指揮官も「30年で初めて」…窮地の横浜、逆転優勝への唯一の道。キーマンは「下手くそすぎてつらい」とこぼした西村拓真
先月末、ヴィッセル神戸との首位攻防戦に敗れて勝点差が4に開いた。相手の土俵に引きずり込まれての完敗だった。続く浦和とのルヴァンカップ準決勝では第1戦を1−0で勝利しながらも、第2戦で0−2と敗れて敗退。今季中に獲得できるタイトルはJリーグのみとなった。
その第2戦で先発出場した上島拓巳が前半途中に、さらに角田涼太朗が試合終了間際に顔面を強打してプレー続行が困難に。前者は経過観察ながら離脱が確定的な状況で、後者は下顎骨骨折で手術を実施。今季2度目の長期離脱を余儀なくされた。
相次ぐ長期離脱者に苦しめられている横浜は、特にCBのポジションで受難が続いている。この状況にケヴィン・マスカット監督が「5人のセンターバックがいて、4人がいない状況。自分は30年間指導者をやっているが、1つのシーズンでこれだけの選手が手術しなければいけない状況になったのは初めて」と頭を抱えるのも無理はない。
代表ウィーク明けの札幌戦ではCBの頭数が足りない危機に瀕している。同じように駒不足だったルヴァンカップ準々決勝・札幌戦の第2戦でボランチの喜田拓也をコンバートした経緯があり、今回も有力な一手となる。
メンバー選定ではない部分でのスタイルについて言及するならば、ポイントは原点回帰となる。攻守両面において様々な約束事を設けた結果、肝心要のアグレッシブさが薄れてしまった印象は否めない。演者も観戦者も楽しいのが横浜スタイルの真骨頂。ピッチ上でこれといった事象が起きないまま時計の針だけが進んでいったルヴァンカップ準決勝2試合は、誤解を恐れず言えば退屈過ぎた。
具体的に着手すべきは守備面ではないか。涼しい気候になってきた追い風を味方に、最前線からプレスに走る姿を取り戻したい。折しも水沼宏太が言う。
「守備の躍動感はもしかしたら今までとは違うところかもしれない。相手を見ながら行かなくてもいい時もあるけど、『あるけど……』という部分もある。そこは予測も含めて距離感よくできれば、連動してプレスをかけられる。攻撃も守備も距離感のところは課題がある」
横浜はプレスに行かなくなったのか、行けなくなったのか。結果としては同じでも過程を大切にするチームだからこそ、意識と共通理解が重要になる。行かなくなったとしたら、行けばいい。行けなくなったとしたら、行けるようにすればいい。
浦和に逆転負けでルヴァン敗退、CBに怪我人も...リーグ戦やACLに向け、問われる横浜指揮官のマネジメント力
プレスに走る大前提として、中盤と最終ラインが前傾姿勢を強めてプッシュアップする必要がある。ダブルボランチには強度が求められ、CBには後方のスペースを埋める走力が必要になる。現在の編成において、ここが弁慶の泣き所になっているのは百も承知。圧倒的な個の能力で問題を解決してくれた岩田智輝やチアゴ・マルチンスはもういない。
しかし、選手の特性に合わせてスタイルをマイナーチェンジしている時間的な猶予は残されていない。それで急場をしのげるならば、そもそも現在の状態になっていない。立ち返る場所があるのは、アンジェ・ポステコグルー監督時代から年月をかけてスタイルを構築してきた強みのはず。
強度高く、走ることが逆転優勝への一歩目だ。
連覇達成へのキーマンを挙げるとすれば、西村拓真だろう。
ナム・テヒが負傷で別メニュー調整中のため、トップ下を務められる人材は多くない。攻守両面に幅広く関与することが持ち味の背番号30にかかる期待は必然的に大きくなる。
ただし西村個人の近況は芳しくない。ルヴァンカップ準決勝・浦和戦の第2戦が終わると悔しさから涙を流し、「シンプルに自分が下手くそすぎてつらいです。自分のところでミスが多いし、中継地点になれていない。全然ダメです」と本音をこぼした。らしくないボールロストが目につき、自信を失っているようにも見えた。
度重なる戦術変更によって本来の良さを見失っている典型で、結果的に特長の1つである走力も影を潜めている。今季のトラッキングデータ走行距離ランキングで1位と2位にある名前は西村だが、それを記録したのは2節の浦和戦と開幕戦の川崎戦。半年以上の昔の話で、当時とプレーの性質が大きく変わっている指標となるデータと言ってもいい。
得点王を射程圏にとらえているアンデルソン・ロペスと共に最前線で躍動感を取り戻せれば、横浜が息を吹き返す号砲になる。前輪駆動になることがチーム全体を活性化させる近道だ。そのために西村が先陣を切る必要がある。
「相手は関係ない」とマスカット監督は常々言っている。見直すべきは自分たちのパフォーマンスや姿勢で、アタッキングフットボールを信じて続けることが逆転戴冠に向けた唯一の道となる。
取材・文●藤井雅彦(ジャーナリスト)
