしているクライアントが多い。多くの広告主にとって、TTDはNetflixとディズニープラス(Disney+)への入り口であり、その座を、CTVのOSを開発することで固めている。TTDのこの優位性は「よそにない大きなセールスポイントのひとつ」だと同氏は語る。
TTDはまた、リテールメディアネットワーク(RMN)との提携によって提供しているオーディエンスターゲティングデータの質を強調しているという。コレクティブ・メジャーズのブランドメディア担当アソシエイトディレクター、ドミニク・ジョンソン氏は、会社に送られてきた販売促進資料を引き合いに出してそう語った。
一方、米DIGIDAYがバイヤーから聞いた話だと、Googleからはバイヤーにほとんど連絡がない。ジョンソン氏は、「『当社のDSPについて話をしませんか』という連絡はGoogleからは来ていないと思う」と語った。
メディアバイヤーが実際に重視していること
メディアエージェンシーはたいてい、プログラマティックバイイングに2つか3つのDSPを使い、ひとつを「メイン」、残りを「サブ」にしていると説明するのは、オムニコム・メディア・グループ(Omnicom Media Group)で動画およびプログラマティック担当シニアバイスプレジデントを務めるライアン・ユーサニオ氏だ。バイヤーの好みもあるかもしれないが、一般的に、DV360はYouTubeにアクセスできる、TTDはCTVインベントリーに厚みがある、Amazonにはコマースのデータがあるというように、各DSPの機能に基づき選択して、クライアントのニーズに応えるのだ。
また、バイヤーは提供されるインベントリー、ターゲティングのオプションの質と厚み、価格設定、顧客サービスなども考慮する。「何に力を入れているかという点で、パートナーによる違いは大きい」と、WPPのオグルヴィ(Ogilvy)ネットワークのパフォーマンスエージェンシー、エイコフ(Eicoff)でプレジデントを務めるディーリア・マーシャル氏は語った。
いずれにせよ、Amazonが自社のための広告市場を切り開きたければ、メディアバイヤーを通す必要があるということだ。
今は行動を起こすのにいいタイミングといえる。Googleは現在、事業の分割になりかねない歴史的な法的判断を控えている。アドテク企業のTTDは収益目標を逃して以降、大手エージェンシーのメディア担当者の不満の声が大きくなっている。
一方、広告主は不安定な経済環境のなか、予算をあらゆる点で精査しており、そこにはアドテク関連費用も含まれている。ガートナー(Gartner)のアナリスト、エリック・シュミット氏は、「以前より注意を払うようになっている」と話す。
ケプラー(Kepler)でビッダブルプロダクトリードを務めるジョナサン・ディスザ=ラウト氏は、「Amazonは、数年前にはパフォーマンスDSPだった」と言う。それが、ブランドからの投資を呼び込む取り組みを実施して、成果を上げつつある。今では、アドバタイザー・パーセプションズ(Advertiser Perceptions)の調査によると、米国の広告主の3分の2がAmazonのDSPを使用しており、2024年3月から同年9月の半年間で利用が18%増加している。
バイヤーにTTDやGoogleから離れてもらうにはまだ課題がある。一例として、Amazonのeコマースを通じて販売していない広告主や、ブランド構築キャンペーンを広く実施したい広告主に向けて、Amazonのユーティリティはまだ定まっていない。
リサーチ会社フォレスター(Forrester)のアナリスト、ニキル・ライ氏によると、Amazon幹部が目指しているのは、そのようなキャンペーンでも「信頼に足る」サポートができることを証明することだ。「行っていることはすべて、ファネル上部に進出し、ブランド予算のさらなる獲得に取り組み、非エンデミックデマンドを活性化することを目的としている」と同氏は語る。
TTDにコメントを求めてきたが記事の公開までに回答がなかった。
[原文:Amazon courts media buyers with loss-leader tactics to compete with other major DSPs]
Sam Bradley(翻訳:緒方 亮/ガリレオ、編集:戸田美子)
