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 ラーメンの探求をライフワークとし、年間700杯以上のラーメンを、エリアを問わず食べ歩く、“ラーメン官僚”こと田中一明さん。

 新店の開拓、知られざる良店の発掘はもちろん、地方に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介していることでも知られています。

 今回は、そんな田中氏に、2020年にオープンした都内の注目店を厳選してもらいました。今年の“東京ラーメン神セブン”、一挙にご紹介していきましょう。

2020年の最優秀新店はコチラ! 圧倒的な手間ひまがもたらす奇跡の1杯|『らぁ麺や嶋』(西新宿)

「しおらぁ麺」880円

 2020年6月14日、西新宿五丁目駅から徒歩5分の場所に誕生したのが、この『らぁ麺や嶋』だ。店主は、名店『支那そばや』と実力店『かしわぎ』で修業し、満を持して独立。名にし負う名店・実力店のDNAを受け継いだ1杯を実直に提供している。

スープは素材の持ち味が十二分に引き出された手間ひまの結晶

 オススメは、「しおらぁ麺」、「鰹昆布水つけ麺(しお)」等の塩系メニュー。山水地鶏(岡山産)・信玄鶏(山梨産)等の鶏に、本枯れ節・ゴマ鯖・白エビ・貝柱等を加え、それらのうま味を丁寧に重ねた出汁は、すべての素材の持ち味が十二分に引き出された手間ひまの結晶。

麺は店主が敬愛してやまない『支那そばや』の謹製。柳枝のようにしなやかで、スープをしっとりと絡める細麺だ

「醤油は醤油、塩は塩のありのままの魅力を伝えたい」との店主の思いから、淡麗系の中ではケタ外れにタレが存在を主張する構成となっていることも、特筆すべきポイントだ。

●SHOP INFO

店名:らぁ麺や 嶋

住:東京都渋谷区本町3-41-12
TEL:非公開
営:11:00~15:00、18:00~21:00
休:水・木曜

ラーメン×油揚げが“超”好相性の「中華蕎麦」|『中華蕎麦きつね』(芦花公園)

「中華蕎麦」850円

 2020年1月31日にオープンした『中華蕎麦きつね』。ロケーションは、京王線芦花公園駅のほぼ「目の前」という好立地。提供する麺メニューの柱は、清湯系の「中華蕎麦」と白湯系の「濃厚中華蕎麦」の2品。いずれも、トッピングとして大きな黄金色の油揚げがのった、キャッチーな1杯となっている。

啜り心地の良いうどんを彷彿とさせるシルキーな麺

 両品共に、出汁を構成する各種素材の魅力を差別なく引き出し、仲睦まじく共存・共栄させることで、単独の素材からでは成し得ない、ドッシリと地に根を生やしたうま味の「核」を表現することに成功。

 スープの味わいが、油揚げの甘みの輪郭をより一層際立たせる役割を果たしている点も、賞賛に値する。

●SHOP INFO

店名:中華蕎麦きつね(ちゅうかそばきつね)

住:東京都世田谷区南烏山3-3-1
TEL:非公開
営:11:00~21:00
休:水曜

鶏・昆布の滋味を存分に堪能できる「白河ラーメン」|『麺創庵砂田』(巣鴨)

「中華そば」780円

 こちらは2020年4月30日に東京・巣鴨にオープンした、福島県のご当地麺「白河ラーメン」を提供する実力店。

 スープは、厳正な温度管理の下、名古屋コーチン・はかた地鶏等のガラ・モミジを丁寧に炊き上げ、味蕾に沁み入る滋味と鼻腔潤う芳香を演出。合わせて、豚ゲンコツ・背ガラ等を駆使し、鶏をしっかりと支えるコクの土台を築くとともに、うま味の相乗効果を図るため、昆布等の乾物を縦横無尽に活用。レンゲを持つ手が止まらない味わいだ。

手打ちと手揉みでつくられる自家製麺

 妥協のない手打ち・手揉み作業を経て、数日かけて熟成させた自家製麺のクオリティも高い。唇から伝わるプルンとした食感は、一度体験すれば病みつきになること必至だ。

●SHOP INFO

店名:麺創庵 砂田(めんそうあん すなだ)

住:東京都豊島区巣鴨4-24-6 富士ビル
TEL:非公開
営:11:00~17:00(スープ・麺がなくなり次第終了)
休:水曜、第2・第4木曜

うま味の“宝箱”! 欲望を刺激する激ウマG系ラーメン|ウチデノコヅチ(経堂)

「ラーメン」850円に「パイカ(豚バラ軟骨の煮込み)」250円をトッピング

 2020年6月11日、世田谷区経堂にオープンしたのが、有名な昔話「一寸法師」に登場する宝具・打出の小槌の名を屋号に冠した、ガッツリ系の気鋭店。無料トッピングは、食券に自分自身で「〇印」を付けて選択する方式。麺の硬さ、ヤサイの量、アブラの量、味の濃さの4項目について、好みに応じたカスタマイズが可能だ。もちろん、基本メニューは「ラーメン」。

 2種類の豚骨の持ち味が余すところなく引き出されたスープの、類まれなほど芳醇なコクが同品最大の魅力。そんなコク深い味わいが実現できているのも、ひとえに、骨の1つひとつから全ての味を引き出したいという店主のこだわりの成せる業だ。

名門『三河屋製麺』製の平打ち麺を使用

 塩味(しょっぱさ)とうま味とのバランスがしっかり取れていることも、大きな特長だろう。この好バランスが、食べ終わりまで好感度が右肩上がりに上昇し続ける「カギ」となっている。

●SHOP INFO

店名:ウチデノコヅチ

住:東京都世田谷区経堂2-3-8 但馬屋ビル 1F
TEL:03-6339-2223
営:11:30~14:30、18:00~22:00
休:水曜

鶏の滋味がフワリそよぐ毎日でも食べたくなる良杯|『麺屋鈴春』(本郷三丁目)

「醤油らーめん」900円

 2020年9月2日、本郷通りと壱岐坂通りとが交差する壱岐坂上の袂に誕生したのが、この『麺屋鈴春』。駅で言えば本郷三丁目駅から徒歩3分ほどの場所に位置する。店主は、都内を代表する人気店『麺屋 一燈』のご出身。券売機筆頭メニューは「醤油らーめん」だ。

 着丼した直後から鶏の芳香が宙を舞い鼻腔を優しくくすぐる。奥久慈シャモ&大山鶏のガラに名古屋コーチンの丸鶏を丁寧に炊き上げ、持ち味を引き出した出汁は、アミラーゼの分泌が止まらなくなるほど、端整で分厚いうま味を誇示。

鶏出汁ベースの清湯系スープ

 醤油ダレの仕上がりも盤石だ。キレ味鋭い『岡直三郎商店』とコク深い『ちば醤油』の醤油をブレンドするなど、ラーメン作りの要諦を押さえたこだわりが随所で光る。

●SHOP INFO

店名:麺屋鈴春

住:東京都文京区本郷2-26-1 福重ビル 1F
TEL:03-6801-5233
営:11:00~15:00、18:00~20:00、土曜11:00~15:00
休:日曜

1杯に秘められた∞の可能性。トリコになる「中華そば」|『中華そば ふるいち』(羽村)

「中華そば」750円

 羽村生まれ・羽村育ちの店主が、多摩エリアのビッグネーム『ムタヒロ』での修業を経て、故郷に錦を飾る形で2020年10月4日に独立し開店したのがこの『中華そば ふるいち』だ。

 汁そば・つけ麺・汁なしの王道3品をしっかりと揃えるが、初めに召し上がってもらいたいのが、券売機の筆頭を飾る「中華そば」。

プルンとした麺肌が唇に優しい『新宿だるま製麺』謹製の縮れ平打ち中太麺

 鶏ガラ・豚ゲンコツ・煮干し・鯖節・鰹節等の馴染みの素材に加え、牛骨から出汁を採ることで、華やかな香りと芳醇なうま味を演出したスープは、飲み進めるにつれて、動物系素材に代わって煮干し素材の軸である「伊吹イリコ」の存在感が増しゆく、多素材共存型の仕様。

 また、肉感豊かな吊し焼きチャーシューも、この1杯にとって必要不可欠な盛り立て役だ。

●SHOP INFO

店名:中華そば ふるいち

住:東京都羽村市五ノ神4-6-9 東洋第5ビル1F
TEL:042-533-5203
営:11:30~15:00、18:00~23:00、日曜11:30~15:00(※新型コロナの影響により営業時間に変動あり)
休:月曜

ニボラー作りの名手が紡ぐ複雑玄妙な味わいに感服|『えどもんど』(西日暮里)

 2020年12月4日に西日暮里にオープンした、二郎インスパイア系ラーメンを提供する新鋭がこの『えどもんど』だ。
 
 店主は、東京・大門の煮干しラーメン専門店『中華そばいづる』を、その腕ひとつで都内を代表する人気店にまで押し上げた若手ラーメン職人のホープ。

 同店は「ラーメン(豚1枚)」が基本メニュー。

茹でムラが生じないよう巨大な釜で茹でられ、麺肌に傷が付かないよう平ざるで麺上げされる

 肉・骨・香味野菜などの天然素材からじっくりと丁寧に出汁をとったスープの味わいは、骨太かつ複雑玄妙。天然素材の旨みが口の中で紡ぎ出すハーモニーは、思わず丼を両手でつかんで直飲みしたくなってしまうほど魅力的だ。

 巨大な釜で茹でられ平ザルで麺上げされる自家製太麺の出来映えも盤石。不規則な縮れが絶妙な塩梅でスープを絡め取り、ワシッとした独特の食感が、味覚のみならず触覚をも恍惚の境地へと誘う。

●SHOP INFO

店名:えどもんど

住:東京都荒川区西日暮里5-31-9
TEL:03-3891-0662
営:11:00~14:30、18:00~21:00
休:月曜、第1・第3日曜

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。