韓国経済が土砂降り状態だ。原因のひとつはサムスンの業績悪化だが、それだけではない。韓国政府は個人消費の拡大を狙って、キャッシュレス決済を振興してきた。その結果、家計債務が膨張し、「カード破産」が急増しているのだ。国際エコノミストの今井澂氏は「いま韓国の国債は日本より格付けが高いが、この状況が続くとは考えづらい」という--。

※本稿は、今井 澂『2020の危機 勝つ株・負ける株』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

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9月19日、チョ・グク氏は文在寅大統領から法相に任命されたが、10月14日に辞任した。 - 写真=YONHAP NEWS/アフロ

■歴史の清算にこだわりつづける文政権と韓国

ご存じのように、徴用工問題に端を発した日韓の反目が尾を引いています。

この問題の是非について、私には一家言ありますが、ここでは申し上げません。

ただ、日韓の関係は反目とわだかまりに終始してきました。それは、1910年の韓国併合条約の以前から存在しましたし、日本が韓国を植民地にしてからはさらに深刻な対立を生みました。まして満洲事変からの15年戦争の間のことは言うに及びません。

文在寅大統領という人がいかに滅茶苦茶(めちゃくちゃ)か、ここのところずいぶん明らかになってきました。

■北朝鮮との平和経済が実現すれば日本に追いつく

彼は、歴史の清算にこだわった盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の大統領秘書室長だった人物です。大統領秘書室長という役職は、日本でいえば内閣官房長官に当たります。文秘書室長は「盧武鉉の影法師」という異名をとるほどの側近中の側近でした。

盧大統領は、大統領退任の翌年2009年に、不正献金疑惑で検察が調査を行う中、飛び降り自殺するという不審な最期を遂げたのですが、このとき国民葬の葬儀委員長を務めたのも文在寅氏でした。

8月15日は日本では終戦記念日に当たりますが、韓国では光復節です。ご存じのように、光復とは「日本による植民地支配からの解放」を意味しています。ちなみに、台湾にも同じ意味における光復節があり、こちらは10月25日です。

その光復節の式典で、文大統領はこう宣言しました。

「2045年の光復(=解放)100年には平和と統一で1つになった国、『ワンコリア』に向けて礎(いしずえ)を整備する。統一すれば、世界経済6位圏の国、国民所得7万〜8万ドル時代が開かれる」

演説の冒頭で文大統領が「日本の不当な輸出規制に立ち向かう」と強調したことからもわかるように、この宣言は日韓の現状を強く意識したものでした。

韓国を代表する通信社、聯合ニュースは「日本の輸出規制で迫られた国家経済の危機を、必ず乗り越えるという『克日』の意思を示した」と報じました。

式典に先立って開かれた会議では、文大統領が「北朝鮮との経済協力で平和経済が実現すれば、一気に日本の優位に追いつくことができる」と述べたといわれています。

■日米の影響力を排除したい「北の核」の存在

私は、文大統領のこうした発言の裏には「北の核」があると思います。

南北が統一したら、核兵器を保有する人口8000万人ほどの国ができ上がり、国土の広さも日本に見劣りしなくなります。もちろん、北朝鮮に多数分布するレアアースなどの資源を考えれば、経済力でも工業力でもすぐに日本にキャッチアップできると夢を膨らませているのでしょう。

今井 澂『2020の危機 勝つ株・負ける株』(フォレスト出版)

南北統一は民族的悲願であることは確かですが、日本と互角に渡り合える国になることも文大統領の大きな狙いです。要するに、中国を後ろ盾にした統一国家として日本に向き合い、日本の背後にいるアメリカの影響力を削(そ)ごうとしているのです。太平洋の支配をアメリカと二分したいと考える中国と文在寅大統領は、阿吽(あうん)の呼吸で結びついています。

当然のことながら、アメリカもこのことは百も承知です。

だからというべきか、トランプ大統領は文大統領を毛嫌いしています。トランプ大統領は金正恩委員長とうまくやっているため、文大統領とも良好な関係を築いているように見えますが、じつはまったく違います。今回のGSOMIA(ジーソミア)破棄の件でも、トランプ政権は文大統領をどうしようもない人物と考えているようですが、当の本人はアメリカとは対等に話し合えるし、日本に対しても強いことがいえると一方的に勘違いをしているようです。

■国際勢力図を揺るがしかねない韓国の南北統一

私が思うに、アメリカは北朝鮮と新しい関係をつくっても、朝鮮半島の統一については阻止するでしょう。

つまり、中国を後ろ盾にする統一国家の誕生を許すことはないと思います。それをやってしまえば、世界のパワーバランスは変わってしまいます。すでにクリミア半島をロシアに盗られているのですから、朝鮮半島が中国の支配下に置かれることまで座視するはずはないと思います。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/theasis

さて、日本政府は、対韓半導体向け素材の取り扱い制限の強化を決め、このことで日韓の軋轢(あつれき)が深まっています。韓国側は、徴用工問題に対する日本の感情的ないじめ行為であると決めつけ、WTOに提訴しました。

韓国の言い分を信じる日本のマスコミやジャーナリストもいるのですが、この問題はじつは奥が深く、表面的な解釈では見方を誤ります。

■サリンや大量破壊兵器の必須原料を横流しした可能性

韓国に輸出していた半導体向け素材については、買い手であった韓国企業の一部が自社消費では説明のつかない消費を、3年間にわたって行っていたことが判明しています。世耕経済産業大臣(当時)がツイッターで、韓国への輸出制限を行った理由として「不適切事案があった」と投稿しましたが、不適切事案とはおそらくこのことです。

この素材は、サリンなどの毒物や大量破壊兵器の必須原料であるため、日本政府としては100%明確な使途の説明をするよう求めてきました。それを韓国は特恵国の立場を理由に説明を拒否してきました。

自社消費で説明のつかない消費は納入量の3割程度といわれ、横流しの疑いが濃厚です。横流し先は中国ではないかと疑われています。タイミングがタイミングだっただけに、徴用工問題に対する報復と受け取られた面がありますが、これは安全保障上のきわめて重要な問題だったのです。

もちろん、アメリカもこのことはよく知っています。

アメリカは半導体の対中輸出を法律で禁じたくらいですから、韓国一部企業による中国への横流しを見逃すとは思えません。というよりも、日本の対韓輸出規制は、日米合議の上のことであった公算が高いのです。

これからは中国への横流しを防ぐために、何やかやと韓国への締めつけ強化が行われるに決まっています。ですから、韓国経済は力を削がれることはあっても、盛り返すことはないでしょう。

■企業の信用度が著しく低下し、もはや土砂降りの中の韓国経済

いま韓国は、つるべ落としのように経済の悪化が進んでいます。

韓国は外需依存の国で、韓国GDPの18%、輸出の21%はサムスングループが占めています。韓国はサムスンで食べている国といっても過言ではないのです。ですから、サムスンの業績を見れば、韓国経済が今後どうなるか、簡単に予測が立てられます。

写真=iStock.com/georgeclerk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/georgeclerk

そのサムスンの業績悪化が止まりません。

そもそも文政権は、サムスンなどの財閥企業を「庶民の敵」とみなして解体政策を進めてきました。しかし、米中貿易戦争が起こり、輸出への依存が高い韓国経済が打撃を受けると、文大統領はサムスンに対して手のひらを返したように、「政府も積極的に助ける」と言い出しました。

最近ムーディーズが出した報告書では、「韓国の民間企業24社のうち13社についてネガティブな見通しまたは格下げを検討している」としていますが、そこにはポジティブな見通しと評価する会社はひとつもありませんでした。また、報告書では、今後12カ月間で韓国企業の信用力が一段と低下するとしています。

韓国政府が国民をクレジットカードの“借金漬け”にした

韓国経済の頭上に、いかに土砂降りの激しい雨が降っているか。

加えて、韓国が抱える家計債務の問題に対する懸念もあります。韓国の家計債務は現在、GDP比で97%と世界有数の水準です。

どうしてそんなに高いのか、それは政府がそのように政策誘導したからです。韓国では、1997年にIMF管理に陥って以来、それまで普及していなかったクレジットカードを広く普及させ、税優遇措置で「家計の債務拡大による個人消費の拡大」を推し進めました。どういう税優遇かといえば、クレジットカードによる消費を所得控除するというものです。

このため韓国では個人消費額におけるクレジットカード決済額は80%に及び、世界に冠たるキャッシュレス国家になったのです。

しかし、すでに自営業者の借金の延滞率が急上昇しており、景気の減速に伴って返済不能が急増すると見られています。

韓国の国債の格付けは日本より高いが、再び通貨危機のリスク

いまのところ韓国の国債の格付けは日本よりも高い「AA」レンジであり、それほどリスクが意識されているとはいえません。しかし、文大統領の中国接近政策とちぐはぐな経済運営がつづけば、いつそのリスクが意識されるともかぎりません。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/robertsrob

私は、南北の合邦問題や北朝鮮問題、そして中国への迂回(うかい)貿易に絡んで、アメリカが韓国売りを仕掛けてくる局面があるのではないかと考えています。韓国で最初にアウトになるのは外貨準備です。そのときは韓国通貨危機がやってくると思いますが、どうなることでしょうか。

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今井 澂(いまい・きよし)
国際エコノミスト
1935年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、山一證券入社。山一證券経済研究所、山一投資顧問を経て、日本債券信用銀行顧問、日債銀 投資顧問専務、白鷗大学経営学部教授などを歴任。主な著書に『シェールガス革命で復活するアメリカと日本』(岩波出版サービスセンター)、『経済大動乱下! 定年後の生活を守る方法』(中経出版)、『日本株「超」強気論』(毎日新聞社)、『恐慌化する世界で日本が一人勝ちする』『日経平均3万円 だから日本株は高騰する!』『米中の新冷戦時代 漁夫の利を得る日本株』(以上、フォレスト出版)など多数。公式ウェブサイト
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(国際エコノミスト 今井 澂)